第2話 お兄ちゃん、だと?

「あれ、ここは?」


 美濃流は目覚めた。見たことも無い景色というか何もない草原のど真ん中。東西南北、草っ原である。空は青く、雲が浮かんでいる。一見、地球とも思えるが雰囲気がなんか違う。え、マジで転生したの?


 そうかあ、今度は異世界かあ。大きく深呼吸をしてみた。うーん、綺麗な空気だ。すでに満足して死んだはずだったが、生き返るとそんな事はどっかにいってしまいこの世界を楽しもうと思った。美濃流は冷静になって持ち物を確認する。着ている服は明らかにコスプレというかファンタジーに出てくる村人だ。皮の帽子に皮の服に布のズボン、靴は何だろう?皮靴みたいだけど何の皮だこりゃ?肌は日本人みたいな感じで特に変わった感じはしない。腰にはナイフ、肩に木製のバックラー、うん冒険者風だね。


「鑑定!」


 何も起きない、マジか。


「ステータス オープン」


 何も起きない。マジか。


「マハロクマハリタバンバラバンバンバン、テクマクマヤポンキラキラ金曜日、ピーリカピリカラ麻婆豆腐、エロエロエッサイム宮殿、開け〜マゴ、へんーしん、…………」


 何も起きない。もしかしておいらは世界一不幸な転生者?なんてこった。


 諦めてもう一度持ち物を確認する。さほど綺麗ではないショルダーバッグにおにぎりが二つ、小銭入れに銀貨5枚と銅貨10枚。これが多いのか少ないのか?ルーペみたいな物とあとは水筒に水が入っていた。転生の恩恵って何?


 と、その時背後から何かに抱きつかれた。背中にほのかな膨らみが当たる、これはもしや!


「お兄ちゃん。やっと目が覚めたんだね、良かった。あのまま死んじゃうかと思った」


 振り返ると中学生位の美少女がいた。半袖シャツにショートパンツ。眩しい太もも。上から76、55、76ってとこかな。前世では犯罪レベルだが戦国では十分に結婚できる、この世界ではどうなんだろう?なんにせよ、きたぞきたぞここから始まるハーレム伝説。??そういえばお兄ちゃんってのはおいらのことかい?


「こんにちは」


「こんにちはってお兄ちゃん。大丈夫?頭とか打ったの?」


「ええと、どちら様で?」


「ふざけないでよ。ただでさえ不安なのに。リコよリコ。可愛い妹のリコ!」


 自分で可愛いつけるとは痛い子なのかな。まあ確かに可愛いけど。


「こんなに可愛い妹がいたのか。でも覚えてないのです。それで私の名はなんてーの?」


「本当に覚えてないの?カツヨリ兄ちゃん」


 えええええっ!俺ってカツヨリなの?これも何かの縁か、ってんなバカな。偶然ではなく必然ってやつか。だとすると…………、うん、わからん。


 気を取直して色々聞いてみた。カツヨリとリコはヤンギュー国のシュール町に住んでいる。両親健在、シュール町は僻地で都からはかなり離れているらしい。シュールの町では12歳からは大人扱い、働かざる者食うべからずだそうだ。カツヨリは16歳。今日はリコが12歳になったので初めて狩に連れて行った。初めての狩ではしゃぐリコだったが、そこにフォンラビットが3頭現れた。フォンラビットはウサギの魔物だ。肉が美味いので良い値で売れるし、さほど強くないのでカツヨリには美味しい獲物だったが、リコはいきなり目の前に現れた魔物に驚いてしまい森の奥の方へ走って逃げ出した。カツヨリは冷静にフォンラビットを倒した後、リコを追いかけた。


「おーいリコ、フォンラビットは倒したから帰っておいで」


 リコの走って行った方へ向かうと突然不思議な岩が現れた。ここにこんな岩があった記憶はなかった。岩からは青い光がレーザービームのように一点を照らしている。なんだろう?と近づいて行くと突然背後からリコに抱きつかれた。


「お兄ちゃん。この光るのって何?」


「リコか。何で逃げるかな、狩りに来た意味ないだろ」


 と会話していると、青い光がこちらに向かってきた。あっと思ったらそのまま意識を失った。




「というわけで、気づいたらこの草原にいたのよ。ここはどこなんでしょう?シュールの町の近くにはない雰囲気よね」


 全く覚えていない、ていうか俺転生したんだよね。名前と年齢はわかったけどさあどうしましょ。何がハーレムだよ、いくら可愛くても妹じゃあねえ。リコは話をしていくうちにカツヨリがショックで記憶を無くしたと信じ込んだ。まあ、これだけ何にも知らなきゃね。転生なんてわからんだろうし。



 とりあえず探検開始と歩き始めた。喉が乾いたので水筒の水を飲んでみた。うん、普通の水みたいだが、身体が潤う感じがする。どこまでいっても草原が続く感じがするけど、確か女神様は村に送るっていってたような。妹付きとは言ってなかったよね?リコと一時間ほど歩いたら小さな村が見えてきた。あれの事かな?お、いきなりなんかバトルってる?


