第6話 勇者クラス①

 勇者クラスは校舎の地下にあった。

 掃除が行き届いていないのか、Cクラスの教室より散らかっているように感じる。


 教室内にいる生徒は、今まで見てきた学園の生徒とは雰囲気が違う。

 一目でガラの悪いと分かる生徒がたくさんおり、平成、いや昭和の不良の溜まり場のようだった。

 黒い制服が一層それを引き立てる。


「おい、てめえ、聞いてんのか?」


 中でも一際ひときわガラの悪そうな生徒が、俺を怒鳴りつけてくる。

 短剣を投げたのはこいつのようだ。


「こらこら、ブラッドリー君、彼はクラスメイトだ。脅すのは止めなさい」


「あ? おっさん、何言ってんだ。コイツ青服を着てんじゃねえか」


「先生に向かって、おっさんは止めなさいと何度言ったら……」


「あ? 聞こえねえよ! モゴモゴ言ってんじゃねえよ!」


「あ、いや、彼は昨日までCクラスにいたから」

 どうも先生が生徒にビビっているようだ。


「昨日までCクラス? ギャハハハハハッ! ってことは、コイツ落ちてきたのか? マジか、そんなバカがいるのか! マジうける!」


 ブラッドリーとかいう生徒の馬鹿笑いが、教室内に響き渡る。

 こいつ、そのうちぶっ飛ばす。


「君はテツヤ君だね? 今日から君は勇者クラスの仲間だ。そこの席に座りなさい」

 先生が指した席は、よりにもよってブラッドリーの前の席だった。


「は、はい……」

 俺は仕方なくその席に向かった。


 途中、ブラッドリーが明らかにこちらを見ていたが、こういう奴とは目を合わさない方がいい。

 刺激しないように席に着いた。


「よ、よろしくな」

 隣の席の生徒が声を掛けてきた。

 こいつもチンピラのような風貌だが、ブラッドリーにのまれているのが分かる。


 どうやらこのクラスはブラッドリーが仕切っているようだ。前時代的な言い方をすれば、奴が番長。

 ブラッドリーとどういう関係を築けるかが、このクラスでのポイントになるだろう。


 バンッ!


 背中から音が聞こえた。後ろのブラッドリーが、机の上に足を乗せた音なのだと分かる。

 俺を挑発しているのかもしれない。人様に足を向けるなんて許せねえが、ここは我慢。来たばかりだし、様子が分かるまで目立たないよう俺は心掛けることにした。


 俺の学園生活は、思い描いていた青春ラブコメではなくなったかもしれないが、不良喧嘩バトルになんてならないよう、慎重に進めていく必要がありそうだ。



 後ろに座っているブラッドリーは確認できなかったが、見える範囲の生徒はステータスをチェックしてみた。

 落ちこぼれクラスのような話だったが、レベル10未満は見当たらず、総合的に見ればそこまで低い基礎パラメータでもなかった。

 ただ、皆知力が80台と低く、バカばっかりなのは間違いない。


 このクラスは、単純に能力が低いというだけでなく、素行が悪い奴が集められたのかもしれないな。

 だとしたら、せめて俺をEクラスにしてくれれば、いつか上がることが出来たかもしれないのに。

 今さらどうしようもないことを、俺は悔やんでいた。


「それでは、今後皆さんが行動を共にするパーティ分けを発表します」

 担任が教室内を見渡しながら言った。


 パーティ分け? なんだ、急に?


「先生ぇ、パーティ分けって何ですかぁ?」

 誰かが、俺の疑問を代わりに質問してくれた。


「実技授業は、スキルレベル上げの訓練だけじゃなく、模擬戦やダンジョン攻略など、より実践的な訓練も行います。分かっていると思いますが、実際の冒険者はパーティを組みますので、皆さんも同じように5人~6人でパーティを組み実践訓練を行ってもらいます」


 なるほど、パーティプレイか。

 なんだか冒険者っぽくなってきたじゃないの。


「えー、では第一パーティ。――――」


 担任が順番にパーティのメンバー名を読み上げていった。

 このクラスの人数は20名程度。四つのパーティに分かれることになりそうだ。


「第三パーティは以上。最後に第四パーティ」


 まだ、俺の名前が呼ばれてない。後ろのアイツも……。


「アレックス君。セシリアさん。エメラインさん。ブラッドリー君。テツヤ君。以上が第四パーティです」


 やっぱり。

 まさかブラッドリーと同じパーティになるとは。そのうちメンバー変更はあるのだろうか……。


 あれ? 女子の名前も入ってた?

