道連れ修学旅行

読天文之

第1話旅行初日  愛知県名古屋駅

「だからお前はいつもダメなんだよ!!」

「・・・もう我慢できません・・・。」

「あ?お前、どういうことだ?」

上司が答える前に既に俺の手が拳がでていた、そしてついに会社で絶対的なタブーを犯す。

上司も拳で抵抗する、周りの同僚が止めに入る。

でも俺はこうすることしかできなかった、上司が全て悪いという確信と正義の下にある暴力しか心にない。

俺はそれから他の社員に取り押さえられ、その日は会社を早退した。

翌日、会社に出向くと部長から呼び出された。

おそらく解雇の宣告だ、俺もそうだろうと思って辞表を用意した。

「石木君、何で呼び出されたかわかるか?」

「はい、上司を殴ったことです。」

そう言って俺は辞表を部長に向かって放り投げた、部長は辞表をキャッチした。

「辞表か・・・、自覚はあるということだな。じゃあ、ここから去れ。退職金は出ないからな。」

そう言われて清々した、これでこの会社とおさらばだ。

「わかりました、ありがとうございました。」

そして俺は会社を出た。

俺・石木大地いしきだいちは十八歳の時にあの会社に就職し、十八年間働き続けた。

最初は楽しい職場だったが、徐々に退屈を感じ、今から三年前に部長から降格したあの上司と馬が合わなくなり、そして現在無職になった。

三十六歳で独身、豊橋駅から歩いてニ十分のマンションで一人暮らしをしている。

「はあ・・・、もう人生なんてどうにでもなれだ・・・。」

自殺を志望しているわけじゃない、「ただ人生つまんねえ・・・」と心からそう感じている。

「さあて、どうしようか?再就職なんて気が向かないし、実家には帰りにくいし。」

そしてふと脳裏に電車の姿が写った、そうだ旅に出よう。

「そういえば、全然旅行に行っていなかったな。」

旅行に行った新しい記憶は、高校卒業の旅行だ。あれからもう二十年近くも過ぎている。

「よし、じゃあ自分だけの旅行をしよう。この機を逃したら、二度と行けなくなるからな。」

決意を固めた俺は、準備のために家路を急いだ。









「よし、これでいいな。」

俺はリュックサックに寝袋・ペットボトルのお茶三本・スマホの携帯式充電器・保険証・財布・アメの入った袋・マスクを入れた。

実家に連絡を入れようと思ったが、行く気が失せるかもと思い止めにした。

マンションを出て豊橋駅に向かい、電車に乗って名古屋駅に向かった。

「さて、名古屋駅についたか・・・。」

だが俺はどうにも思わない、前の会社の通勤で何度降りたことか。

「あの、すみません。金の時計はどこですか?」

突然、一人の中学生男子が俺に訊ねてきた。

「ああ、そこなら知っている。案内しようか?」

「はい、ありがとうございます!!」

俺は中学生男子と一緒に金の時計に向かった。

金の時計には中学生男子の仲間であろう、四人の中学生がいた。

「おーい、武藤むとう!!遅いぞ!!」

「ごめん、こめん。迷っちゃった。」

「全く・・、ところでそのおじさんは誰だ?」

「俺か?俺は石木っていうんだ。」

「石木さん、武藤が迷惑をかけました。」

中学生の一人が頭を下げた。

「いえいえ、気にしてないよ。」

そう言って俺が去ろうとした時だった・・・。

「見つけたぞ!!」

「うわっ、見つかった!!」

突然二人のスーツを着た男が中学生たちに近づいてきた。

「さあ、帰りましょう。」

「嫌だ、帰りたくない!!」

「世間に迷惑はかけられません、どうか我々と一緒に・・・。」

「世間が何だっていうんだ、俺たちは修学旅行に行くんだ!!」

「一緒に行くんだ!!」

中学生の一人が無理矢理連れて行かれそうになったのを見た俺は、男二人の前に立ちはだかった。

「何なんだお前は?」

「ここに誘拐犯がいるぞーーーっ!誰か警察を呼んでくれ!!」

俺は間髪入れず叫んだ、男二人がうろたえている隙に、「走れ!!」と言って中学生五人を連れて行く。

都会のビルが立ち並ぶところまで行くと、一息ついた。

「石木さん、ありがとう。助かりました・・・。」

武藤がお礼を言った。

「いいや、それよりも君たちはあの二人に追われているのか?」

「はい、どうしても連れて帰るってしつこく追いかけていくんです。」

別の中学生が言った。

「ねえ、石木さんも旅行の途中だったの?」

「いいや、これから行くところだ。まあ、行く当ては無いけど。」

「じゃあ僕たちと一緒に行こう!!」

武藤が笑顔で俺に言った。

「ちょっと、私たちだけで旅行するんじゃなかったの!?」

五人の内で一人だけ女子の中学生が言った。

「いいじゃん。石木さん、引率の先生より頼りになるし。」

「確かに、大人がいた方が頼りになるな。」

「僕もそれがいいと思う。」

「まあ、みんなが賛成するならいいわよ。」

どうやら五人で「俺を連れて行く」ことが決定したようだ、俺はどうなっているのかよくわからず、武藤に質問した。

「なあ、君達は何をしているの?」

「修学旅行だよ。」

武藤が平然と答えた。

こうして、俺と中学生五人の行く当てのない修学旅行が始まった。




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