第2話まずは痩せようや

家にあるトレッドミルの上で私は歩いている。いや、歩かされている。


「京子ちゃん、おはようさん」


時計を見ると朝の6時。


「元気よく運動するで!」


嫌よ、何言ってるの。


「ほなまた乗っ取らせてもらうわ」


体が起こされた。ちょっとちょっと待ってよ。


「いいや、待たれへんで」


なすがままにTシャツに短パン姿になり、ホームジムに行った。我が家には24時間使えるジムが有る。


「立派なジムやん。使わん手はないで」


準備運動をする。こんな朝から運動なんて嫌だ。


「京子ちゃんが嫌がろうと毎日やるからね。ワシに任せとき」


トレッドミルのペースを遅くして、早歩き程度の速さに設定して、私は歩き出した。


「目標は30分。頑張ろうな」


そう言いつつも私の体は乗っ取られている。10分もすると息が上がって来る。苦しいが体を乗っ取られているので抵抗できない。もうダメ。動けない。


「京子ちゃん、ガンバ、ガンバやで」


関西弁が気に入らない。なんで朝から運動なの?


「そりゃ決まってるやん。痩せて周りを驚かせるんや」


汗をダラダラ流しながら歩き続けた。


「いきなり走ったりしたら膝もいわしてしまうし、長続きせえへん。まずは歩く事からやな」


シャワーを浴びて汗を流し、部屋へ戻った。力が抜けてベッドに倒れ込む。


「次は7時からの朝ご飯やで。一汗かいた朝メシはウマい」


肉体からオッサンが抜けるのを感じた。


「まあ、騙されたとおもってメシ食ってみ。美味しいから」


疲れた体を引きずって食堂へ向かった。オッサンの言いなりでは無くて、純粋にお腹が減ったからだ。メニューはサラダ、ブロッコリーを1つ丸ごとでたもの、ササミを蒸したもの。


「ドレッシングはノンカロリーです。お好きなだけかけてください」


メイド長の笹原さんが説明してくれた。ドレッシングは酸味が効いて美味しい。父と母は


「あら、京子が珍しい」


「母さん、昨日から京子は食堂へ食べに来たんだ」


「野菜ばかり。大丈夫?」


母親は太っている。私へ遺伝したんだろう。朝食を終えてすぐに部屋に戻った。


「なんでそんなに早く部屋帰るん」


兄妹に会いたくないからだよ。


「なるほどな、まあ無理して会う必要はないわ。今は目標が有るからな」


目標って何よ。


「体重30キロ減」


そんな無茶できないよ。


「これから朝晩歩くから。大丈夫、直ぐ慣れるから」


私はベッドに倒れ込んだ。


「まあ初日やさかい、ゆっくり休んでや。後、おやつ厳禁な。ほな俺も抜けるよってに」


体が軽くなった。心地よい疲労感に誘われ、眠った。深い海へ沈むような気分だった。


「お嬢様は盗聴器の存在に気が付き、排除されました」


侍従長の板倉が父の書斎で報告した。


「まあ、仕方あるまい」


父、啓二はスーツを着て身だしなみを整えている。


「まあ、様子を見るか」


ジムで運動するなど今まで無かった事だ。娘の心情がどのように変わったのか知りたいところだが、しばらく様子を見よう。


「板倉、しばらく京子から目を離さないように」


「かしこまりました」


そのやりとりをおっさんは聞いていた。

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