女友達は頼めば意外とヤらせてくれる

かがみゆう

SEASON1 女友達に頼めばやれること

第1話 女友達ができました(改)

「ほら、こっち見ないでよ、服着るから」

「あぁ……」

 みなとはベッドの上で、葉月はづきに背を向ける。

 それでも、ちょっと横目を向けると葉月の白い肌が見えてしまう。


「んーっ、またブラがちょっとキツくなったかも……」

 葉月は唸りながら白いブラジャーを着け、ぱちんとホックを引っかける。


「葉月、元々Fカップなんだろ? まだデカくなんのか」


「どうかなあ……あたし、さすがに胸はこれ以上大きくならなくていいけど。ていうか、あんた、こっち見てるでしょ!」

「今さら、恥ずかしがらなくてもいいだろ?」

「着替えを見られるのはまた違うの! 湊は乙女心がわかってない! あれ、ブラウスもスカートもない。どこ?」


「え? あー、あっちだ。ずいぶん派手に飛んでるな」

「飛んでる、じゃなくて。飛ばしたんでしょ、湊が」


 そうだったかな、と湊は首をひねる。

 脱がした直後は興奮してるから、つい力が入っているのかもしれない。


 何度見ても、葉月の身体は魅力的で、つい夢中になってしまうのだ。

 湊はまたベッドから下りて、部屋の端に落ちている制服のブラウスとミニスカートを拾い上げた。

 くるりと後ろを振り向いて、ベッドにいる葉月を見る。


「ん?」


 葉月はきょとんとして、首を傾げている。

 後ろを向いた途端、ぴたりと動きを止めてしまった湊を不審に思っているようだ。


 その湊は、ごくりと唾を呑み込んだ。

 ミルクティーのような色の長い茶髪はかすかに乱れ、白い肩は剥き出し。

 白のブラジャーに同じ色のパンツ。

 黒いハイソックスもはいている。


「な、なあ、葉月……」

「ちょ、ちょっと……近い、近い!」

 湊はベッドに膝を乗せ、葉月の肩を掴んで顔を近づけていく。


「あと一回だけ……いいか?」

「……もうっ」

 葉月は顔を赤くして、ちゅっと湊と軽く唇を合わせる。


「一回だけ……だよ?」

「ああ、わかってるって」


「でも、忘れないでよ。あたしは、あんたのカノジョじゃなくて――」

 二人は抱き合いながら、ベッドへ倒れ込み――


「友達、なんだからね?」




 人生をそう難しく考える必要はない。

 たいていのことはなんとかなる。

 これまで何度となく緊張しながら試験を受けてきたが、悪い点を取ったからって死ぬわけじゃなかった。


 高校受験でも受験日がまるで世界が終わる日のように怖かったが、終わってみればあっさりしたものだった。

 これからの人生も、腐るほど障害はやってくるだろう。

 それでも怯えることはない。


 繰り返そう。

 たいていのことは、たぶんなんとかなる。

 ただし、高望みをしなければ。


 湊寿也みなととしやは客観的に見て、特に秀でたところはない。

 勉強は比較的得意でも、学年トップというレベルでもない。


 運動神経は人並み、部活なども特にやってこなかった。

 見た目を他人から評価されたことはない。つまり、そういうレベルだろう。


 湊は自分を凡人だとか卑下するつもりはない。

 だが、己を知るべきだと思っている。


 いや、かつての彼は身のほどをわかっていなかった。

 高校に上がって三ヶ月ほど経ったある日、彼はクラスの女子に告った。


 相手は、クラスでもそこそこ人気の女子。

 湊の勝手なランキングでは、クラスで五番目に可愛い女子だった。


 しかも、席が隣で毎日のように親しく話し、たまに一緒に下校することもあった。

 軽く探りを入れてみた感じ、カレシもいないようだった。


 高校生活が始まったばかりで浮かれていた、というのも正直あったと思う。

 はっきり言うと、「俺にもワンチャンあるんじゃね?」と思ったわけだ。


 そして見事に玉砕した。

 湊の告白に、彼女は「あ、うん……そうなんだ……」という反応だった。


 彼女も鬼ではないので、ことさらに湊を傷つけようとはしなかったのだろう。

 決定的な言葉は一つもなく、それでも完全にフラれていた。


 しかも、翌日には彼女は何事もなかったように湊と接してきた。

 彼女は大人だったのだろう。

 当然のように、告白のことは誰にも言わずにいてくれたようだ。


 だが――勝手なようだが、湊は傷ついた。

 何事もなかったように振る舞われるくらいなら、笑いものにされたほうがよかった。

 おそらく、笑いものにされたら、それはそれで恨んでいただろうが。


 とにかく、湊は理解した。

 五番手が相手でもチャンスはない。

 それが、湊という男のレベルなのだ。


 彼女のことを五番目などと判断したことを海より深く反省するべきだった。

 そのまま深海に潜って二度と浮上するべきではないのだ。



「ほら、湊。いつまで寝てんの」

「…………?」


