第37話 エクストラスキルの習得

 また元の学園生活に戻った。

 と言っても、実技系授業はほとんど出席しない、落ちこぼれた生徒としてだが、そうしている理由を知っている俺は、それに何の不満もない。


 アレックス達と違って俺は学園と契約しているわけではないので、別に真面目に授業を受けたところで問題ないのだが、他のパーティと組むつもりもなく、彼らと同じように過ごすことにした。


 それと、有料ダンジョンへは、週に2回行くようになった。

 休日だけでは効率が悪いので、平日も全員で学園に行かず有料ダンジョンへ潜る日を作った。

 もちろん学園側は、それについて何も口出ししてはこない。



「ねえ、ダンジョンはちょっと中止にして、エクストラスキル習得期間でも作らない?」

 ある日、ダンジョンから学園に戻ると、解散前にセシリアがそう提案してきた。


 エクストラスキルの習得には2週間ほど掛かるらしいが、俺たち学園生は夏休みぐらいしか、そんな長い時間を確保できない。

 3年生になれば、学園の授業でエクストラスキルの習得機会があるようだが、勇者クラスにも同じようにあるかは疑わしい。


 学園には何も期待せず、俺たちは自分たちの力で強くなろうと決めていた。


「オレ様も同じこと考えていた。セシリア達と違って、オレ様は魔法を習得することはねえし、アレックスみたいに装備へのこだわりも少ねえ。シーフ系はコモンスキルにしてもエクストラスキルにしても、扱う種類が多いからな。そろそろエクストラスキルを増やしてえところだったぜ」


 ブラッドリーの言葉に俺は共感した。

 魔法使いのセシリアと僧侶のエメラインは、魔法習得が大事なことだし、戦士のアレックスは装備を揃えることが大事だ。

 だがシーフのブラッドリーにとって大事なのは、そのどちらでもなく、スキルってことなのだ。


 それは、俺も同じようなもので、MPが低い俺は、魔法ばかり習得したところで意味がないし、武器スキルが低く、重い鎧を装備しないので、装備品をこれ以上変える理由もない。

 コモンスキルはスキルポイントが必要なので、俺に出来ることはエクストラスキルの習得ぐらいだと気づかされた。


「セシリアとブラッドリーが言うなら反対の理由は無い。テツヤ、お前もそれで構わないか?」

 アレックスが俺を見る。


「ああ、俺も賛成だ。正直、俺が持っているものはいつも役立つって感じでもないしな。戦闘中に効果のあるエクストラスキルが欲しいと思ってる」

 他人のステータスが見える『慧眼』は、普段のダンジョンではほとんど使い道がなかった。


「私も問題ないですー」

 アレックスの視線に気づいたエメラインも答えた。


「なら決まりだな。当分、重要な講義もなさそうだし、明日からはエクストラスキル習得のための期間にする」


 2週間も学園をサボるのは、さすがに少し後ろめたいが、アレックスの言葉で俺たちの予定が確定した。




 翌日、それぞれが習得したいエクストラスキルに合わせたギルドへ向かった。

 アレックスは戦士ギルド、ブラッドリーはシーフギルド、俺とセシリアとエメラインは三人同じで魔法使いギルドだ。


「テツヤ君はシーフギルドにするのかと思ったわ」

 魔法使いギルドに向かう途中、セシリアがそう言った。


「たしかに、シーフギルドで習得できる『見切り』も捨てがたいが、最初に習得するのはだいぶ前から決めていたからな。それより、エメラインは教会じゃなく魔法使いギルドでいいのか?」


