スキルが美少女になりまして ~俺を裏切り、パーティから追放した親友と幼馴染たちを見返してやるために、目覚めた『スキルを擬人化する』能力で生まれた女の子たちと冒険へ出かけます~

@uruu

第一章 名も無き冒険者の旅立ち

プロローグ  突然の追放



 「どういうことだよアルフォード?!」


 無様に地面にひれ伏す俺は、冷たく見下ろしてくる目の前の男に叫んだ。

 

 アルフォード=ゼクエス。

 

 神から与えられた唯一無二のスキル、『英雄の力』を持つヴェザレート学園歴代最高の生徒と称された男。

 

 そして、俺のたった1人の親友――だと思っていたのに……!

 

 「パーティから抜けろって、いきなりなんでそんなことを言うんだよ?!」

 

 冒険者となり、初めてパーティとして出動したこの日。

 街から出てすぐの森に足を踏み入れ、出てきた魔物を倒したりしながら順調に進んでいた矢先のことだ。

 唐突に俺はアルフォードから突き飛ばされ、しかもパーティの追放を言い渡された。

 

 理解が追い付かないのも当然だ。だって、ほんの数分前まで仲良く行動を共にしていたのに。

 俺が何かミスを仕出かしたのか? アルフォードの逆鱗に触れてしまったのか?

 

 すると、俺の叫びを聞いたアルフォードは、ひどくいびつな笑みを浮かべて俺に向き直った。

 

 「はっ…………この日をずっと待ってたぜ。役立たずのお前を捨てられるこの瞬間をよぉ」

 「やく、たたず……?」

 「ああ? お前、まさか自覚してなかったわけじゃねえよな? あんだけ周囲からゴミ扱いされてきたのに」

 「…………!」

 

 そうだ。確かに俺はつまらないスキルしか持たず、周りの皆から見下されていた。それに引き換え、アルフォードは神に選ばれたとしか思えないスキルを獲得している。

 

 アルフォードだけじゃない。ここにいる皆がそうだ。アルフォードの友達のワイズ、その恋人のキャシー。さらに、アルフォードにほのかな想いを寄せているロリエッテ。


  そして、アルフォードの恋人であり、俺の大切な幼馴染であるレイシアもそうだった。

 

 そんなヤツらといつも一緒にいるから、アルフォードの腰ぎんちゃく。アルフォードのパーティに入って不当な評価を得ているクソ野郎、などとよく馬鹿にされてきた。


 でも、そんな俺を守り、心が折れそうな時は優しくはげましてくれたのは他ならぬアルフォードたちだ! だから俺はここまでやってこれたんじゃないか!

 

 「はっ、なんだよその目。まさか、本気で信じていたのか? オレたちが、お前ごときを仲間だと思っていた、と」

 「…………っ」

 

 アルフォードの言葉が信じられなくて、ヤツの傍にいるレイシアに顔を向ける。すると、彼女はつまらなそうにみにくく微笑んだ。

 

 「アルの言う通りよ、エリオン。みんな、アンタの存在にはいい加減うんざりしていたの。もちろん、あたしもね?」

 「そ、んな……だって、レイシアは、子どもの頃からずっと……」

 「ええ、そうよ。子どもの頃からうっとおしくて仕方なかったわ。ただ家が近所だったってだけで、アンタの御守を押し付けられて。あたしはアルと一緒にいたかったのに、トコトコトコトコいつまでもついてきて」

 「ははっ、お前、レイシアのことが好きだったもんなぁ? ガキの頃からずっと。よくお前からレイシアの話を聞かされてたぜ。オレとレイシアが付き合うことを知った時のお前のあの顔はいま思い出しても笑えてくるっ。ぎゃははっ」

 「やめてよー、あたしにとっては黒歴史なんだから。……まあ、あの顔はケッサクだったけどね!」

 

 そうして2人は仲むつまじく笑い声をハモらせる。

 これは、現実なのか? 夢じゃないのか? 目の前の光景を受け入れることができなくて、俺はさらに周りにいるみんなに視線を配った。


 ワイズはアルフォードと同じく嘲笑を浮かべ、キャシーはゴミを見るような目。ロリエッテに至ってはすぐに顔を逸らしてしまう。

 

 この場に俺の味方はいない……その冷たい事実が、俺の小さな期待を完全に打ち砕いた。

 

 俺はガクリと頭を落とし、するとアルフォードたちの馬鹿笑いがさらに大きくなる。項垂うなだれる俺の姿が、よっぽど滑稽こっけいに映ったのだろう。


 

