第20話 再会

 ガストロがダウンした後、闘技場内は静寂で満ちていた。

 そして、少しずつざわめきが強くなっていった。


『嘘だろ……ガストロが負けるなんて……』


『というか、術式の改造なんて嘘だろ絶対。どうせ、魔力を多めに込めただけだろ。火炎連撃ファイアガトリングなんて、中級魔術だし』


『でも最後のあれはどう説明するんだ?あれは見たことがない、正真正銘の新しい魔術だぞ?』


『そ、それは……』


 皆驚いてるのな。ていうか、僕の魔力値分からないのかな?


『ガ、ガストロ様……』


『嘘よ、あり得ないわ!こんなことって……』


 あっちは貴族の令嬢様の集まりか。まあどうでもいいや。


「鎮まりなさい」


 アリシアの一言で、ここにいるみんなが一斉に黙った。彼女は声を発するとともに、微弱の威圧を放ったのだ。


「これで分かったでしょう?ギガス公爵。彼の実力は本物だと。そして貴方達はまだ気づいていないようですね。団長の方々は気づいている様ですが」


「……?どう言うことでしょう」


 ギガス公爵は本当にわからなそうに言い返した。

 すると、別の方から声が上がった。


「よろしいでしょうか、アリシア様」


「何でしょう、


 その言葉、その名前に僕は一瞬ビクッとした。

 ガイル。その名を持っている人は僕は1人しか知らない。

 しかし、僕はここにきて一度もその名を聞いていない。

 だってそうだろう。彼は既に死んでいておかしくないからだ。


「私が思うに、彼の実力は本物です。というかもう確実でしょう。彼の強さは私といい勝負をするでしょう」


 すると、ギガス公爵が口を挟んだ。


「そ、それはあり得ません!何をおっしゃっているのですか!貴方はなのですよ!貴方より強いお方は魔王であるアリシア様の他にいないでしょう!」


「ええ、そうですね。確かに俺はこの国の中でアリシア様を除けば一番強いのかもしれません。お陰で俺は最強と呼ばれる第一兵団の団長になれましたから。しかし、他の人が弱いだなんて誰が言ったのでしょうか?実際、私といい勝負をする者など、兵団には何名かいます。その中の1人なのですよ。彼は。それとも、貴方はこの結果を不服とし、もう一度彼に決闘を申し込みますか?私の眼からしたら、彼はかなり手を抜いていましたよ、この試合」


 その言葉にここにいる兵士や貴族は皆驚愕の表情を浮かべた。


『あれで全力じゃない?そんなまさか……』


『でもガイル団長が言ってるんだぜ。と言うことは本当だろうよ』


『あり得ない、あり得ないわ……ガストロ様が遊ばれていたなんて』


『信じたくない……信じたくないわ!』


 彼らの反応は様々だった。納得する者、素直に驚いている者、認めたくない者など。

 そしてガイルと呼ばれたその男はこっちを向いてこう言った。


「アリシア様、結界をお願いします。ちょっと懐かしい魔術が見れたものですから、彼と手合わせをしたいと思いまして」


 その言葉にまたもや驚きの感情が闘技場内を埋め尽くした。


「わかりました。許可します」


「ありがとうございます、アリシア様」


 彼はアリシアに一礼した後、僕の目の前に降り立った。


「さて、久しぶりだな。シン」


「やっぱりガイルだったんだね。まさか悪魔だったなんて、驚いたよ」


「そうか?まあ、本当のことを言えば転生の術式を使ったんだが」


「へえ?そうなんだ。でも何で悪魔に?」


「アリシアから、転生する前に言われたのさ。悪魔になってみませんか、ってな」


「悪魔の囁きだね、それ。でも、それだけじゃ無いんだろう?」


「ああ、それはこの試合が終わってから話すとする」


「これはしなきゃいけないのかい?」


「当たり前だ。今の君は前世のあの時よりも強いんだろう?俺も強くなったし、いいじゃないか。軽く、あの時みたいにやろうぜ」


 はあ。正直、驚くことが転生してから多い気がする。頭がまだ混乱しているよ。でも、それでもやるしかない。相手はあのガイルだ。

生前、よく時間の合間に手合わせを頼まれたのはいい思い出だよ。お陰であのクソ皇女に対するストレスを発散できたし。

今思えば、それにアリシアを誘えば、今みたいにならなくて済んだのかもな。まあ、それは過ぎたことだし。まあいっか。


「審判はどうするので?」


「ああ、そうだったな。ゴーレイン!審判を頼む!」


 ガイルがそう叫ぶと、観客席から飛び上がる影が出た。

 そしてその影は僕とガイルの間に降り立った。


「何で俺がしなきゃなんねえんだよ」


「いいじゃないか。お前が一番公平にやってくれそうだからな」


「はあ。分かったよ。すりゃあいいんだろ?後で酒奢れ」


「分かった。その時はシンも誘うからな」


「え!?僕も行くの!?」


「当たり前だろ?なあ、ガイル」


「そうだな、いいじゃないか、せっかくだし」


「……はあ、分かったよ。でも一応成人したてだからね。それに僕、酒苦手なんだよ」


「まあ、そこは配慮するから。よし、そろそろやるか。ゴーレイン、頼む」


「分かった」


 そう言ってゴーレインはポケットからマイクを取り出した。


「『それではこれより、第一兵団団長、ガイルと、第三兵団団長、シュレインの試合を始める!』」


 そして、アリシアが結界魔術を張った。

 僕とガイルの攻撃の飛び火が来ないようにするためだ。

 ちなみにガストロは既に避難させてある。


「『始め!!』」


 その声を聞いた瞬間、僕は後ろに下がりながら両手で魔術を展開した。

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