 俺は、ピンク色の髪が似合うのは世界で唯一人なんじゃないかと思っているエメラインに尋ねた。


「光属性も魔法には変わりないですのでー」

 エメラインが、にこにこして言った。


 エメラインの言っていることは分かるが、光属性は魔法の中でも特別で、教会で習得できる関連エクストラスキルが多い。

 だが、今回エメラインが習得したいものは、属性に関係なく効果のあるエクストラスキルのようだ。


 俺

 大地の恵み:地属性魔法の消費MPが減る。


 セシリア

 大気の息吹:風属性魔法の消費MPが減る。


 エメライン

 瞑想:魔法のインターバルが短縮される。


 俺たち三人の習得したいエクストラスキルはこの通りだった。


 俺とセシリアは同じ思いだったのだろう。ダンジョンへ行くと、だいたい俺かセシリアのMPが尽きることで終了になることが多かったのだ。

 エメラインは、まだ複数同時に回復魔法を掛けることができないので、二人以上の怪我人が出たときに備えて、『瞑想』を選んだようだ。


 16歳の学生といえど、みんなしっかり考えているのが分かる。

 普通の学生は、カッコ良さとかで選んでしまうようなのに。



「おや? これはいらっしゃい。ずいぶんお若いですが、歓迎しますぞ」

 魔法使いギルドに入ると、ローブを着た老人が迎えてくれた。

 ステータスを見ると、レベル30の魔法使いだ。


「すみません、エクストラスキルの習得に来たのですが」

 セシリアが老人に言った。


「エクストラスキルですか。あなた方はかなり優秀な若者のようですな。どれ、希望のものを選んでくだされ」

 老人は、エクストラスキルのメニュー一覧のようなものを見せてくれた。


 俺たちは希望スキルが決まっていたので、すぐに老人に伝えた。

 ちなみにエクストラスキルの習得にはそれなりにお金が掛かるが、ミノタウロスから手に入れた赤い魔鉱石を、一つだけ銀貨に換えることにしたので、懐はかなり余裕があった。


「それでは、ご存知だとは思いますが、エクストラスキル習得までの段取りを説明しますの。まずは適正確認をして習得可能か見極めてから、スキル登録をします。登録だけでは使用できんので、それぞれに教官を付けて、習得訓練を行ってもらいます。習得期間は差がありますので、しっかり頑張ってくだされ」


 適正確認か。

 金さえ払えば何でもかんでも習得できるわけじゃなさそうだ。


 俺は、自分の才能に自信がないので習得できるか心配になったが、適正なしと出るのはそれなりに高レベルのエクストラスキルらしく、今回は俺でも適正ありと判定された。


「では、次にエクストラスキルの登録をします。登録出来たら各自でスキル画面を確認してもらえますかの」


 俺はエクストラスキルの画面を表示した。

 最初はいつも通り『慧眼』だけが載っていたが、少しすると『大地の恵み』が増えた。


「なんと!?」


「ん?」

「え?」

「???」


 魔法使いギルドの老人が、何かに驚いた。


「これは珍しいの……。いくらなんでも…………違うとは思うが」


「何かあったのですか?」

 怪訝そうな老人にセシリアが聞いた。


「そこのお兄さんの方。エクストラスキルの画面は確認したかの?」

 老人が俺を見た。


「え、ええ……」


「新しいスキルは習得できとるか?」


「えっと、ちゃんと『大地の恵み』って表示されましたが……。え? 習得? 登録じゃなくて?」


「登録されたスキルは、薄い文字で表示されるはずじゃが、いかがかの?」


 俺は、一緒に表示されている『慧眼』と、文字の濃さに差が無いことを確認した。

 どういうことか分からなかったが、習得できているようだ。


「その様子じゃ、しっかり習得できたようですな」


「登録しただけで、習得できることもあるんですか?」

 2週間の訓練をしなくても済むなら、ラッキーなのだが。


「ごく稀にですがの。ただ、一般的には登録と同時に習得ができるのは、『異世界人』だけですじゃ」


 !!!!?


 また『異世界人』か。

 やはり、死んで転生してきた俺は、この世界で忌み嫌われている『異世界人』なんだろうか。


「ちょ、ちょっと待ってください! 彼はまだ16歳なので、『異世界人』なわけないです!!」

 セシリアが慌てた様子で、割って入ってきた。


「たしかに、18歳以上には見えんが」


「で、ですよね。彼、地属性しか使えないので、もしかしたら極端に相性が良かったのかもしれないです!」


「なるほど。私は見たことないですが、適性がかなり偏っていると、こういうこともあると聞いたことはありますの」


「きっとそれです! 他のエクストラスキルは覚えるのに苦労してましたし!」


 老人はだいぶ納得したような表情を見せた。

 少し嘘が含まれているが、セシリアの機転で『異世界人』扱いはされないで済んだ。


 結局、習得できた本当の理由は分からないが、今回は訓練の必要がなくなった。

 訓練が必要なセシリアとエメラインは魔法使いギルドに残ったが、俺はそのまま学園寮に戻ることにした。

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