 顔を上げると、すぐ目の前に美少女がいた。

 クラスで五番目どころか、校内で一番でもおかしくない顔だ。


「……葉月?」

「そうそう、葉月ちゃんです。あんた、あたしに起こしてもらえるなんて幸せすぎるんだからね?」

「…………」


 まだ、頭が寝ぼけている。

 湊は、ゆっくりと身体を起こす。

 教室で、机に突っ伏したまま寝ていたようだ。

 時計を確認すると、午後四時近くになっている。


「しまった……完全に寝てたな」

「どうせ、また夜遅くまでゲームやってたんでしょ? また、あのズドドドドッて撃ち合うやべーゲーム?」

「別にヤバくはねぇよ。今あのゲーム、キッズから大人まで大人気なんだぞ」


 だが、葉月の言うとおり、ゲームで夜更かししてしまっていた。

 主観視点で銃を撃ち合うFPSゲームの新作“レジェンディス”は、基本無料ということもあって、世界中で大ブームになっている。


「ゲームばっかなんて不健全だよ。今日は、あたしに付き合ってもらうよ?」

「どこへ?」

「スポッティかな。最近行ってないし」

「えぇぇ、マジかよ。寝不足であんなトコ行くのか?」


 スポッティは屋内アミューズメント施設だ。

 フットサルやテニスや3on3バスケ、ローラースケートやトランポリンなど様々なアクティビティが楽しめる。

 料金も安いので、湊たち高校生の財布でも安心して遊べる。


「動いて目を覚ますんだよ。ゲームすんなとな言ってないでしょ。たまには、身体も動かそうって話。それとも、あたしとは遊びたくないの?」

「……わかったよ」


 湊は立ち上がって、カバンを手に取った。

 そのときにはもう、葉月は教室を出ようとしている。

 せっかちな彼女に続いて、湊は慌てて教室を出た。



 葉月葵はづきあおいは、校内でも有名人だ。

 ミルクティーのような、明るさを抑えた茶色のロングストレート。

 薄くメイクしつつ、あどけさも残った美貌。


 肩や腰はほっそりとしつつも、二つのふくらみは大きく、ピンクのカーディガンの胸元をぐっと押し上げている。

 まるでメロンのような大きさで、しかも軽い動きに合わせてぷるんっと弾むように揺れてしまう胸だ。


 襟元の濃いグリーンのネクタイは軽く緩めて、チェックのミニスカートから伸びる脚は長い。


 一年生女子の中では、人気ナンバーワンとも言われている。

 元気で明るい陽キャで、校内でのカーストもトップクラス。

 男女ともに友人も多く、いつも大勢に囲まれて笑っている。


「さーあ、なにから遊ぶ? おいおい、湊。まだ頭がお眠なの?」

「いや、さすがに目は覚めてる」

 スポッティに到着し、二人で受付近くの案内ボードを眺めているところだ。

 そんな葉月が、なぜか湊と二人で遊びにきている。

 本当におかしな話だと思う。


「葉月、今日は友達はいいのか?」

「ん? あんたがいるじゃん」

「……まあ、そうなんだが」


 いつものことだが、湊は彼女のあっけらかんとした台詞には驚かされてしまう。


 湊が葉月葵と仲良くなったのは、高校に入学して三ヶ月ほどの頃――

 もっと言うと、例の彼女に告って玉砕した直後だ。


 自分の身分をわきまえ、深く深く潜って生きていくと決めた頃でもある。

 ついでに付け加えると、一学期の期末テストが終わったばかりでもあった。


 湊は勉強は比較的得意だ。

 トップというほどではないが、中の上というレベル。


 高校ではテストの点数次第では追試を受けることになっている。

 もちろん、湊には縁のない話だった。

 テストの答案が返却されたその日、いつもどおりに何人かの友人と帰ろうとしていると。


『ごめん、湊くん。今日、ちょっと時間ある?』


 と、一年生女子人気ナンバーワンの葉月葵に声をかけられたのだ。

『葉月さん……?』

 湊は首を傾げた。


 当然だろう、葉月は目立つのでフルネームを知っていたが、言葉を交した記憶はほとんどなかった。

 向こうが湊の名前を知っていることが奇跡に近かった。


 戸惑う湊に、葉月は説明した。

 彼女はテストの点数が全科目まんべんなく悪く、ほとんどの科目で追試をくらったらしい。

 三日後から始まる追試で合格できなければ、夏休みに補習を受けることになるという。

 そこで、勉強を教えてほしい――と葉月にお願いされたのだ。


 なんで俺に?

 おまえは友達たくさんいるだろ?

 ウチのクラスでももっと成績いいヤツいるぞ?

 いったいなにが目的だ?

 様々な疑問が頭を渦巻いたが――


『ねっ、お願い♪』


 ぱん、と葉月が手を合わせてあざとい仕草で拝んできて――

『いいよ』

 と、湊は返事していた。


 特にOKする理由はなかった。

 ただ、断る理由も見つからなかったのだ。

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