ハナとトウフ

「では、次のメダルを。

 本日のお昼頃です」

「これは、犬ですね。どこの子でしょう」

 歳を取って、ぼさぼさの毛並みに、柔和な顔をしている狐のような犬である。

「酒屋のハナだ。おとなしくて、好かれてるど」

「ほう」

 博士は博士で、マサジがメダルに刻まれた像の正体をよく突き止める事情通なので、その話を聞くのが楽しみだったのである。町中を自分の足で駆け巡る彼は、じつに様々なことを覚えている。

「次を。

 これは一昨日仕掛けたものの、見つけられなくなったものです」

「ああ、線路からずいぶん離れたところさ落ちていたんだ。拾い損ねるのは、線路の上から蹴り飛ばされたりなんだりして、近くに飛んだり遠くに飛んだり、だいたいそのせいでねえかな」

 三枚目は、白い猫だった。

 格子のある店の前で眠っている。この格子には見覚えがある。

「白猫は何匹もいるけどよ、」

 猫を見分けるのは、猫好きの人間には容易いということだが、マサジはなじみの猫以外には没交渉であったので、これは建物で判断することとした。

「ここは常盤町みてえだから、だとすると、トウフだな」

「豆腐というのですか」

「誰がつけたんだか知らねえけっとも、昔、表に洗って干した桝の中で昼寝して四角くなってたんだと。みんな、トウフ、トウフ、って、可愛がられてっと。

 でもトウフは気まぐれで、すぐにふい、っと出かけてしまうんだと」

このように二枚、鉛筆五本分のメダルが続いた。

 それぞれ、ハナとトウフが浮かび上がった。犬と猫が続いたことが、なにやら面白い偶然のように思われ、愉快になった。

 トウフの方は、見つけ損ねていたメダルであったために、感謝された。

「こちらは昨日午前十時台。終電あたりの通過が期待できます」

 マサジは午後十時台と聞いて構えた。今晩はついている。これはきっと当たりにちがいない。

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