TURN9:思わぬ再会【前編】

「………」

 とある古びた一軒家。その一室にこもっているのは一人の少年。

「たかしちゃん、今日も学校に行かないのかい?」

「…うん」

 部屋の前で話しかける一人の老婆。少年は小さな声で返事をした。

「そっか…たかしちゃん。どんなことがあっても、おばあちゃんはあなたの味方だからね」

「………」


「…はっ!」

 アニメの世界に生まれ変わった少年・タカシは目を覚ます。

(今のは…前世の記憶…?)

「ばあちゃん…」


 タカシの前世、高橋たかし。母は彼を産んですぐに病気で亡くなった。父は「子供はいらない」と言い残し、たかしが産まれる前に別れたらしい。

(母ちゃんは俺が物心ついたころには死んでたし、親父は顔も知らんがろくでもない男。そんな俺にとってはばあちゃんが母親みたいなもんだったよな)

 母の死後、たかしは母方の祖母に引き取られて育てられてきた。

 学校でいじめられたことがきっかけで引きこもりに。一念発起し受験に挑戦するがこれも失敗。その後就職しようとするが面接は全て不合格。すっかり自信を喪失し、ニートと化す。

(そんなダメダメな俺だけど、ばあちゃんは嫌な顔をしないで受け入れてくれたんだよな…俺が落ち込んでいる時はいつも「おばあちゃんはあなたの味方だからね」って励ましてくれてたな…)

 たかしはデュエルオムニバースだけはそこそこ強かった。大規模大会では勝てないものの、参加者16人程度の小規模大会で優勝するくらいならできる。こうしてたかしは小規模大会で優勝を繰り返すことで気を紛らわしていたのだ。

(前世はろくな人生じゃなかったから唐突に死んだことへの悔いはあまりない。けど…ばあちゃんは俺が死んだ後、悲しんだのかな…)

「ばあちゃん…今頃何してるんだろうな…」

「たかしちゃん!たかしちゃんじゃない!!やっと見つけたわー!!」

「…ほあ!?」

 突然の出来事に頭が真っ白になるタカシ。女の子がタカシに抱きついてきたのだ。

「………え、えーっと…」

「わたしがこの世界に生まれ変わったのも何かの運命!そう信じて捜し続けたかいがあったわー!!ううう…」

 泣きそうになる茶髪ポニーテールの少女。背は小さく、年齢はタカシと同じくらい…あるいは少し年下といったところだろうか。

「…どなた様です??」

「あらあら?分からないの??あなたを誰よりも愛してたのに~!おばあちゃんショックよー!!」

「…おばあちゃん?………まさかばあちゃん!?!?!?」

「そうよー!!やっと思い出してくれたのね!たかしちゃん!!」


(…それから俺のばあちゃんだと名乗る少女の家に連れてかれてしまった…)

「あら!その子が捜してたっていうあなたの前世のお孫さんなのね!」

 玄関にて少女の母が尋ねた。

「うん!」

「あ…えっと…初めまして…」

「初めまして!さ、上がって上がって!!」

(いやいやいや!前世の孫の生まれ変わりとかぶっ飛んだ話なのに疑うとか全くないのですか!?見ず知らずの他人を家に上げるか!?)

 心の中で色々とツッコミを入れたくなったタカシであったが、ひとまずは少女の部屋に入って話をすることにした。

(女の子の部屋にあがるのなんて初めて…なのに全く緊張しない。家具の趣味とか変わってなくてばあちゃんの部屋をそのまま引っ越したみたいだ…)

「改めて自己紹介するわね!わたしはあなたのおばあちゃん!この世界では八代チヨって名前の中学一年生の女の子なの!ちーちゃんって呼んでね!」

「ちーちゃん…いや、やっぱり中身がばあちゃんって知ってると何かやりにくい…!ばあちゃん呼びじゃダメ?」

「えー!せっかくぴちぴちの女の子に生まれ変わったのにー!この年でおばあちゃん呼びはいやよー!」

「はあ…それよりも何で俺が『たかし』って分かったの?確かにこの世界でも『タカシ』って名乗ってたけど同名の別人って可能性もあるし、見た目も全然違うじゃん」

「そうねえ…あのね、ちーちゃんに生まれ変わる前…あなたが事故で亡くなった後、おばあちゃんとっても後悔したの。あなたはわたしに残された最後の家族。もっとあなたの事を考えてあげるべきだったって。いっぱい泣いて、生きがいが無くなって心の中が空っぽになっちゃってね。それからわたしも病気で死んじゃった」

