3章:クラウディア皇国編
第35話 回想:アリシア
懐かしく、思い出したくないあの地獄に日々。
私の中にいる彼女が戻ってきたら、嫌でも思い出してしまうのでしょうか。
変わる前の記憶は殆どないけれど。変わった後の記憶は今でも鮮明に覚えている。いや、覚えてしまっている。
消し去りたい過去。それは後悔ではなくて。ただただ、辛いだけ。ただただ、苦しいだけ。それは拷問に等しく。誰からも救いの手は差し伸べられない。
これは忘れ去りたい過去であり、あって欲しくなかった過去である。
偶に悪夢に出てくるそれは。
私が、今の私たり得るものとなった瞬間でした。
***
エリ皇女からの任務とは名ばかりの強制労働によって、私たちは心身ともに疲弊していました。休みが一年に1回、といえばその辛さが分かるでしょうか。さらに、その休みでさえ急な任務によって消え去ってしまう可能性があります。
そんなある日でした。
ここからはシン様から聞いた話なのですが、今の私になる前のことです。
「アリシア、大丈夫?」
「そういう貴方こそ、大丈夫なの?顔、酷いわよ」
「……しょうがないじゃないか。2ヶ月ずっと戦い続けたんだよ。魔力も、体力も、何もかも無いよ」
「……それもそうね。取り敢えず、さっさと寝ましょう」
私たちは2ヶ月戦闘をし続けていたそうです。体力も魔力も限界の状態で戦わなくてはならず、魔物は増える一方、味方はナシ。シン様はあの時はよく生き残れたよ、と震えながら話してくれました。
そしてその後に宿の部屋に戻って、寝ようとした時です。
コンコン。
ドアを叩く音がしました。
そして、
『新たな任務だ。次は西のグアラガラ平原にある村に魔物の特殊個体が出たとの情報があったので、そちらに向かうように』
伝令兵から新しい任務のようです。
今回もどうせ報酬は全てエリ皇女に持っていかれるでしょう。
私たちは基本報酬がなく、生きるための必要最低限のお金しか貰えません。さらに辞めようとすると処刑しようとしてきます。この国の暗殺者は精鋭すぎるらしく、その暗殺者達は冒険者の最高ランクよりも遥かに上の実力を持っている、とのことでした。
故に、私たちは逆らえるはずもなく、従うしかありませんでした。
さらに、疲弊した心と体では逆らう気力も出てきません。毎日が地獄でした。
シン様曰く、ブラック企業以上のブラックだよ、らしいです。
私たちはすぐに支度をし、チェックアウトをしようとしましたが、さっきの伝令兵が既にしたそうです。
宿を出て私たちは早速そのグアラガラ平原へと向かいました。
今私たちがいるここはこの国の東の端。一方グアラガラ平原はこの国の西の端。遠すぎます。
馬車では3ヶ月はかかる距離を、私たちは1週間で行かなければならず、1週間の間、私たちは走り続けなねればなりません。それも、身体強化の魔術を最大にして掛け、その状態で全速力で走らなければ着きません。まさに地獄。体力も魔力も無いのに。
「今回は、流石にキツいね」
「いや、いつもキツいわよ……もう話すのもだるくなってきたわ」
「そだね」
そこからは二人とも無言で走り続けました。休憩もせずに。何をするにも走りながら。
そして1週間が経ち、ようやくグアラガラ平原に辿り着きました。
しかし、休んでいる暇などありません。
すぐにその特殊個体を見つける必要があったからです。
その頃の私たちはもう感情が抜け落ちて、ゾンビみたい、と当時のガイルに心配されたそうです。
私たちは会話がない状態で探索を続けました。1時間後、シン様が反応を感知し、その場所へと向かいました。
そこに向かうと、一体の熊がいました。
名前はグラスベア。グアラガラ平原特有の魔物だそうです。私たちは早速その個体の討伐を始めました。
シン様が魔術で相手を翻弄し、私が切り込んでいく。特殊個体とはいえ、所詮は魔物。知性のない、ただの獣です。私たちはそれ相手に確実にダメージを増やしていきました。
そしてグラスベアが満身創痍となり、あと一撃で倒せると言ったところでグラスベアが予想もしない行動に出ました。
その獣は大声で私に向かって叫びました。それだけならまだ良かったのですが、その鳴き声にはある効果がありました。
────微弱の
それは微弱故に普通ならあまり効果はありません。しかし、もし心が衰退しきっていたら?心が限界だったら?
答えは簡単です。それを浴びた私は精神を、自分の人格を破壊されました。
その後シン様がすぐに倒してくれたそうですが、その時の私はまるで死んだようだったそうです。
その時、私の内面で何が起きていたのかは分かりませんが、
2日後。
過去の人格、記憶、何から何まで全て心の奥底に封印され、
今の私の人格が生まれました。
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