第12話〜刃

紅茶を全てのみ、菓子も食べた。机の上には空のカップと空の更に空のケーキスタンドだけになった。


「わぁ、全部食べちゃった。これが何もなくなるのは人生で初めて見るかもね」

「どんな人生歩んできたんだよ、ケーキぐらい別腹ってお袋から習っただろ」

「えっ?…うん、そりゃあモチロンよ」


俺は小さい頃にいとこの兄ちゃんから言われた冗談じょうだんを彼女に言った。この冗談じょうだんは応用が使えるから好きだ。


しかし、炎華ほのかは本当に驚いた顔で返してきた。その声色こわいろは沈んでおりなんとも後味が悪い。


まさかこのジョークで彼女は落ち込んだのか?おいおい、この冗談じょうだんで何が傷ついたんだよ。


…待て、まさか。


炎華ほのか、お前のお袋って」


彼女の頭は下を向いており、前髪と目の花のせいで表情は見えないが明らかに、この話題に触れたくないみたいだった。


少しずつ、炎華ほのかは顔を上げる。日が、少しずつ登るようにゆっくりと、ゆっくりと顔を上げる。


その上げている時間が10分のように感じた。それぐらい遅くて、自分があまり集中せずに見ているからだと思う。


顔を上げきると、彼女の目は流し目となっており、下のまつ毛と上のまつ毛の間の距離はほぼなかった。というか、もうついていた。


口は花のつぼみのようにキュッと閉じており、唇の赤みがほんのり増した。片方の手は二の腕をしっかりとつかんでいる。


これは完全に不機嫌である。


「あー、うん、なんかごめん。なんか地雷踏んだみたいだ」

「地雷という言葉は分からないけど、あの人の話はこれからはしないで」

「うん、了解了解」


完全にプッツンしている。

俺がこう言った後に、炎華ほのかは分かりやすく口角が上がり、目も細くなる。


「分かってくれたらいいの!それよりね、泉水いずみちゃんは最近は何してたの?」

「俺はなぁ…」


俺は最近は何をしていたのか、シンプルな普通の質問なのにすぐに答えは出なかった。




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