4-8

 過去の写真から当時に思いを馳せながら少しずつ前へ進み、そのパネル展示が終わった頃には目の前に今日の会場へ繋がる体育館の入り口が構えていた。

 戸惑う気持ちを深呼吸で一度落ち着けて、勢いよく戸を引いて中に入る。

 強い光で照らされる体育館にはテーブルが等間隔に置かれ、撮影の時にしか見たことのないフレンチの料理が並び、そこを囲むように同級生たちが成長した姿を披露していた。

 スーツやドレス、更には着物などそれぞれが歩んだ道を象徴するような服装に身を包んでいる。

 それに対して、服装自由と記載があったのでパーカーとジーンズで来た私は場違い感が強く、もう少し綺麗に整えておけばよかったと悔やまれていた。


「…………美乃莉?」


 どこを見回してもおしゃれな人たちの中から誰かに呼ばれて、きょろきょろと周囲を見回す。その内の一人と視線が合い、こちらを向いて様子を窺うように覗き込んでいた。


「……圭?」

「やっぱり美乃莉だ!」


 他の人たちと違ってドレス姿ではないけれど、綺麗に服装をまとめているかつてのクラスメイトの圭がこちらに手を振ってくれていた。

 そのままこっちへ駆け寄り、明るい笑顔でお互いの手を取り合う。歳月は経っても、その明るさは昔と何も変わってはいなかった。


「久しぶり」

「本当に久しぶりだよ。中学出てからずっと戻ってこなかったから、どうしてるのかずっと心配だったんだ」


 よほど気にしてくれていたのか、握る手の力が少し強くなる。よく見ると、手は中学の時よりも肌荒れや怪我の後で随分とボロボロになっていた。

 蔑ろにするつもりはなかったとはいえ、あれからずっと勉強や仕事で忙しく電話の一本もかける余裕がなくいそれを今にまで引き摺ってしまっている。

 今になって、もう少しこっちにも連絡すれば良かったと小さな後悔が生まれてしまった。


「今の美乃莉はカメラで仕事してるの?」

「一応はね。でも、まだ目標に届いてるわけじゃないよ」

「自分のやりたいことで生活してるなんて凄いじゃん。私なんて大学の頃からフラフラした挙句、清掃員のパートやってるんだから」


 陰りのある気持ちを隠して友達の今を聞いていると、その変わり様に最初は驚いてしまう。しかし、本人は昔の快活さを残したままで、今の生活にも何処か満足そうだった。

 変わらず元気そうにしている様子に、自分の表情もようやく綻んでいく。

 あの頃にしていた何でもない会話が今も続いているみたいで、それが苦労話だったとしても楽しそうにしているのに耳を傾けるだけで過去に戻れたみたいだった。



 それからしばらくは、お互いに近況を報告し合っていた。

 通っていた高校や大学のこと、就職してからの大変だったことや嬉しかったこと、同級生の結婚話など話題には事欠かず、その場で数十分以上も積もる話で盛り上がっていた。


「昔も放課後になるとこんな風にしてずっと喋ってたよね」

 

 喋って笑ってを繰り返し、昔の思い出にもどっぷり浸かった圭がぽつりとそう呟く。


「そうだよね。皆でこんな風にワイワイやってさ」

 

 私も同意して、その時の光景を思い出しながら答える。




 あの時は、西日が差し込む教室に圭と私が笑っていて。

 今みたいに当時のテレビや授業のことで盛り上がったりして。

 そんな風に時間を潰していると、教室の戸が開いて——。


「そういえば」


 そこへ、桃白色の髪の女の子が入ってきて。



「コハル、何処かで見かけなかった?」



 夢のあの子が、私たちに微笑みかけていた。

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