Arthur2 差別
「なんとか、女子生徒の治療魔術で治ったけど、学園長からの連絡が来ないな」
午後三時、中山は寮の自室にてあぐらをかきながら待っていた。
「あの野郎。まさか、無視するつもりか?」
疑念を抱いていると、玄関からノックする音が聞こえた。立ち上がり扉を開けると、一人の生徒がいた。
「中山君、ジェイの野郎から返事が来たんだ。『豚の中山の要望を受け入れる』と」
「そうか、良かった」
悪口の入った返事は気にくわないが、やっと、ゴミを定期的に回収してくれることに相好を崩した。
「だけど、『一年契約である額のナイトを払えば構わない』という条件を出してきたんだ」
ナイトとは、学園都市専用の通貨。形は日本のお金と同じ。違うとすれば銃と剣でアルファベットのAを作った学園のシンボルマークが描かれているだけ。毎月、学園から生徒に支給され、一ナイトにつき一円。原則として、現金の使用は禁じられている。しかし、やむを得ない理由により、現金との交換が可能。
「いくらぐらいだ?」
「九億ナイト」
かなりの大金に開いた口が塞がらなかった。なぜなら、
ちなみに、アーサーの北東にある財閥寮、東にある上流寮、西にある中流寮、南東にある下流寮の全生徒はそれぞれ、九十人、三百人、五百人、千人である。
「出せるわけがないだろう。十カ月間を我慢すれば、なんとかなるが」
「でも、現実的ではないだろ」
(あの野郎は僕達が毎月支給される額を知っている。そもそも、条件を出す自体おかしい。ということは!)
「おい! どこに行くのだ!?」
要望に応えるつもりはないと判断した中山は生徒を押しのけて、青筋を立てながらアーサーの北西にある学園へ向かう。
◇◇◇
校門に到着した中山は学園長室へ向かう。侵入者を防ぐ為、周りには人の身長の二倍ある高い壁と厳重な防御魔術トラップが設置されている。校舎や体育館などは近未来の外観で一人前の
校舎の入口に到着すると右から風が吹く。驚き入るも中へ入ろうした瞬間、頬に痛みが走る。触ってみると、切り傷が出来ていた。
「ごめん、ごめん。低知能の豚の形をした的かと思ったわ」
声のしたほうを見ると、弓道部のユニフォームを着た数人の
「そんな的があるわけないでしょ先輩。毎日、イジメる時間があるほど、部活は暇ですか?」
ツッコミを入れると、彼らはお互いの顔を見ながら嘲笑してきた。
(こいつらを無視しよう。キリがないからな)
「生徒からの要望に条件をつける学園長がどこにいますか? ありえませんよ」
「そうか? 常識的な対応だと思うのだけどなぁ。それにしても、よく頑張ったね。長距離移動魔術を使わずに全速力で来るなんて」
「
「うま味たっぷりの餌を見つけたような顔をするな。落ち着け」
学園長室に入って来た中山は椅子に座りながら舐めた態度で対応する彼に業を煮やす。
「で、どうしてほしいのだ?」
「無条件で要望を受け入れてください。僕達がナイトを使うのを我慢してかき集めても、九千万ナイト。九億ナイト足りません」
「八億一千万ナイト足りないの間違いだろ」
ケアレスミスしたことに大爆笑され、舌打ちをした。
「とにかく、条件は無効です。一年単位とかじゃなく、永久的にお願いします」
「ちっ! 下民らは、わがままが多いな。上品な我が生徒とは大違いだ。分かったよ。今すぐ、業者に連絡してやるから」
「嫌な顔をしながら言っても信用出来ません。ちゃんと」
「おら! 学園長が『分かった』とおっしゃっているだろうが! 早く帰れ! 俺はこの方に大事な報告があるんだ」
後ろから教師に首根っこを掴まれた。抵抗はするが力が無いため、振りほどけず、廊下へとつまみ出された。
◇◇◇
「態度は気に入らないが、とりあえず回避出来たな」
間もなく日没に入る頃、アーサーの南東にある公園のベンチにて休憩していた。同じランクの生徒に電話で伝えると歓喜の声を出していた。電話の他に交信魔術があるが、これも習得できるのは
疑心が残る中、赤ピンクの服を着た豊満な胸に赤のツインテールと瞳の女子生徒が近づいてきた。
「中山君。どうしたの?」
「ちょっと、疲れていてね。……
ため息を吐いた中山に話しかけてきた彼女の名は、カリーヌ・マルース。名門マルース家のご令嬢で彼と同じ年の
「何があったの? 詳しく話して」
彼女の優しい笑みで心が癒されると、生ごみに関する話を伝えた。
「それは、ひどい。でも、良かったじゃない」
「あぁ、一年契約かつ九億ナイトで払う条件が消えなかったら、どうなっていたか」
「学園長は、長い物には巻かれよを体現したおっさんだからね。……あ、それで思い出したけど、実はそいつに関するある噂が流れているの」
「初耳だな。内容は?」
「うん、それがね」
「おやおや、カリーヌ様。豚がお好きなのですかな?」
二人の目の前に現れたのは、数人の
「彼は、豚じゃないわ。人よ」
「おいおい! 冗談はやめろよ。するなら、お笑い劇場でやってくれ」
「言ってる意味が分からない。簡潔にやってくれ」
「豚君、三平方の定理は?」
「なんだ、それは?」
怪訝な顔をすると、彼らは
「まぁ、いいや。いつから、下民の寮は養豚場になったんだ? おまけにカリーヌの馬鹿担任は、意味不明な言動をするし」
「あたしの担任は関係無いでしょ。用がないなら、消えてくれる?」
「はいはい。分かりましたよ」
「あっつー! またかよ!」
「大丈夫!? 治療するね」
カリーヌの治癒魔術によって火傷が消えていく。
「ありがとう。嬉しいよ」
「気にしないでね。あんな奴ら」
「うん。すまないがカリーヌ、一人にしてくれ」
「大丈夫なの? またイジメを受けるかもしれないよ」
「心配しなくていいから、安心して」
「な、中山君がそう言うなら……分かったわ。気を付けてね」
カリーヌは別れを告げて立ち去った。
「いつか恋人同士になりたいな。いや、やめておくか」
彼はカリーヌに恋をしていた。きっかけは、最初のイジメから救ってくれたことだった。それ以降、時間があれば勉強を教えてくれたり、相談を受けたりするうちに好意が強くなっていく。だが、自分の能力と知力では釣り合わない。それに、経済力の無さと醜い容姿では告白しても断られるかもしれない。
「改善するには、一年ぐらいかかるかもしれない。もっと遅くなるかもしれない。そうしているうちに彼女に恋人が出来たら」
才色兼備の男子とカップル成立という最悪な展開を想像してしまい、頭を抱えた。
「くそ、どうしたらいいんだ?」
「それなら、私が力になろう」
「そうか……えぇ?」
声がしたので顔を上げると、夏の季節では違和感のある青のコートに青の瞳と髪をした中年男性が立っていた。
「君にとって満足する最高の学園生活を送らせてあげよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます