第2夜 博士とわたし

 いつも始まりは暗い夜からだ

 暗闇にひとりぼっちでうずくまっている。

 寒くて苦しくてしんどくて「誰か!!」と大声で叫びたくても全く声がでない。

 闇に手を伸ばしても誰もつかんでくれる人はいない。

 いつになればこの手をつかんでくれる人がくるのか?ずっと待ち続けている。


 どこからか音がする。

 どんどん音は近づいてきて大きくうるさくなって彼女は身をよじった。

 まだつかめていない、誰にも会っていないもう少し、もう少し・・・・・・


「もう少し待ってくださいぃ~」

「起きろ!こんのバカたれがぁ!!!!」


 スパーン!!

 頭に強烈な一発をくらい彼女は飛び起きた。


「スリッパで殴らないでっていつも言ってるじゃないですかシュウ博士!」


「じゃかぁしい!!いつまでも寝てるコウ、お前が悪い!今日は患者が来るから早く起きろって言っただろーが!それを何がもう少しぃ〰️だぁぁぁぁ!?さっさと支度しろぃ!」


 目の下に真っ黒なくまをこさえた、おかっぱ頭で白衣を着たチビのシュウ博士が野太い声で怒鳴り散らす。


「もぅーわかりましたよ・・・・・・」


 シュウ博士はコウが起きたのを確認して、スリッパで肩を叩きながらドカドカと足音荒くコウの部屋を出ていった。

 朝からコント突っ込みを食らったコウは渋々ベッドから這い出る。


「自分だって寝起き悪いじゃないですか・・・・・・」


 たたき起こされるのは好きじゃない。記憶は無いからわからないが、交通事故にあってからか自分で起きれなくなってきたとコウは思う。

 顔を洗うため洗面所に行き、鏡を覗いた。


「はぁー、今日もショッキングなピンクですねー」


 頭の右側は野球少年ごとくチクチク坊主、左側は腰まであるショッキングピンクの髪。

 瞳はエメラルドグリーンの顔を勢いよく洗う。

 毎日見つめあっているが外国人の様な外見はいまだになれない。


 コウを助けてくれたシュウ博士いわく、交通事故で損傷した頭に特殊な装置をつけた時の影響だそうだ。

 特殊な装置について詳しく説明してくれたが、「脳のしくみが〰️でホルモンの影響と脳波のなんたらをキャッチしやすくなるようにナンタラ液を媒体にしてほにゃららしてーの」と何がなんだか全くわからなかった。


 ほけーっと口をあんぐり開けて聞いていたコウをみかねてシュウ博士は、簡単に言うと事故で脳が機能していない所を復活させる補助をする機械を埋め込んだんだと言い直した。


「副作用で髪の毛ピンクになるってどうゆう事なんですかね、ほんとに」


 事故は悲惨なものだったらしく、車の正面衝突事故で車から引っ張り出されたときには意識も無く、一刻を争う状態でシュウ博士のいた病院に担ぎ込まれたそうだ。

 命が助かっただけありがたいと思えとシュウ博士に言われたが、記憶がないのではこれからどうしたら良いかわからない。

 持ち物に身分証明書はなくコウとだけ書いてあるハンカチがあったので、名前はコウだろうとも聞かされた。

 名前しかないコウが、どうしたらいいか病室で唸っていると、シュウ博士が脳研究を専門しているので望むなら記憶が戻る手伝いをしてもいいと申し出た。

 

 ただし、条件付きで。



「お前、一般常識は分かるか?世の中の出来事とか」


「出来事?ですか・・・・・・」


「ああ、眠り病について覚えてるか?そーとーニュースになって社会現象にもなってるから、田舎に引きこもってるとかじゃないかぎり知らないはずねぇんだ」


 しばらく考え込んで首を横にふるコウ。

 それを見て、シュウ博士は深いため息をつく。


「そうか、まぁいい。簡単に言うと眠ったまま起きられない奇病だ。特効薬は今のところ無ぇ。歌で患者を揺り起こしたっていう奴らもいるが、それも確実じゃないらしい」


「そうなんですか。で、その話は今の私に必要なんですか?」


 シュウ博士はコウをビシッと力強く指差す。


「当たり前だ。お前に埋め込んだ機械、人工脳組織は俺がその奇病を治す為に研究してた物だ。実用化にはまだなってないがお前の損傷した箇所を治せる唯一の手段だった。このままいたって普通の処置をしても植物状態か死かどっちかだったからな」


「だからって、本番ぶっつけで試したんですか!?」


「俺は助かる可能性があるから賭けたんだ。俺は人が死にかかってんのに黙って見過ごす様なタマじゃねぇ」


「あなたの事なんて私は知りません。死んだらどうしてたんですか?!」

 

医者というか、人としてそんなに簡単に人の生き死にかけてもいいのだろうか?

 さっきまでペラペラと軽いトーンで話していたシュウ博士がいきなり低い声でコウの目を真っ直ぐ見ながら答えた。


「死なせねぇよ。絶対」


「ええぇそんな自信どこから・・・・・・」


 シュウ博士はコウの苦情を無視して話を続ける。


「で、俺の1つしかなかった試作品をお前に使っちまった訳だ。どうしてくれる」


「え?」


 何を言っているかサッパリ話が見えてこない。試作品を使ったのはシュウ博士自信で、コウが頼んでもいないのにどうしてくれるとは?まぁ生きるか死ぬかの瀬戸際で頼める状況でも無かったが、コウの責任ではないはずだ。

 コウが面食らっていると、シュウ博士が腕を組み、偉そうにふんぞりがえって早口でしゃべり始める。


「お前は俺のお陰で記憶はないかもしれないが助かった。お前は俺に壮大な借りがある。お前はとーぜん記憶を取り戻したいよなぁ?幸いー俺様は脳研究者で記憶喪失に関するデータも知識もある。だーかーらぁー優しい俺様はお前の身辺の世話だったりぃー記憶を取り戻す手伝いをしてやる。めんどくさいがな」


「め、めんどくさい?」


「その代わり、俺の研究を手伝え。まだ眠り続けて夢に囚われている奴は大勢いる。それをお前のその頭で救うんだ。それが出来るのはお前だけなんだからな。拒否権はなぁーい!!!!」


「ええええぇ!?」



 と、まぁこんな感じで、無理やりシュウ博士の研究を手伝う事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る