「な…何か、ごめん。俺、散々ばあちゃんには迷惑かけたのに…俺のせいでばあちゃんまで死なせちゃったみたいで…」

「ううん、いいのよ!こうやって再会できたのだから!わたしね、死ぬ前に『たかしちゃんにもう一度会いたい』ってお願いしたの。そしてこの世界に生まれ変わった。物心が付いた頃には生まれ変わる前の記憶も戻ってきて、感じたわ。たかしちゃんが大好きだったアニメの世界に生まれ変わったのは神様が与えてくれた奇跡!きっとたかしちゃんもこの世界にいるはずだって!」

「ん?ばあちゃん『デュエルオムニバース』の事知ってたの?てっきりアニメとかゲームとかそういうもん全然分からないんだと思ってたけど」

「たかしちゃんと少しでもお話ししたくてね。実は勉強してたのよー!デッキだって作ろうと思ってたのよ。だけど…」

「だけど?」

「老眼には小さい字は読めなくてね…結局たかしちゃんとはデュエルできなかったのよ…」

「あー…確かにカードテキストめっちゃ小さいよね…」

「でも!この世界ではわたしはぴちぴちの中学生!だから!!」

 するとチヨはデュエルガジェットを構えた。

「わたしとデュエルしましょう?大好きなデュエルをしてる時のあなたを見せてほしいの!」

「…うん!」

 タカシはうなずき、そしてデュエルガジェットを構えた!

「「デュエル!!」」


「私の先行ねー。ドロー!」


タカシ

HP:4000 AC:0 手札:4枚


チヨ

HP:4000 AC:3 手札:5枚


「なるほど…まずはマジックカード『クイックコール』を使うわね。手札を1枚捨てて下級モンスター1枚を手札に加えるわ」

(この世界の住人はいきなりモンスターを召喚したがる人が多いけど…流石はばあちゃん、サーチから入るあたり前世の世界らしい堅実なプレイングだな)

「わたしが手札に加えるのは…この子!」


AC:3→2

墓地に捨てたカード:ヨブゲロゲ

手札に加えたカード:リボンゲロゲ


「墓地に捨てたのはヨブゲロゲで加えたのはリボンゲロゲ…!?まさか!?」

「ふっふっふー!たかしちゃんが使ってたカードも!よーく覚えてたのよー!わたしはリボンゲロゲを召喚!」


AC:2→1

『リボンゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100


「リボンゲロゲの効果はもちろん知ってるわね?」

「場に出た時に墓地のゲロゲモンスター1体を蘇生する…!」

「ピンポーン!もちろん復活させるのはさっき墓地に送ったヨブゲロゲ!」


『ヨブゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100


「ヨブゲロゲが場に出たから更に効果発動してードロゲロゲを出すわねー」

(デッキからゲロゲモンスターを召喚する…!)

「そしてドロゲロゲが場に出た時、場に爬虫類モンスターが2体以上いるから効果が発動。おまけで1枚ドローさせてもらうわねー」


手札:3→4枚

『ドロゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100


(これでゲロゲモンスターが3体…!)

「準備は整ったわー。わたしはリボンゲロゲ、ヨブゲロゲ、ドロゲロゲの3体でエクストラー!」

 3体のカエルモンスターたちがデュエルガジェットの中に呑み込まれ、濁流と共に巨大なモンスターが姿を現す。

「沼地の支配者ゲロゲロックをエクストラ召喚よー!」


『沼地の支配者ゲロゲロック』

エクストラ タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:1500 防御力:1800

召喚条件:水タイプ爬虫類下級モンスター×3


(まさか異世界に来てミラーマッチすることになるとは…)

「素材モンスターのヨブゲロゲを墓地に送ってゲロゲロックの効果を使うわねー。1ターンに一度、マジックかカウンターのどちらかを宣言し、選ばれたカードは次の相手の番が終わるまで発動できない。わたしはマジックカードを選択するわ。さらに裏側カードを1枚出すわね」


AC:1→0

裏側カード:1枚


「これでわたしはターンエンド!」

(うーん、お手本のような先行制圧だなあ…)

「ターンもらいます、ドロー」


タカシ

HP:4000 AC:3 手札:5枚


チヨ

HP:4000 AC:0 手札:3枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック

裏側カード:1枚


(自分ではいつもよくやる先行制圧だが相手にされると面倒だな…俺の手札のモンスターはヨブゲロゲ1枚。ゲロゲロックは出せないけどエクストラ召喚に繋げるくらいなら出来る。ここは少しでもダメージを軽減して耐え忍ぶべきか…?)

