Arthur5 プラチナの教育
午前七時四十分。レインはカリーヌ達と教室に入ると、カバンを自分の机の横にあるフックに掛けて席に座った。
東校舎は
その時、グレーのスーツを着た女性が入ってきた。水上碧。クラス担任だ。
「では、朝のホームルームを始めます。まず、出席番号の若い順から、一番のレイン・アルフォード君」
「はい、先生」
レインから順にカリーヌ、ジュード、エリーと呼んでいく。クラスメイトの元気な声が聞こえてくる。
「全員出席してますね。今日の連絡事項はありません」
「おやおや、頑張っているようですね。水上先生」
水上の視線の先には茶色のスーツでニヤニヤしているジェイがいた。
「おはようございます学園長。問題無く進んでいます」
「相変わらず、
「なにか問題でもありますか? 私は、暴力や罵詈雑言なんてしていません」
「大ありだ。目に
レインは冷静な口調でジェイの発言に反論する。
「そうですか? 彼らの中から千年に一人の逸材が現れるかもしれないという風聞もありますが」
「レイン君、冗談はやめてくれ。社会の仕組みとして教えているだけだ」
(父上から聞いていたが、噂通りのクズだな)
愚の骨頂な発言だ。彼は眉を少し下げて、ジェイに軽蔑の視線を送った。カリーヌ達を
ジェイは水上先生達の表情を見て、ため息を吐いた。
「私の正論を理解してくれないのは、
彼女に嘲笑をしながら、教室から出た。
「先生、大丈夫ですか?」
「心配しないでくださいカリーヌさん。あの程度では屈しません」
「さっすが、水上先生! ダーリンもそう思うよね?」
「はい。でも、声の音量を抑えてくださいね」
ジュードが優しい声でさらっと彼女に注意した。
(先生がそう言ったものの、学園長から直々の警告とも聞こえる口ぶり。どうやら、嫌われているようだな)
レインはそう考えた。
水上先生は、今年の四月に
「では、一日頑張ってくださいね。今日も元気に頑張りましょう!」
水上先生は活気のある声をレイン達にかけた。
ホームルームの後、学園の一日が始まる。授業システムは、七時限と授業時間が五十分という点では普通の高校と同じ。違うところは授業内容とレベルである。午前で習う学科の面では本来なら大学で教わる数学や古典などを習う。
午後には、銃による射撃戦術や得意な武器を学ぶ近接戦術、魔術を使った潜入技術等の実技科目が並ぶ。
容易ならぬ授業だが、一人前の
ちなみに水上先生は世界史と射撃戦術の担当である。
そして今、カリーヌ達と数学の授業を受けている。
「では、Aの容器に掛かる重さは? はい、レイン君」
「答えは、二十トンです」
「お見事!」
難解な問題を容易く答えると、クラスメイトから拍手される。
「す、すごいわ。さすが、レインだわ」
「そんなことはないよ。難しかったしね」
レインは謙虚な態度で声を呑むカリーヌに言った。
◇◇◇
「レインさん、そこです!」
「あぁ、たぁぁぁ!」
七時限目。専用の施設で行っている近接戦術では、
「くそぉぉ!」
「おっと、まずい!」
一方の短剣遣いがレインに攻撃を仕掛けるが、ジュードの槍に阻まれる。
「そこです!」
ジュードはそのまま相手の脚に槍を直撃させてダウンをとった。審判の先生がホイッスルを鳴らす
「ここまでだ。勝者は一年のレイン、ジュードペア!」
レインとジュードの勝利により、クラスメイトの歓声が上がる。
「レイン、やったね」
「カリーヌ、勝ったよ!」
「ダーリン、最高ぉ!」
「あははは、恥ずかしいじゃないですか」
その時、歓喜のガッツポーズをするレインの胸が青く光り出した。彼は温泉のような暖かい感覚を覚える。
(どうやら、経験が積んだようだ。わずかだが、力が湧いてくる)
全生徒の体内に埋め込まれている
また、さまざまなライフラインや機械などにおいて大事な存在。これがなければ、世界は破滅に追い込まれるほどの重要な存在でもある。
「大丈夫かい?」
レインは尻もちついている槍の生徒に手を差し伸べようとすると、叩かれた。
「うるせぇ、お前の手なんか掴むかよ!」
彼は眉を限界まで上げて、レインを睨む。
「ちょっと。今の行為はどうかと思いますよ。謝ってください」
カリーヌが少し強い口調で注意する。
「断るね。どうせ、四大騎士家の出身だから心の中で見下しているんだろ」
「おい、やめろ」
槍の生徒は短剣の生徒の制止を無視して大声でレインに暴言を吐く。
「俺はな、レインの得意げな目つきが気に喰わないんだよ! 死ね!」
「あんた、彼に向かって」
レインは堪忍袋の緒が切れたカリーヌを落ち着かせると、彼の前に来て謝罪する。
「そう見えるなら、謝ります。不快な思いをさせてすみませんでした」
上から目線だと感じたのか、怒りが収まるどころかうなり声を上げた。槍の生徒は右手で床を強く叩いて、立ち上がる。
「こんな味の無い試合、やってられるかぁ!」
「おい、待ってよ! 先生、彼を止めます」
「先生、僕も」
レインも追跡しようとするが、先生に止められる。
「いいよ、レイン君。あんな社会の敗者かつ生きる価値はない奴は放置しろ」
悪意のこもった先生のあり得ない発言にレイン達のクラスは、ざわめきだした。態度が百八十度変わった彼を見て、カースト制に賛成している二年の生徒も体が硬直していた。レインは怒りを抑えて反論する。
「人間として失言ではありませんか?」
「そうか? 当たり前の考え方だと思うけどな。いいか、レイン君。勝者と敗者は何の為に存在しているか分かるか? 無くてはならない生物としてのシステムだ。階級がなければ、平和に暮らせないし、経済が回っていかないぞ」
「何を訳の分からないことを」
「それにね、レイン君。人間というのはね、平等になると暴力が全ての野蛮な社会になるぞ。君は若いけど、老いた時に生き抜く自信はあるのか?」
「現代の社会でも、多くの――」
「はい、終了! 帰りのホームルームだから、遅れないようにね」
「まだ、僕の話が」
声を少し荒げながら先生に近づくが、ジュードに腕を掴まれる。振り向くと彼は、悲しそうに首を横に振っていた。
「……分かった」
レインは意見を出すのは無駄だと判断して、不満かつ悔しい思いでカリーヌ達と教室へ戻った。
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