第40話 学年遠征

 それから俺は、何の懸念もない学園生活を送ることができた。

 若い頃は時間が経つのを遅く感じていたが、中身が30代のせいかあっという間に時が経つ。気づけば一年生もあと少しとなっていた。


 授業をサボりダンジョンに潜る生活を続けたおかげで、年度の終わりにある全員参加の学年遠征が行われるころには、五人ともレベルが入学時より3上がり、アレックスが16、ブラッドリー・セシリア・エメラインが15、そして俺ですらレベル13になっていた。

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 名前 テツヤ

 年齢 16歳

 レベル 13

 種族 人間

 職業 冒険者見習い

 HP  142/142

 MP  112/112

 攻撃力 33

 防御力 32

 武器 鉄の棍棒

 防具 学園服


 基礎パラメータ

  筋力 :111(+2)

  生命力:111(+2)

  知力 :111(+2)

  精神力:111(+2)

  敏捷性:111(+2)

  器用さ:111(+2)

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 他のクラスを見ても、大多数の生徒がレベル1しか上がっておらず、勇者クラスの他のメンバーにおいては半分が10のままだ。

 ユニークスキルの恩恵なのかは分からないが、レベルアップが早いのは間違いなさそうだ。


「なあ、遠征は参加するのか?」

 遠征出発の朝、一年生が全員集合している中で、俺はセシリアに聞いた。


「なにテツヤ君、行きたくないの?」


「いや、そういうわけじゃないけど」

 遠征は何をするのか知らないが、ダンジョンに行っていた方が効率いいだろうし、学園の行事で得るものがあるとは思えなかった。


「おいテツヤ! オレ様たちは学園の生徒なんだから、参加するのが当たり前だろうが!」


 なんでブラッドリーが偉そうに言うのか分からないが、契約をしている彼らからすれば、参加しないように言われなければ、参加する方が普通なのかもしれない。

 サボりすぎたせいで、俺が一番学園の生徒としての自覚が足りない気がした。


 遠征で向かうのは、王都の外にあるモンスター生息エリアの森。

 かなりの数の馬車を用意し、本当に一年生全員で移動した。

 これはちょっとした遠足気分にもなり、三年生になったら修学旅行でもあるのだろうかと、期待もしてしまった。


 引率する大人は、学園長トバイアス、魔王クラス担任デール、勇者クラス担任、事務員が三人だった。

 学園長トバイアスと魔王クラス担任デール以外は、皆レベルが一桁で職業は町民と表示されている。



「やあアレックス。今日は別々みたいで残念だよ」

 現地に着くと、魔王クラスのニコラスが声を掛けてきた。


 最初の頃と違い、勇者クラスへの差別は表面的にはなくなっていたが、積極的に交流をしてくるのは、入学式に新入生代表で挨拶をした、この優等生ニコラスぐらいだった。

 魔王クラス筆頭であるニコラスは、平民だろうが勇者クラスだろうが一つも偏見を持っていないように見える。

 あまりに非の打ちどころがなさすぎて、逆に好きになれそうになかった。


「ニコラスか。遠征はレベルに合わせてコースを分けるからな。うちはお前ら魔王クラスと一緒になることはないだろう」


「勇者クラスは初級コースみたいですが、君たちじゃ物足りないだろうね」

 ニコラスは皮肉のない笑顔を見せる。

 初等学校時代からアレックスの知り合いである彼は、アレックス達の強さを正しく理解してそうだ。


 今回訪れたモンスター生息エリアは、難易度別に森の中のルートが設定されていて、ニコラスの言っている通り、俺たち勇者クラスは初級コースへ行くことになっていた。

 A~Eクラスは、その上の中級コース、魔王クラスはさらに上の上級コースと、クラスによって別々に決められていたが、スキー場みたいなものだと思えば、差別というより適切な区別なのだと感じた。


「それでは皆さんには、これからパーティ毎にモンスター生息エリアへ入ってもらいます! 低レベル層向けのエリアとはいえ、モンスターが出現しますので、気持ちを引き締めて進むようお願いします」

 引率の事務員が説明すると、学年遠征が開始となった。


 俺たちは地図を開き、指定されたコースを確認した。

 ニコラスに言われたように戦闘としては物足りないだろうが、ハイキングだと思えばいい。

 いつもは暗いダンジョンの中だが、今日は外だ。それだけでも気分が違う。


「テツヤさん楽しそうですー」

 俺の様子に気づき、エメラインがそう言った。


「そ、そうか? 王都から近いと言っても、ここは初めてだし、今日は天気がいいからな」

 やはり遠足をするなら晴れた日に限る。


「朝はやる気がなさそうだったくせに、てめえ何やる気になってんだ」


「別にやる気になってるってわけじゃ……」

 いちいちブラッドリーに言い返すのもなんだが、俺は曖昧に否定した。



 初級コースは、ゴブリンしか現れることはなかった。

 それでも同じ勇者クラスの、もう一つのパーティは必死に戦っているようだが、俺たちだと相手にはならなかった。


 それどころか、アレックス達四人は温存したまま、俺だけでも勝てるようになっていた。

 おかげで俺ばかり戦わせられて、一人だけ忙しい遠征になっている。


「な、なあ。さすがに俺一人で戦うと疲れるんだが……」


「てめえはスキルレベルが低いんだから、上げるチャンスじゃねえか。危なくなったらオレ様が助けてやるから、しっかり頑張れや!」


 おいおい、マジで手伝わねえつもりなのか。

 百歩譲ってブラッドリーが気を使って言っているとしても、こっちはスキルポイントがないとスキルレベルは上がらないんだから、こういうの意味ないんだが……。


 もっと気楽な感じで参加していたのに、なんだかつまらない展開になってきた。



 それから、俺たちは森の中で一泊することになった。

 遠征と言うだけあって、二日がかりの長い道のりで、こういう夜営の訓練も兼ねているという話だった。


「テツヤ君、料理スキルはいくつなの?」

 焚火を囲みながら、料理を手伝わなかった俺にセシリアが聞いてきた。


「料理スキル? えっと、1みたいだけど……」


「1? いくら料理やったことなくても、スキルレベル1のままって逆に凄いわよね」


 関心するように言われると恥ずかしくなる。

 スキルポイントを割り振らないかぎり、スキルレベルは1から上がることはない。これはきっとセシリア達も知らない『異世界人』の特徴なんだと思うが、今は黙っていた。


「テツヤ、てめえのスキルレベルの低さはオレ様でも同情するぜ。普通に暮らしてりゃあ誰でもそれなりに上がるんだが、てめえはどうやって生きて来たんだ? そういやあ、初めてテツヤを見た時も当たりもしねえ剣を振り回してたな。あれもスキルレベル3以下だったんだろ?」


「ま、まあそんなとこだ……」

 棍以外は今でも1だよ。嫌な事を思い出させるな。


 そういえば、あの頃はこの世界に慣れておらず、呆れるほど空回りしていた覚えがある。

 おかげで勇者クラスに落とされ、差別されたり危険な目にあったりはしたけど、今ではクラス落ちして良かったと思っている。


 アレックス達と出会って、色んな意味で成長し、充実した時間を過ごせている。

 この先、この世界でどう生きていくのか不安がなくはないが、とりあえず今は、この時間を大切にしよう、そう思っていた。


「テツヤさん、またニヤニヤしてますー」


「やだテツヤ君、どうしたの!?」

「テツヤ、てめえ何考えてやがる!」

「テツヤ、気を抜きすぎだぞ」


 ちょっと、エメラインさん、そういうことをいちいち報告しなくてもいいんだよ。


 俺は表情を見られないよう、顔を伏せた。

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