 どうして、どうしてこんな事に……。


 

 とてつもない絶望と悔しさが胸を埋め尽くしていく中、俺の脳裏には、アルフォードたちと過ごしたこれまでの日々が走馬灯そうまとうのように蘇っていた――。

 

 


 ◇◆◇

 


 

 レイシアとアルフォードとは子どもの頃からの付き合いだった。同じ村の、同世代という、いわゆる幼馴染の関係。だから、何かと比べられるのはしょうがないことだった。

 

 アルフォードは体格が優れ、運動神経もずば抜けて良かった。だから剣術を含めたあらゆる体術を早いうちに習得し、大人たちから神童しんどうとして讃えられていた。

 レイシアは子どもの頃から魔力値がすごく、大人でも使えない魔法を発動させることができた。その上、勉強もできて、誰にでも優しいモンだから、村の多くの男たちが彼女に淡い恋心を抱いていた。

 

 それに引き換え、俺はグズで要領が悪く、目立った才能なんてものはなかった。この気弱で内気な性格も、ずっと2人と比較されてきたせいだろう。実の両親からも半ば諦められていて、せめて人並みの生活さえ遅れればいい、と溜息混じりによく言われたものだ。

 

 そんな待遇だったから、俺はよく他の子どもからよく揶揄からかわれていた。村の人気者である2人と仲が良かったやっかみもあるかもしれない。

 道ですれ違う度に悪口や軽いちょっかいを受け、1人っきりの時は人気の無い所に連れていかれて集団で暴行を受けた。


 「やめろ! エリオンをイジメるな!」

 

 その度に、駆けつけてくれたアルフォードがいじめっ子たちを追い払い、

 

 「怪我は無い、エリオン? あたしたちが来たからもう大丈夫よ」

 

 ボロボロになった俺を、レイシアは優しくなぐさめてくれた。

 


 こうした関係は、俺たちがヴェザレート学園に入学してからも同じだった。

 


 冒険者を育成するための教育施設、ヴェザレート学園。そこに入学しても、アルフォードとレイシアの輝きは衰えることなく、むしろ誰よりも煌々こうこうと光を放っていた。様々な試験で驚異的な数値を叩き出し、特にアルフォードはヴェザレート学園歴代最高の生徒と持てはやされた。

 

 当然、2人の周りには常にたくさんの人がいて。冒険者として活動するためにはパーティを組む必要があったのも理由だろう。誰もが2人とのパーティ結成を希望し、最下位が定位置の俺は、その光景をクラスの端っこから眺めているしかなかった。


 それでも、2人は俺を見限ることはしなかった。明らかに分不相応なのに、パーティに迎え入れてくれた。周囲からの反対を押し切り、強力な能力を持つ仲間をパーティに加えても、それだけはかたくなに貫き続けた。

 

 入学してしばらくして、アルフォードとレイシアが恋人同士になったと知らされた時も。

 2人は、変わらずに俺に接し続けてくれた。

 

 正直、俺はレイシアのことが好きだった。だって、しょうがないじゃないか。村で唯一と言ってもいい、俺に優しくしてくれる女の子だったんだから。

 だから、2人が付き合ってることを知った時はショックだったけど、でも、喜ばしくも感じていたんだ。俺なんかじゃ、彼女を幸せにできるはずがない……それ以前に俺なんかに振り向いてくれるはずがない。


 それよりも、2人の幸せを祈ろう。アルフォードなら、きっとレイシアを幸せにしてくれる。


 悔しさなんてなかった。それどころか、こんな俺を見捨てずに友達と呼んでくれる。それが本当に嬉しくて、少しでもパーティの役に立ちたかったから、どんな雑用も進んでやってきた。

 その姿が、アルフォードたちにこびを売っている、と他の人から見られたのかもしれない。だけど、それでもよかった。

 

 アルフォードとレイシア。

 2人さえいてくれれば、俺は他に何もいらない。



 

 ――そう、思っていたのに……!