「そっちに行ったぞ」


「任せろ!」


 3人の村人らしき大人が狼のような生き物を追いかけていた。


「ファイヤーボール」


 村人の手から火の玉が現れ狼に向かっていった。すげー魔法じゃんと思ったが、火は狼に当たったがあまり効いていないようだ。


「サンダードロップ」


 急に狼の上から稲妻が降ってきて狼を直撃した。狼の動きが一瞬止まった。痺れたのかな?


「今だ、打ちまくれ」


 村人は必死に魔法を打ち続けた。火、風、雷の魔法のようだ。狼に傷が増えていくが致命傷ではなさそうだ。狼は攻撃の隙をついて逃げ出した。あの狼、村人よりも強そうだけど3人相手は分が悪いと思ったのかな?だとすると頭も回るってことか、って、こっちにくるじゃん。


「ほう、こういう展開かあ」


 村人は走り出した狼を追いかけようとしてカツヨリ達に気づいた。


「あの子達が危ない」


 あの子達?そういえば16歳だった。前世と前前世合わせたら何歳だろ?なんて考えているうちに狼が向かってきていた。カツヨリはリコに離れてろ、と言ってナイフを抜いた。なんとなくわかる、俺は強い。


「陰流奥義 陽炎」


 一瞬の溜めのあとカツヨリの姿がぼやけた。そしてすれ違いざまナイフを振り抜いた。前世、戦国時代で出会った陰流の達人、剣聖 上泉伊勢守に喰らった必殺技を切磋琢磨し、自分の物にした自己流奥義だ。狼の首がスパッと飛び胴体が倒れた。えっ?ナイフの刃身で首が飛ぶの?おかしくない?その時、頭の中をファンファーレが鳴り力が急に増えた感じがした。ん?レベルが上がったのかな?


 村人が近づいてきて怯えるように話しかけてきた。


「何者だ。シルバーウルフを一撃で倒すとは冒険者か?」


「シルバーウルフと言うのですか?すいません、実は妹と狩をしていたのですが迷ってしまって。ここはどこなのでしょうか?」


「それは気の毒に。ここはラキーヌ村の近くだ。だが若いのに相当な腕前だな。で、その言いにくいのだが君が倒したシルバーウルフなのだが」


「あ、どうぞ。皆さんの獲物ですよね。横取りするつもりはありませんので」


「助かるよ。シルバーウルフは肉も美味いが毛皮が売れるし村の財政が…」


「おい」


 別の村人が余計な事は言うなとばかりに割り込んできた。割り込んでた村人が続けた。


「で、お前の要求は何だ?」


 こいつ上から目線だな。そうか、さっき少年っていってたからやっぱ16歳なのか俺。


「はい。実は記憶をなくしてしまいまして、この付近の事やこの世界の事を教えて頂きたいのです。さっき皆さんが使っていたのは魔法ですよね?魔法は誰でも使えるのですか?」


「何言ってるんだ。魔法が使えない奴なんていないよ。生きていけねえだろ」


「どうやって魔法を覚えるのですか?」


「それは子供の頃に大人に教わるに決まってるだろう。適性は神殿でわかるし」


 なあるほど。そういう事ね。ある年齢になったら神殿で魔法適性教わって体で覚えるって事か。


 リコが会話に割り込んできた。


「お兄ちゃんほーーんとに記憶なくしたんだね。すいません、ラキーヌ村という名前を初めて聞いたのですが、ここはヤンギュー国のどこら辺ですか?」


「ここはラモス国だぞ。ヤンギュー国ってどこだ?」


 リコの顔が真っ青になった。ヤンギュー国じゃあないの?ラモス国ってどこなの?


 カツヨリは何でリコが真っ青なのかわからずここはラモス国なんだねっと軽く呟いたがリコはまだ固まっている。カツヨリは村人に話しかけた。


「ここがラモス国というのはわかりました。ところで先程冒険者という言葉を使ってましたが。そのような職業があるのですか?」


「本当に何も覚えてないのか?シルバーウルフの礼もあるし、今日は村に泊まっていけ。明日町へ馬車で向かう者がいるから乗っていくといい。町に行けば色々わかるだろう。それにギルドもあるしな。君の腕なら冒険者で食っていけるんじゃないかな?」


 しめた!町かあ、どんなのだろう?楽しみ楽しみ。しかしこいつら日本語喋ってんじゃん。もしかして言語理解が転生恩恵とか?


「ありがとうございます。もう何もわからなくて。皆さんが頼りです」


「とりあえず村へ行こう。村長ならヤンギュー国を知っているかも」


 村人達は荷車にシルバーウルフの死体を乗せて太陽の方向に歩き始めた。カツヨリとリコは後をついていった。少し歩くと村らしき物が見えてきた。


「あれが、俺たちの村、ラキーヌ村だ」

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