魔法少女のお仕事 1

 彼女は半分透明で、半分は緑色である。彼女の髪と、装飾の一部は、そのような色をしている。


 彼女の剣は白色に薄く緑色の膜を張ったような刀身で、鎧とドレスを合わせたようなコスチュームも、同様の色合いをしている。


 キュア・ダイヤモンドが剣を振るう。蚊とゴキブリをあわせた巨大な蟲の見た目の“魔法使い”たちの一匹が剣の圧に負け、体が半分にひしゃげる。決して切れ味の悪い剣ではない。しかしキュア・ダイヤモンドの剣を振るうスウィング・スピードと比べるとまだ足りなかった。結果として敵の体は剣で切られたというよりも巨人に捩じり切られたと言い表すべき惨状と化し、近くのビルの壁面に叩きつけられたのである。


 ホワイトリリーがやってきたとき、すでに避難誘導は終わっており、ここK県K市の“魔法少女”の一人であるキュア・ダイヤモンドが一人で“魔法使い”たちと闘っていた。


 魔法使い。魔法使いは、魔法少女の敵であり、人類の敵だ。20YY年の初頭に突然、繁華街の中心に第一号となる魔法使いが“異界”から現れ、のべ2000人にのぼる犠牲者を出した。魔法少女が一般に知られるようになって以降も、たびたび現れ、無作為に人間を殺していくのだ。その種類は多様であり、今回のように巨大化した蟲のような“魔法使い”もいれば、アンホーリー・トライフェルトのような人語を理解できる一般的なイメージに近い“魔法使い”も存在している。


 今回の発生地点は“魔法少女ロード”と呼ばれる歓楽街の一部だった。魔法少女のグッズが公式、非公式問わず売り出されている店が立ち並ぶ、コアな地域である。幾何学模様に配置された地面の一部が抉れ、今もまた“魔法使い”がその中から出てきている。


 キュア・ダイヤモンドが、ビルの壁を這ってダイヤモンドの背後へまわろうとする“魔法使い”目掛けて自らの専用武器、サップレッサー・ウィズ・ダイヤモンドを投擲した。耳が痛むほどの風切り音とともに突き刺さり、鉄筋コンクリートとサップレッサーの間に挟まれた敵が破裂した。


「チクショウ!気持ち悪いな!」


 自分目掛けて飛んできた魔法使いを叩き潰し、ダイヤモンドはそう吐き捨てた。そして瓦礫の上をふよふよと浮かぶホワイトリリーの姿を認め、顎をクイと上げた。


「遅かったじゃんか。なにしてたんだよ」

「ルビーは?」


 道路標識を引っこ抜き、叩いて弾き飛ばす。

 片腕をあげ、手招きをすると、壁から剣が抜けてダイヤモンドの手におさまる。


「なにしてたんだってんじゃん」


 ダイヤモンドは非常に気性の荒い魔法少女だ。オブシディアンたちK市の魔法少女たちのなかでは僅差で加入が遅いが、三人のなかで最もパワーがあるのは彼女である。


 傍若無人で、やや自己中心的な向きがあるところはオブシディアンと似ているが、どちらかと言えばダウナーで相手に諦めさせようとするオブシディアンと比べると、こちらは強い口調で迫るタイプだ。


 しかし好きな食べ物はアップルパイで、休日はルビーとよくでかけている。仲間をよく気にかけ、仲間のために矛をおさめられる。協調性はむしろあるほうである。


「オブシディアンのところにいた」


「あいつ、来ないんだろ? 今ここにいないってことはそういうことだよな。ルビーはあっちで避難誘導の手伝いと、アタシの撃ち漏らしの片付けをやってもらってる」


 東の方で火柱が上がる音が聞こえた。


「ほら、な?」


 とダイヤモンドが何故だか得意げに言った。


「わからない」


 ホワイトリリーが言った。

 なぜそう言ったかはわからなかった。

 ダイヤモンドにはそれがわかった。にやり、と皮肉っぽい笑みを浮かべ、「お前、けっこうオブシディアンのこと好きだよな」とからかう。


 ホワイトリリーは否定しなかった。する気にもなれなかったのか、痛いところを突かれた気分になったかも判然としなかったからだ。


 ただオブシディアンのことを考えるのが嫌で、「敵のタイプは?」と訊いた。


 ダイヤモンドが真面目な顔になった。話しながらも彼女はゴキブリもどきをほとんど逃がさず、切り潰していった。


「虫系! マジ気持ち悪い! 操られてる感じしないし!あの路面の穴の下はもう“異界”に通じてた! てことは! ここのやつらをぶっ殺せば問題なし!」


「あんまりきつい言葉を使うとまた変な粘着されるよ」


 ダイヤモンドが歯を剥きだしにして笑った。数か月前、メディアの前で暴言まがいのトークを繰り広げた彼女は、一緒に出ていた他の街の魔法少女の信者に攻撃され、ネットで炎上しかけたことがあった。


「そのときはそのとき! こっちはなんとかすっから、リリーはゲート見てみて!」


「わかった!」


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