 

 

 「どうして……そんなに俺のことが邪魔だったら、なんであんなに俺のことを気遣ってくれたんだ?! 優しくしてくれたんだ?! パーティメンバーとして迎え入れてくれたんだよ?!」


 込み上げてくる怒りをそのままに、俺はアルフォードに向かって怒鳴った。

 

 「最初はそのつもりだったさ、オレたちも。お前みたいなクズなんて一緒にいたくもなかった。でもな、気付いちまったんだよ。ガキの頃にな」

 「気付いた?」

 「ああ。お前を助けるだけで大人たちが褒めてくれる。賞賛しょうさんしてくれる。お前を助けることは、いずれ英雄となる俺にとって必要な投資だったんだ」

 「投資……俺に優しくしてくれてたのは、ただ自分の評価を上げるために……?」

 「当然だろ。利益が無くて、誰がお前なんか助けるか。考えてみりゃ、英雄ってのは弱者を助けるものだからな。実際、お前がいてくれたおかげで俺の学園生活は順調そのものだったよ」

 「はっ、よくゆーぜ。エリオンが徹底的にしいたげられるように、裏でそいつの悪評を流してたくせによ」

 「な……っ?」

 

 ワイズの口から明かされた、思いもよらぬ情報。

 唖然あぜんとしている俺の前で、アルフォードが不満そうに眉根を寄せた。

 

 「だって、そーでもしねーと学園のヤツらがこいつをちゃんとイジメてくれねーじゃんか。一応、こいつのバックにはオレがいることになってんだからよ。ちゃあんとあおっておかねえとさぁ」

 「ひでえヤツ。一応、小さい頃から一緒だった幼馴染だろうに。学園でのこいつの評価がどんなモンか知ってんだろ? 正直、おれたちのパーティメンバーじゃなかったら冒険者登録どころか街から追放されててもおかしくないくらいだぞ」

 「ぎゃははっ! だからおもしれーんじゃねえか! オレたちのせいで学園生活が最悪になってんのに、本人はそんなこと知りもしないで健気けなげに尻尾を振ってやがるんだから。ホント、笑いをこらえるのが必死だったぜ!」

 「そこまで……そこまでするのかよ?! 自分の評価を上げるためだけに、人の人生をメチャクチャにして! お前なんかがっ、英雄なわけがあるかああ!!」

 

 どんな反論も、所詮しょせんは負け犬の遠吠え。それでも、叫ばずにはいられなかった。目から溢れ出る涙を堪えることはできなかった。

 

 だけど、のどが焼けるほどの絶叫も、アルフォードにとっては楽しみのスパイスでしかなくて。

 にんまりと笑みを濃くしたアルフォードは、ゆっくりと屈みこみ、俺に顔を近づけてきた。

 

 「おいおい、なにをそんなに怒ってるんだ? いつも言ってたじゃないか、オレたちの役に立ちたいって。だからそれを叶えてやったんだぞ? お前はイジメられる。それをオレが助ける。そしてオレの評価に繋がる。どうだ? これ以上に有効的なクズの活用法もないだろ? ぎゃははははは!」

 「……っ、くっそおおおおおおおおおおお!!!」

 

 もう限界だった。俺は跳ねるように起き上がり、アルフォードに向かって拳を振るう!

 

 でも、俺の攻撃なんてヤツからすれば止まっているのも同然なのだろう。ヒラリと軽くかわし、ついでに俺の脇腹に肘鉄ひじてつを見舞った。

 

 「ぶへえっ」

 

 潰れた声が口から漏れて、俺は再び地面に倒れ込む。そんな俺を笑い飛ばし、アルフォードは腰を上げながら言った。

 

 「じゃあな、クズ野郎。ガキの頃からの付き合いだが、それもこれまでだ。皆には魔物に食われて死んだ、とでも伝えておくよ。実にお前らしい最期だし、実際、これからそうなるだろうしな」 

 「へへっ、こんな森の中で置き去りになったらそりゃ魔物のエサになって終わりだわな。可哀想に、葬式すらまともにできやしねえ」

 「ま、一時ひとときでもキャシーたちのメンバーとして冒険できたんだから、このクズも満足っしょ? さー、こんな森なんてさっさと抜けちゃお」

 「さよなら、エリオン。こんな出会いじゃなければ、アンタももっとマシな生き方が出来たでしょうに。せいぜい、あたしたちと同じ村に生まれたことを恨むのね」

 「………………」

 「何してる。早く来い、ロリエッテ」

 「は、はい……」

 

 最後にロリエッテの足音が去っていって。

 

 やがて、連中の下品な笑い声も聞こえなくなって……。

 

 「ちくしょお……ちくしょお、ちくしょおおおぉぉぉ…………!!!」 

 



 静寂な森の中で、たった1人の慟哭どうこくだけが、いつまでも響いていた。

 


 

 

 

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