第6夜 サンゴーレッド

 騒々しい都会の交差点のど真ん中に突っ立っている。

 人々がひしめき合い活動してる音はするが、それを奏でる人がいない。

 車もバイクも道路を横切っていないお陰でコウは引かれずにすんでいた。

 無事に夢の中へ来られたようだ。


「とりあえず、第一関門クリア、ですかね」


 都会の喧騒が大きく小さくとボリュームが変わるので妙にリアルだが、街に色はない。モノクロの世界。

 信号機だけが赤、黄、青の点滅を繰り返している。


「これ、本当に小学生が見てる夢なんですかね?」

「じゃなかったらお前はどこにいるんだよアホンダラ」


 唐突にシュウ博士の声がした。


「見えてます?」

「今日もバッチリだ。さっすが俺様の作ったぁ機械だな」


 はいはいとシュウ博士の自画自賛はほっといてコウは辺りをよく見回す。

 モノクロというところ以外はよくある大きなビルが立ち並ぶ都会で、特に変なところは見当たらない。

 少し歩いてみた。

 すると、誰もいなかった交差点の角にポツンと1人男の子が立っている。

 人はモノクロだったが、何か持ってるものは赤く光っていたのでその明かりで男の子と判別できた。

 相変わらす街の音がして良く聞き取れないが、どうやら泣いているみたいだ。


「シュウ博士、あの子っ」

「あぁ、間違いねぇ。あのガキだ」


 話しかけるため近づく。

 男の子はそれを察したのか急に走りだし、近くにあった地下へ続く階段を降りていってしまった。

 慌てて後を追いかける。

 しかしコウよりも早く動き、男の子を追いかけ地下へ降りていったものがあった。

 大きな黒いモヤだ。

 2メートル位の身長で人の様な形はしているが腕は床に垂れるほど長く、ドスドスと音をたてて走って行った。


「何なんですかアレぇぇ」

「俺が知るかボケナス!何かヤベェもんには違いねぇだろうが!とっとと追っかけろ!!」

「ええぇやな予感がしますぅ・・・・・・」

「やな予感んーとか言ってる間にガキが大事になってかもしんねーだろーが!急げ!」


 シュウ博士に尻を叩かれ急ぎ追いかける。

 地下への階段を下りようと足を踏み入れたら何かをふんでしまった。

 足をどかし、踏みつけた物を拾い上げる。片腕のない、赤いヒーローコスチュームのビニール人形だ。


「落とし物?・・・・・・ですかね」

「おーサンゴーレッドじゃねえか」

「さん、ごー?なんです?」


 理解できずに聞き返すコウ。


「サンゴーレッドだ。ちびっ子に今流行りの戦隊ヒーローのリーダー」

「へーよく知ってますね、ちびっ子に人気なもの。やっぱり同じ世代の流行りには詳しいんですか?」

「当たり前だ、世間をよく知らないとおいていかれる・・・・・・って誰が同世代だバカヤロウ!バカ言ってねぇでそれ持って早くいけってんだ!」


 ビニール人形を胸ポケットに入れて階段を下る。

 階下にはすぐ券売機と改札が見えたので地下鉄があるのだとわかった。

 券売機から改札の道程を案内するかのように赤い液体が点々とついている。


「これ、絵の具?」

「どーゆーおつむでそう解釈出来んだおめえは。ガキが負傷してる可能性もあるだろーが」

「じゃこの先にいけってことですよね?」

「そうゆう事だな」


 赤い点をたどって地下鉄の改札をジャンプで飛び越え、駅の中へ入る。

 赤い点はさらに階段を降りた先まで続いていた。階段の先に駅のホームが現れる。

 線路は真ん中の道を挟んで左右にあり、右側には電車が止まっている。

 奥の車両に人影が見えた。

 男の子だ。

 何かに追われ、逃げるように電車へ乗り込み、それに続いて黒いモヤが乗車する。


「やっぱりモジャモジャは剛志君を追いかけてるんですね」

「お前、あれをモジャモジャって言うか・・・・・・?まぁそうだな」


 悠長にモジャモジャ言ってると、突然発車のベルが鳴り響きコウも電車へ滑り込んだ。

 扉がしまり、電車が走り出す。

 男の子はこの奥の方にいるはずだ。黒いモヤに気をつけて先頭車両へ向かう。


「この電車どこに向かってるんでしょう?」

「俺が知るか。まぁ、事件をフラッシュバックしてるなら都内のホテルか」

「都内のホテル?ホテルで添い寝してたんですか?」


 ホテルで添い寝。

 そう聞くだけなら家族連れだったり恋人同士の微笑ましい絵面が浮かぶが、畑剛志の場合は違う。

 知らない男に急に拐われ、添い寝させられる。

 寝るという行為は人が一番無防備になる瞬間だ。知らない異常者の前で幼い子が眠れるわけがない。おそらく畑剛志は犯人に逃げられないようにベッドで拘束されたんだろう。

 今朝みた資料にも手、足首に赤い線が浮かび上がった写真と暴行された可能性ありと書かれていた。


「前の二人はクソ野郎の自宅で絞め殺されてた。酷な言い方をするが、つまり2回とも失敗だったわけだ。野郎の眠さも限界に近かったから、急ぎ都内のホテルをとってガキを連れ込んだそうだ」

「ものすごく自分勝手ですね、犯人」

「本当はクソ野郎の中に入ってボッコボコにしてやりてぇけどな。そんな暇があんならガキを笑わせる方がいい」

「同感です」


 そろそろ先頭車両が近い。

 赤い点は車両にも落ちていて、だんだん大きくなっていった。

 これがシュウ博士の考え通りだと、大怪我をしてるはずだ。

 気持ちが急き、早足になるコウ。

 次の車両の扉を力強く開いた。

 開いたと同時、顔面に四角い大きな塊をくらい、コウはさっきまでいた車両へと吹っ飛ばされてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る