第29話〜食欲の秋というけれど

もう夏は終わり、朝は少し寒いぐらいの風が吹いている。義務教育最後の夏休みはすぐに終わってしまった。

この夏休みは正直15年ずっと生きていた中で1番つまらないものだった。俺はこの夏はずっと受験勉強しかしていなかった。


あれ以来、俺はあの夢を見ていない。もし炎華に会ったとしても俺は彼女に質問攻めしてしまうだろう。そもそも俺はもう、炎華に対して好意の気持ち一欠片もなくなっていた。


「筋肉ゴリラはいいよなぁ、推薦貰えるからほぼ勉強しなくていいし」

「それでも勉強しねぇとオカンに怒られるんだよ。俺は頭良くないし」


今は放課後残って受験勉強とテスト勉強をしている。筋肉ゴリラとガリ勉は話しながら勉強している。


「てか飴岩はどこの高校いくんだ?」

「えぇ…筋肉ゴリラは京都の方の大敬心おおけいしん高校だっけ?それで僕は東京の帝大王みかどおおきみ高校で…飴岩くんは?」


大敬心高校というのは学科がスポーツ科と美術科と普通科の高校で、帝大王高校は東京にある偏差値も高く色んな学科があるところだ。


どちらにせよ、明確な目標がなければ入ることは到底無理だろう。2人とも人生の目標があっていいな。


「俺は…稲高」


稲高ー稲丘高校。稲丘市の唯一の公立の高校で頭は良いが、地味でThe田舎の高校といった感じで地元の中途半端な中学生が行く所だ。


「あ、そこなんだ。そこ倍率高くなかったけ?」

「大体の人はそこ行くんだろ。俺らのクラスの奴ら大体そこだろ」


倍率は高い。前期で受かるかどうかは分からないが、そこに落ちれば北丹高校に行かなくてはならない。それだけは絶対に嫌だ。


「だからこうして勉強してるんだよ、絶対に北丹高校にだけは行きたくねぇからな」

「あはは…受かってね」

「北丹高校の奴ら、俺ん家の前でタバコを堂々と吸ってるから嫌いなんだよな」

「えっ…筋肉ゴリラの家って北丹高校からすごく近かったよね?」


そう、北丹高校の生徒はみんなヤンキーばかりでその素行も酷い。そして先生も、もう打つ手がないのか放置している。


「徒歩3分ぐらいで着くぜ」

「うわぁ、よく吸えるよなぁ。やっぱり俺、稲高行かなきゃソイツらと同等になるもんな」

「飴岩くんがタバコ吸ってたら水かけるから大丈夫だよ」

「落ちた前提かよ…」


そう楽しく話して勉強会はお開きとなった。家に帰った俺はすぐにベットで仮眠を取った。今日1日何も食べれなかったなぁ、ストレスのせいだろう。


食欲の秋じゃない。ストレスの秋、受験鬱の秋だ。紅葉なんてちっとも綺麗じゃない。

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