第43話 ニコラス

「待ってください、アレックス!!」

 中継地点を出ようとする俺たちに、ニコラスが声を掛けてきた。


「ニコラス?」


「話は聞きました。まさかデール先生が貴族至上主義者だったとは……」


「悪いニコラス。今はちょっと急いでいるんだ」


 アレックスが話を遮ろうとするが、ニコラスはそのまま続けた。

「同じ勇者クラスのパーティを助けに行くんですね? 私も連れて行ってください! 少しでも戦力があった方が良さそうです」


「ニコラス……お前……」


 たしかにデールの様子だと、グールより危険な罠が仕掛けられていそうだ。

 トバイアス学園長はデール拘束のため動けそうになかったので、少しでも戦力が欲しく有り難い申し出だった。


 ただ、一人でいる彼を連れて行くなら、俺たちのパーティに入れる必要があった。

 そうなるとひた隠しにしてきたレベルがニコラスにバレてしまう。彼は俺たちを過少評価していないとはいえ、正確なレベルは分かっていないはずだ。

 こらちらの手の内を晒してまで、参戦してもらうか悩みどころなのだ。


「アレックス、私は自分のパーティから抜けているので、そっちに入れてもらえないですか?」


「ニコラス…………、一つ約束をしてもらえないか? これから起こることは、すべて口外しないでほしい。それが守れるなら、お前にも来てもらいたい」


「約束? アレックス、君がそこまで言うには余程の理由があるのですね。分かりました、マクスウェル家の名に懸けて、これから起こる全てを口外しないと誓いましょう!」


「そうか、助かる」

 アレックスはそう言うと、パーティメンバーにニコラスを加えた。


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 パーティランク -

 リーダー

  アレックス  レベル16

 メンバー

  ブラッドリー レベル15

  セシリア   レベル15

  エメライン  レベル15

  テツヤ    レベル13

  ニコラス   レベル15

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「なんだい、君たちのレベルは!?」

 パーティステータスを見てニコラスが驚いた。


「けっ」

 ブラッドリーが不服そうな表情をする。

 アレックスが参加を認めたので、敢えて何も言わないようにしているが、できればバレたくはなかったのだろう。


「ニコラス君、約束は忘れないでね!」


「セシリアさんでしたっけ? はい、それは誓って。ただ、まさかこれ程とは思ってなかったので、驚いてしまって……。彼なんてたしか、うちのパーティと模擬戦で対戦したときに、闘技場のセーフティ魔法を起動させていた男子ですよね? あの時はどう見てもレベル10の素人だったのに……」

 ニコラスが俺に視線を向けた。


 今でも強くなっているとは言い難いが、レベルだけ見れば俺も魔王クラスに匹敵していた。

 ニコラスからすれば驚きの成長なんだろうが、俺から見れば学園の授業だけでレベル15にまで上げたニコラスの方が驚きだった。


「今のテツヤさんは優秀ですー」

 エメラインが笑顔で俺を立ててくれる。


「そうみたいですね。テツヤ君、改めて自己紹介をしますが、魔王クラスのニコラスです、よろしく!」

 ニコラスが握手を求めてきた。


 まさか、この俺が学年最高の生徒と知り合うようなことになるとは。

 もともとアレックスの知り合いというのもがあるが、差別されていたころを思い出すと気分が良かった。


「おい、てめら急いでいることを忘れるんじゃねえぞ!」

 ブラッドリーが強めに言った。


 そうだった。今はクラスメイトのことが心配だ。

 俺たちは再度、初級コースを急いだ。




 それから1時間程度で、勇者クラスのパーティに追いついた。

 どうやら俺たちの救援は間に合ったようで、全員無事のようだ。

 ただ、仕掛けられた罠は起動してしまっており、このエリアには存在しないモンスターが、初級コースを塞いでいた。


「おいおい、結構デケえのがいるじゃねえか! あれってオーガってやつじゃねえのか?」

 ブラッドリーが指を差すと、


「いや、オーガじゃなく、オーガゾンビのようだ」

 俺はそれを訂正した。


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 名前 オーガゾンビA

 レベル 22

 種族 オーガゾンビ

 HP 772/772

 MP 257/257

 攻撃力 114

 防御力 85

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 現れたのは、オーガと呼ばれる人食い鬼のアンデッド化したモンスターだ。

 身長は3mほどあり、くすんだ青色の肌を持つ。邪悪で醜い面構えは、今まで遭遇したどのモンスターよりも恐ろしい外見だった。


「オーガゾンビだって!? ベテラン冒険者が戦うようなモンスターじゃないですか!」

 ニコラスが声を上げた。


 そういえばニコラスが参加しているのだった。

 『慧眼』を持っているのがバレたら、『異世界人』だと疑われてしまうだろうか。


「テツヤ君、レベルは?」

 セシリアがいつものように確認をしてきた。


「あ、えっと……」


「テツヤ、大丈夫だ。ニコラスを信じろ」

 俺が躊躇していると、アレックスが言った。


 そういうことか。アレックスがニコラスに口外しない約束を求めたのは、レベルを知られることを怖れたのではなく、俺のために言っていたのだ。

 『慧眼』だけ隠し通すことはできても、あのモンスター相手にユニークスキルを使わない訳にはいかない。

 アレックスはこれを想定していたのだ。


「あのオーガゾンビはレベル22だ!」

 俺は意を決して言った。


「レベル22かよ! デールの野郎、とんでもねえもん仕掛けやがって。おい、てめら、ここはオレ様たちに任せて、さっさと逃げやがれ!!」

 ブラッドリーは勇者クラスのクラスメイトに声を掛けた。


「ちょ、ちょっと待って」

 ニコラスが慌てた様子で言った。

「レベル22のオーガゾンビって、いくらこのメンバーでも勝てるようなモンスターじゃないですよ!? みんな戦う気なのですか? それに、テツヤ君のそのスキル……」


 戸惑っているニコラスに、アレックスが近づき肩に手を置いた。


「ニコラス。最初の質問だが、あれを放置しておくわけにもいかないだろう。俺たちだけで何とかするぞ。それと、言っておくがテツヤは『異世界人』ではないからな。ただ、『慧眼』を持っているのは事実だ。変に調べられるのが面倒ってだけだ」


「そうでしたか。それであんな約束を……」


「それにな、驚くのはこれからだぞ」

 アレックスが珍しく笑みを浮かべた。


「え? それはどういう――――」


「よーし、てめら! 久しぶりの大物だ、気合入れていくぞ! ニコラス、足引っ張るんじゃねえぞ!!」


「も、もちろんだ、ブラッドリー! 君たちがやる気なら、こっちだってやってみせるさ!!」


 学年ナンバー1の優等生に、こんな口を利けるのはブラッドリーぐらいだろう。


「テツヤ君、頼むわね。前回は出し惜しみしたけど、今回は頭からよろしく!」

 セシリアはミノタウロス戦のことを言っている。


 実はユニークスキルを使うのは、あの一件以来だった。

 使わなければならないような相手と戦うことはなかったし、一日一回までという制限が、あまりにも中途半端で使う機会を失っていた。


「テツヤさん、今回も大活躍ですー」

 エメラインが屈託のない笑顔を見せる。


 前回は彼女が危険な状態になってからユニークスキルを使った。

 大活躍どころか、あんな目に合わせたのは俺のせいなのだ。


 今回は出し惜しみなんてしない。

 最初から全力でパーティのために力を出し切ってみせる。


「始めるぞ、テツヤ!!」

 アレックスが俺に言った。


 開戦の合図だ。

 俺は大きく息を吸うと、絞り出すように叫んだ。


「青! 春! 万! 歳!!」

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