Arthur7 レインとカリーヌ

 レインとカリーヌは移動魔術で部屋の前に帰った。

 彼女が専用の開錠魔術で扉を開ける。

「すごいわね。手をかざすだけではなく、部屋の持ち主しか開けられない魔術があるから、ありがたみを感じるわ」

「だけど、中流シルバー以下の生徒達は、を教えてもらえてないけどね」

「そ、そうよね。ごめんなさい」 

 カリーヌは、少し悲しい顔をした。

 中流シルバー以下の生徒には、開錠魔術や移動魔術などの便利な物は存在しない。これも、ジェイによる差別だろう。

「ちょっと、君達」

 部屋へ入ろうとする二人はスーツ姿の中年男性に声を掛けられた。財閥プラチナ寮の管理人だ。

「どうかされましたか?」

「マンションの点検が終わった後に君達がいたから、先に伝えておこうかなと思って」

「なにかあったのですか?」

「明日から、寮を出入りする時に一階のロビーで私に顔を見せて欲しい」

「どうしてですか?」

「それがね、カリーヌ君。騎士庁から指名手配犯がアーサーに入って来たかもしれないという情報を耳にしたんだよ」

「えぇ!? なんですって!?」

 カリーヌは目を丸くした。

「情報によると水の魔術を使う殺人鬼らしい。奴を最後に目撃したのがアーサーブリッジらしくてね」

「本当にそこでその犯罪者を見たのですか?」

「ほぼ確実だけどね、カリーヌ。それに、生徒や一般市民を狙ってくる可能性もある。で、な連絡はここからだ。……すまないが、明日の朝九時から移動魔術が禁止になるから」

「どうしてですか!?」

 レインは、薮から棒の知らせに口を大きく開いて驚いた。

「騎士庁が移動魔術を感知する結界をアーサーに張る。申し訳ないけど、歩いて通学になる。詳しい内容は明日の学校のホームルームで分かるから」

「分かりました」

「あぁ、ついでにアーサーブリッジに検問が設置される。多くの騎士シュバリエが巡回するから。それじゃ」

 管理人は、立ち去っていった。

(殺人鬼か……まったく、世も末だな)

 レインは、思わぬ凶報に不安を覚えた。


                ◇◇◇

 

 午後八時、上半身裸のレインは部屋の固定電話でジュードと会話をしている。

{殺人鬼ですか}

「そうだよ。移動魔術は明日の帰りから使えなくなるし、検問が敷かれるからね」

{でも、狙われやすくなりますね}

「どういうことだい?」

{徒歩となると、中流シルバー以下の生徒にも狙われる可能性もあります}

「確かにな」

財閥プラチナ上流ゴールドをよく思わない生徒が多いはずだ。襲ってくる可能性はある)

 中流シルバー以下の生徒は、移動魔術が使えない状況をチャンスとして捉える。油断すればやられる可能性がある。

{でも、そうならないように祈るしかないです}

「僕も同感だ。じゃ、また明日よろしく頼むよ」

{はい、こちらこそよろしくお願いします}

 ジュードとの電話を終えると、一息ついた。

「ねぇ、レイン」

 振り向くと、赤色の下着姿のカリーヌが体を少し左に傾けながら見ていた。

(それにしても、胸が、お、大きいな)

 男の本能なのか、彼女の豊満且つ深い胸の谷間に視線が向いてしまう。

「ちょっと、どこ見ているのよ。バレバレだよ」

「ご、ごめん」

「でも、いいよ。なんなら揉んでみる? それにベットで幸せな時を味わいましょ?」

「大丈夫だよ。別にそん――」

「嘘は通じないよ、あたしの愛しい

 レインはカリーヌの妖艶かつ慈愛に満ちた表情と声に色情が沸き立ってくる。

 彼女は、幼い頃から彼のオーラやカリスマ性を感じていたらしい。学園に入ってから、ジェイに頼み込んで、部屋をレインと一緒にしたらしい。

「……フフフ、バレていたか。愛しているよ、カリーヌ。でも、ベットに入るのはまだ早いんじゃないかな」

「そうね。だったら、お互いの姿をさらけ出していこうよ」

「もう、僕とカリーヌの習慣になってしまったな。冬はさすがに無理だけど」

 二人は、身に着けている物を全て脱ぐと、誰しもが目を奪う白く透き通った神々しい肉体が姿を現す。

「さて、夜の景色を見るか」

「その前に明かりを消さない?」

「そうだな」

 レインは、部屋の明かりのスイッチを切った。暗闇になると、彼女とベランダに出る。



「アーサーの景色はいつ見ても綺麗だわ」

「同感だ」

 ベランダに出た二人の目の前に映るのは、夏の月に照らされたアーサーの住宅街と東京湾の向こうにある都会の光。そして、より一層存在感を強調する青、赤、緑、黄色のライトが点いているアーサーブリッジ。百万ドルの夜景もかくやという美しさだ。

「人間って不思議よね。どうして、目もあやな風景を見ると落ち着くのかしら」

「癒しを求めていると思うよ。人は、緊張のままで生きられないからな。でも、僕にとって最高に美しいものがあるんだ」

「それは何かしら?」

 レインはカリーヌの方を向く。

「……君だよ。カリーヌ」

「……ふふふ、ありがとう」

 彼の言葉に目をキラキラさせながら礼を言うカリーヌ。

 彼女に口づけしようとした時、何者かの視線を感じる。その方向を見ると、住宅街にある赤い屋根の民家の角にある電柱だが、誰もいない。

「どうしたの、レイン? なにかあるの?」

(今のは、なんだ? 凄く強烈かつ異様なものを感じたが)

 レインは突如襲った感覚に胸騒ぎを覚えたが、心の中で気のせいだと言い聞かせた。

「いや、なんでもない」

「なら、いいけど」

「続きをやろうか」

 二人は、唇を重ねてキスをすると次第に濃厚なものへと変化していく。

 部屋に戻って十分後、ベットに入って互いの体を触り合い、優しさと愛に満ちた抱擁をしながら眠りについた。








 



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