 教室内には男子しか見当たらないが、もしかして女子もいるのだろうか?


 俺は懲りずに期待に胸を膨らませた。

 ブラッドリーさえ追い出せば、第四パーティは男女二対二になる。これはまだ諦めなくてもいいのかもしれない。


「痛っ!?」

 突然背中に痛みが走った。

 ブラッドリーが蹴とばしてきたようだ。


「よう、テツヤだっけ? てめえと同じパーティだってさ。よろしくな!」


 こいつだけは何とかする必要がありそうだ。


「それでは皆さん、さっそく武器スキルの訓練をします。訓練場に移動して、パーティ毎に集まってください」

 担任が恐ろしいことを言う。


 クソ、いきなりブラッドリーと一緒に訓練か。

 女子二人に期待するしか楽しみがなさそうだ。


「ほらっ、さっさと行けよ! 訓練場に移動だってよ!」

 ブラッドリーが再度背中を蹴ってきた。


 マジでいつかぶっ飛ばす。

 俺は奴に怒りの表情を見られないよう、訓練場へ移動した。



「なっ……」

 訓練場に移動し、改めてブラッドリーを見ると、そのステータスに驚かされた。


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 名前 ブラッドリー

 年齢 15歳

 レベル 12

 種族 人間

 職業 シーフ見習い

 HP  137/137

 MP  93/93

 攻撃力 8

 防御力 33

 武器 -

 防具 学園服


 基礎パラメータ

  筋力 :122

  生命力:113

  知力 :102

  精神力:103

  敏捷性:142(+6)

  器用さ:136(+6)

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 レベルが12じゃないか。職業も冒険者見習いじゃない。

 どうなってんだ、こいつは。


「なんだてめえ、変な顔してジロジロ見てんじゃねえよ!」


「あ、わりい……」

 俺はすぐ顔を逸らした。


 能力的には魔王クラスにいてもおかしくない。

 なんでこんなやつが勇者クラスにいるんだ。こんな強いんじゃ、負かして追い出すなんて難しそうじゃねえか。


「じゃあ各パーティ、武器を持って訓練を開始してください」

 担任が大きな声で訓練開始の合図を出した。


 うちのパーティ、揃ってないのだが……。

 他の三人はどこにいるのだろうか。ブラッドリーに聞くのも嫌だし。


「チッ、めんどうくせえなー」

 ブラッドリーは足りないメンバーのことなど気にせず、木製の杖を持って的に近づいた。


 杖? 短剣じゃないのか?

 俺はやる気のなさそうなブラッドリーをじっくりと観察した。

 レベル12、どれほど違うものなのか。


 ポコ


 杖が的に当たる音がした。

 杖で殴ったというより、どうみても軽く当てただけだ。


「はい、終わり。あとはてめえな」

 ブラッドリーが持っている杖を放り投げた。


 なんだ、完全に手抜きだけど。どういうつもりだ?

 ここは普通の学校じゃない。冒険者学園なんだから、強くなりたくて通ってるんじゃないのか?


 俺はどうもブラッドリーの態度が腑に落ちないが、奴に構っている余裕はない。

 あとは俺ってことなら、訓練してスキルレベルとやらを上げてみせる。


 俺は木製の剣を握り、藁で出来た的に斬りかかったが、昨日と同じく当たらない。何度やっても同じ結果。

 まるでわざと当たらないように身体が動いているようだ。


 スキルレベルが低いからなのか。

 ただ、こういうのは繰り返せばスキルレベルは上がるはずだ。だからこその訓練だろうし。

 俺は息が上がるまで当たらない剣を振り回した。


「ハア……、ハア……、クソ……、どうしてだ……」


 結局最後まで当たらない。

 Cクラスの担任が、簡単にスキルレベルは上がらないようなことを言っていたし、それでも続けるしか俺にはなかった。


「じゃあ、俺はそろそろ行くぜ」

 ブラッドリーが立ち上がった。


 ずっと見てたのか?

 こんな姿を見れば、大笑いされるかと思ったが、空振りする俺をブラッドリーは黙って見ていたようだ。


「行くってどこへ?」


「バックれんのさ。午後はセシリア達が来るからな、あいつらによろしくな」


 ブラッドリーはそう言って訓練場を去っていった。

 担任もそれに気づいていたようだが、とくに何も言わない。


 ブラッドリー。ムカつく奴だが、思ったより掴みどころのない男だ。

 ま、そんなことはどうでもいい。午後は、ついに女子たちがおでましだ!

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