第7話、『 命の成長 』

「 お父さん、行ってらっしゃい 」

 5年ほど前の事だ。

 楽団の練習に出掛ける私に、3歳になったばかりの娘が言った。

「 はい。 行って来ますね 」

「 気を付けてね。 頑張ってね 」

 私が答えると、可愛らしい追伸。


 …不思議なものだ


 当時、私は、そう思った。

 鑑みるに、一昨年前は、まだよちよち歩き。

 3年前などは、妻のお腹の中で、体長8㍉だったのに……

 いつの間にか、一人前の受け答えをするようになった。


 子供の成長には、今でも驚かされる事が多い。 嬉しくもあり、感動でもある。


 子供を作る、作らないは、家庭によって事情がある事だろう。 作れない事情がある家庭も存在する。

 ただ、育てられる環境にありながら、最初から『 作らない 』と決めている家庭もあり、 従妹夫婦・知人夫婦にも、数組がいる。

 先記の通りの感動は、彼らには一生、味わえない訳である。

 余計なお世話かもしれないが、残念の一言だ。


 積み木を積み上げたり、紙を切って糊で張り合わせたり、縫いぐるみや人形を並べて話し掛けたり、歌を歌ったり……

 無から生まれた『 命 』が、様々な言動を発するのだ。


 何も教えていないのに、大人のやる仕草や行動を真似、自分で考えて行動をする……

 『 命の成長 』を見ていられる幸せは、味わってみなければ、その価値を測り知る事は出来ない。

 世話や躾( しつけ )など、勿論、大変な事は多々ある。 だが、その苦労を遥かに凌駕する『 感動 』の価値が、私の心には存在している。

 今、素直に言える、娘への感謝の言葉を記す。


「 私たちの所に生まれて来てくれて、本当にありがとう……! 」

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