第9話 スキルの仕組み

 それから、実技授業はひたすら、武器なら棍棒を、魔法ならブロックの訓練だけを繰り返した。

 まずは一つでもスキルレベル4をと目指したのだが、半月経っても上がらなかった。


「ねえねえキミ。棍の才能はないんじゃないの? そこまでやってスキルが3から4に上がらないなんて聞いたことないよ」

 的にまったく当たらない俺に見かねてか、セシリアがそう言った。


 今日は珍しく誰もバックレず、四人とも俺の訓練を見学していた。


「ハア……ハア……、そんなもんなのか?」


「武器スキルってスキルレベル3から4は上がりやすいはずなんだよね。普通、五日も繰り返せば上がるのに。今からでも変えてみたら?」


 セシリアは、良い奴とまでは言えないが、最初に魔法やスキルの事を教えてくれたし、聞けばアドバイスしてくれたりもする。

 パーティ内では一番信頼して良さそうな相手だ。


「バーカ。こいつは才能がないから何やっても一緒だろ。無駄なことさせんな!」

 ブラッドリーがニヤけた顔で言った。


 こいつは一番信頼できないし、一番ムカつく。

 帰ればいいのに。


「テツヤさーん、当たらなくて面白ーい」


 エメラインはふわふわした性格で、まったく俺とはコミュニケーションが成立しない。

 性格がキツいセシリアよりは彼女の方がタイプなんだが、正直一番遠い存在な気がする。


「なあアレックス。てめえは戦士見習いなんだから、武器の使い方教えてやったらどうだ?」


「くだらん」

 アレックスはベンチに寝転がったまま答えた。


 彼はいつも無口で、寮の部屋で話すことはほぼないし、教室で誰かと話しているところも見たことない。

 寡黙で近寄りがたい雰囲気を持っているせいか、話しかけるのはブラッドリーかセシリアぐらいなものだ。


「おいアレックス! なんだてめえの態度は! 殺されてえのか? あ?」

 ブラッドリーはベンチを蹴とばした。


「ちょっとちょっと、あんた達こんなところでやめなさいよ!」


 アレックスが立ち上がり、ブラッドリーを睨みつけると、すぐにセシリアが止めに入った。

 この二人は度々ぶつかり合っていて、一度教室で大乱闘になったこともあった。


 いつも一方的にブラッドリーから喧嘩を売っているのだが、意外にアレックスはそれを買う。

 無口な男だが、戦士見習いだけあって好戦的なところがあるのかもしれない。


「チッ。空振りばっか見ててもつまんねえ。俺は帰るぜ」

 ブラッドリーはそう言い残して去っていくと、それを見ていたアレックスも、違う方向に歩いてどこかへ行ってしまった。


「もう、しょうがないな、男子たちは。ま、たしかに空振りは見飽きてきたけどさ。エメライン、私たちもどこか行こっか?」


 おいおいセシリア、なにが男子はしょうがないな、だか。


「じゃあテツヤ君、私たちも行くね。あとはよろしく!」


「ばいばーい、テツヤさーん!」


 女子二人が手を振っていなくなった。

 今、一応授業中なんだが……。


 俺は、いつものように独りになった。

 まあいい、ちょうど思うところもあったので訓練の手を止めた。


 セシリアが言うように、棍の才能がないからスキルレベルが上がらないかもしれない。

 俺は違う武器を考えてみるため、棍と地属性のスキルレベル確認するぐらいしか見ていない、スキル欄を開いた。


「剣、短剣、斧、槍、弓、棍、杖、槌……。武器っぽいのはこれぐらいか。格闘ってのは素手ってことかね。お、よく見たら回避ってのも3なのか」


 俺は並んでいるスキル名を眺めていた。

 やっぱり棍は3のままだし、他の武器は1から変わってない。


「武器によって才能の違いがあるなら、最初からスキルレベル3の棍が一番あると思うんだけどなぁ……。――――あれ!? これってもしかして……」


 俺はとんでもないことを見逃していたかもしれない。

 宙に映るスキルの画面をよく見ると、端の方に書いてあることに今まで気付かないでいたようだ。


「くっくっく。そうか、そういうことだったか! 今まで気付かなかった自分に腹が立つが、それはもういい。どうやら、異世界転生した俺はやはりこの世界の奴らとは違うようだ」


「はい、みなさん! 午前中の授業はそこまでです! 午後は魔法訓練ですので、引き続きパーティ毎に集まってください!」


 担任の声で訓練が終了になった。

 仕方ない。俺は午後の魔法訓練で、それを試してみることにした。



 午後は、都合のいいことにパーティメンバーは誰も出てこなかった。

 これで気兼ねなく自分のペースで試すことができそうだ。


 俺はスキル欄を映しだし、午前中に気付いた部分を改めて確認した。


 スキルポイント:24


 スキルレベルを上げるには、何度も繰り返し訓練するのではなく、スキルポイントを振り分けて上げるシステムだったようだ。


「ポイントを割り振れば簡単に上がるが、そうしなければ絶対に上がらない。そういうことなんだろうな」


 これはたぶん、転生してきた俺だけなんだと思う。


 俺は試しに地属性を上げてみた。

 すると思っていた通り、スキルポイントが減り、地属性が上がった。


「スキルレベル3から4に上げるためにはスキルポイントが3、スキルレベル5に上げるには更にスキルポイントが6必要みたいだな。スキルレベルが高くになるにつれて、必要なスキルポイントも多くなるのか……」


 仕組みは分かってきたが、俺が持っているスキルポイント24は、そんなに多いわけじゃなさそうだ。

 しかし、このまま持っていてもしょうがないので、俺はまず地属性のスキルレベルを6まで上げ、残った3ポイントを棍に使った。


「さて、これでどれだけ変わったか。――――ブロック!」


 いつもより身体が強く光り、感覚で防御力が上がったのが分かった。

 ステータスで確認してみると、かなり高くなっているようだ。


「よし! よし! よし!」


 また一歩前進した。


 やっぱり、転生者の俺はこの世界の住人よりかなり有利なのだろう。

 普通はスキルレベルを上げるには長い時間訓練が必要だし、どんなに訓練しても才能がなければ限界がありそうだ。

 その点俺は、スキルポイントさえあれば好きなスキルを、いくらでも上げることができる。


「わりいな、お前ら。俺はお前らとは最初から出来が違うようだ」

 何人かの顔を思い浮かべながら、俺は見下すように呟いた。


「あとは、スキルポイントをどうやって手に入れるかだが、レベルを上げると獲得するって考えるのが妥当だろうな」


 俺は絶望しかけていたこの世界に対して、大きな道筋が見えてきたことを実感した。

 まだやり直せる。まだ諦める必要はないんだ、と。

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