 と、その時であった。タカシの脳裏を遊太の言葉がよぎった。


「また負けた…」

「サンキュー!楽しいデュエルだったぜ!!」

「…あのー、さっきのプレイング。いくら何でも無謀なんじゃ…」

「無謀?何のこと?」

「手札使い切って上級モンスター出してターンエンドって…次のターンにセットアップガール引けたから良かったですけど…ドロソ引けなかったら俺に負けてたんじゃ?」

「んー?言われてみればお前のいう通りかもしれないな!でもさ!そのおかげで今回のデュエルも俺が勝ったわけだろ?」

「まあ…そうですけど…俺だったらあのプレイングは出来ないな…返しの番にメタられるのが怖すぎる」

「怖いか?相手の事恐れてばっかじゃ勝てないって俺は思うな!それよりも俺はカード達を信じて戦うぜ!!」

(うーむ、このデュエリスト特有の精神論…)


(恐れてばかりじゃ勝てない…か…)

「そういえばさ…ばあちゃん、前世の世界で俺が子供の頃、よく囲碁や将棋で遊んでくれてたよね」

「あら!その事覚えてくれてたの?嬉しいわー!」

「忘れる訳ないだろ!だってばあちゃんいつも本気で一度も俺に勝たせてくれなかったし!めちゃくちゃ悔しかった記憶しかない!!」

「ばあちゃん負けるのは大っ嫌いでねー。手加減はできないのよー」

(ばあちゃんに勝つためには…今までみたいに堅実なプレイングで戦うだけじゃダメな気がすんだよなあ…やってやるかあ!)

「ばあちゃん…俺、今回くらいは勝つ気でやるよ」

「ほうほう。この状況を覆せると。いいわ~かかってきなさーい」

 タカシは手札を確認し、次に出すカードを決める!

(俺がこの状況で選ぶ手はこれだ!!)

「裏側カード3枚出します」


AC:3→0

裏側カード:3枚


「ターンエンド!」

「あらあら。モンスターを一体も出さないで裏側カード3枚とは随分と大胆なプレイングで来たわねー」

(3枚の裏側カードは何なのかしら?カウンターカードを3枚伏せて守りを固めているか。あるいは使えるカードは手札に1枚もなく、囮のマジックカードを伏せて、カウンターを警戒させて攻撃をためらわせるのが狙いとか?)

「私のターンね。ドロー」


タカシ

HP:4000 AC:0 手札:2枚

裏側カード:3枚


チヨ

HP:4000 AC:3 手札:4枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック

裏側カード:1枚


(あの裏側カードがカウンターにせよブラフにせよ…)

「マジックカード『魔鎖鬼の壺』を使うわねー。その効果で2枚ドロー!」

(このターンでやるべきことは裏側カードの除去ねー)


AC:3→2

手札:3→5枚


(私のデッキには互いの場のマジック・カウンターカードを全て破壊する効果を持つマジックカード『ハーピィの大竜巻』が入ってる。これを引き当ててたかしちゃんの場をがら空きにしちゃうのがベストだけど…)

 チヨはドローしたカードを確認する。『ヨブゲロゲ』と『マジックポスト』の2枚だ。

(残念ながら引けなかったわねー。だったら次は…)

「マジックカード『マジックポスト』を発動するわー」


AC:2→1

『マジックポスト』 マジックカード

自分の山札の上から4枚を確認する。その中にマジックカードがあれば1枚選び、相手に見せてから手札に加える。選ばなかったカードは山札に戻してシャッフルする。


(ドローにサーチカード、ばあちゃんのあのプレイング、確実に除去札を引きに行ってる!ここで全体除去を引かれたらほぼ負け!さあ、どうくる!?)

(このカードでデュエルが決まる、と言っても過言ではないわねー)

 チヨが山札から確認した4枚のカードは…!?


To be continued…

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