最終章 失う物、得れる物

 走れないことにこれ程苦しんだ事はない。よたよた、ゆっくり足を動かしてファントム達の元へ向かった。早く、今すぐにファントム達に会いたいのに、俺の足じゃ走れない!辛かった。日は暮れて、影の闇は濃くなる。影がぐんぐん伸びて後ろに映る。早く、ファントム達に真実を教えてやりたい。




    ファントム・ミラー


 ダイナマイトがいなくなって2か月が経った。最初の内は寂しさを感じていたが、次第に寂しさは後悔へと変化した。俺は、ダイナマイトが失敗するんじゃないかと、心のどこかで気づいていた。だけど見て見ぬ振りをした。していたんだ。そしたら起こったこの事件。

 もう、失うのはごめんだ…。

 考えれば考える程後悔はつのるばかり。それは、キャシーベイツも同じだった。キャシーベイツは試験前日、俺に相談してきた。『なんだろう…。嫌な予感がするの。』そういう彼女は辛そうで俺は一生懸命慰めた。キャシーベイツは俺の幼馴染みで、想い人だった。一目惚れだった。そんな恋心での行動。俺が一番に彼女を慰めてあげたかった。だから一生懸命慰めたんだ。『大丈夫。ただの緊張だって。』と。しかし、最終的に彼女の勘が正しかった。嫌な予感は見事的中した。俺のせいだ…。自分がキャシーベイツに気に入ってもらう為に適当言ったせいだ。そう後悔した。ダイナマイトはお兄ちゃんみたいで、ときに弟みたいで、大事な仲間だった。今こうして、本当に俺にとってもキャシーベイツにとっても必要な存在なんだと理解した。ダイナマイトがいない日々は辛いに等しかった。話し相手になってくれて、時に寂しがり屋になって話しかけてくる。そんなダイナマイトは本当に大切だった。どうして、俺は守ってやれなかったんだろう。いつもの、昔からキャシーベイツに救われた。ダイナマイトに救われた。でもまだ俺、

「なんっにも守れてない!!!」

 ボタボタと涙が零れ落ちる。俺は、ダサい自分が嫌い、大っ嫌いだった。こんな、ダサい俺をキャシーベイツが、ダイナマイトが好きになってくれる訳がない。俺って大馬鹿者だ。

「ファントム!!!キャシーベイツッ!!!!」

 え…?

 俺は懐かしい必要としていた声が聞こえ、そちらを見た。するとガバッと大きな立派な体が俺を抱きしめた。落ち着きを取り戻すと、その体は大きく揺れ、荒々しく呼吸をしていた。次第に俺の肩辺りが湿ってきた。泣いているのだ、ダイナマイトは。ダイナマイトは帰って来た。涙はブワッと溢れ出した。そして抱きしめ返した。

「ファントム!俺がッ、俺が悪かった!!」

「ダイナマイト…ダイナマイトぉ…。帰ってきてくれて良かったぁ。」

 こんなふうに一匹狼だったダイナマイトが抱きしめてくることに違和感はあったがそれより、帰ってきてくれたことが嬉しかった。

「ファントム、俺、お前らに言わなきゃいけないことがある。だから、キャシーベイツはどこだ?」



 

 ダイナマイト


 ファントムに連れられてキャシーベイツのいる部屋まで向かった。俺はキャシーベイツの部屋の扉をノックした。

「キャシーベイツ、ごめん。俺ッ話したいことがあるんだ。」

 すぐに扉はあいた。良かった、そう思って口を開こうとしていた時にキャシーベイツは抱きしめてきた。!!!??

「あんたってほんっと馬鹿!!」

 キャシーベイツは驚くほど罵ってきた。しかし抱きしめる手は優しく、暖かくて泣き出しそうだった。

「ごめん、キャシーベイツぅ。」

「何があったのか、全ッ部話しなさい。」



 そして俺は二人、最も信頼してる二人に話をした。キャシーベイツもファントムも真面目に聞いてくれているのが嬉しかった。二人は俺に義足をつけることを勧めた。お金は三人で協力して出すと言った。はじめの内は断ったが余りにも二人が真剣で俺もお願いすることにした。

 家族にそのことを知らせた。お母さんは泣いていたが嬉しそうに笑った。マルソンは小説が売れてないくせにお金を出してくれた。

 俺は、幸せ者だ。





 ____一年後。

 桜が咲く始業式。見慣れた制服と新品のブローチ。ファントムは言った。

「もう二年生かぁ。後輩楽しみだなぁ!」

「そうだな。同じクラスで良かった。」

 俺もファントムと同じように笑って言った。ファントムは「だね!!」と言った後少し肩を落とした。

「あーあ。キャシーベイツも一緒だったら良かったのにねぇ。」

 俺はそういうファントムをからかってやろうかと思い、ニヤニヤ笑いながら言った。

「キャシーベイツには告白したのか?」

 ファントムはじわじわと顔を紅潮させながら「こ、ここ告白…。」と戸惑った。でもすぐに、男らしく、真剣にまっすぐ俺を見て言った。

「今日、告るつもり。」

「おーおー、頑張りな。」

 遠くから女の声がした。俺もファントムもこの声が誰のものかわかった。キャシーベイツだ。

「いやークラス離れちゃったねー。まぁいっか。それよりダイナマイト、義足はもう慣れた?」

「ハハハ、いつも聞くな?もうとっくに慣れてるよ。今じゃあスーパー速いぜ!!」

 俺ががさつに笑うとキャシーベイツもファントムも笑ってくれる。今俺が笑っていられるのは全て家族、仲間のおかげだ。


 「やっぱ、人生楽しんだもん勝ちだよな!!!」

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