TURN3:野望への活路

「本当に…行くんだな」

 心配そうに尋ねるベテラン作業員に対し、少年はうなずく。

「そうか…お前さんは天才だからきっと上手くいく!応援してるぞ!」

「…ありがとう…ございます…じゃ…」

「元気でなー!!」

 鉱山のある小さな町『スクラップタウン』を出て歩き出す少年。

(行き先は『Dシティ』!全速前進だ!)


 鉱山でのデュエルの一週間後、旅を始めた少年。ひとまず歩きながら、頭の中で現在の状況を整理することにした。

(まず前世の記憶によると俺達が今生きているのは『デュエルオムニバース』というアニメの世界らしい。より正確にいうなら『デュエルオムニバースアニメシリーズ第3作 デュエルオムニバースDX』の世界…いや、細かいことはどうでもいいか)

(俺が初対面のはずの牛岡のことを知っていたのは、牛岡はアニメで主人公に負ける敵キャラとして一回だけ出てきたことがある、という理由のようだ)

(そしてこの世界には前世の世界とは決定的な違いがある。それは…)


「おいお前。デュエルしろよ」

 荒野を歩いていた少年を呼び止めるモヒカンヘアの男。その腕にはデュエルガジェットが。少年もガジェットを構える。

「「デュエル!!」」

(『超デュエル至上主義』という事である。例えば道端を歩いているだけでデュエルをいきなり挑まれるし…)


「このパンが買いたいだと?なら100万デュエルマネーを払いな!それが嫌なら俺とデュエルだ!!お前が勝てば100デュエルマネーに割引してやろう!」

(パンを買おうとしただけでデュエルを挑まれる。さらに…)


「トイレに行きたいだと?ならば俺とデュエルだ!!」

(いや、トイレくらい普通に行かせてくれ…)


(そんなデュエル絶対主義なこの世界なのだが…)


「進化召喚!いでよ!!バニラザウルス!!」

「ギャオーン!!!」


『バニラザウルス』

上級 タイプ:光 分類:恐竜 攻撃力:2800 防御力:2300


「攻撃力2800!どうだ!!この圧倒的パワーは!!」

「あ、じゃあ『落とし沼』で破壊します」

「な、なにいいいい!?俺が全財産はたいて買ったバニラザウルスがああ!!」


(デュエルのレベルは前世の世界と比べるとめちゃくちゃ低い。この世界のデュエリストは攻撃力絶対主義者が非常に多いらしいのだ。いくら攻撃力の高いカードであっても、何も効果を持っていなければマジックやカウンターで処理できるので倒すのはわりと楽である)


 デュエル中、少年は手札のモンスター達に目を向けた。

(ちなみに俺のデッキの『ゲロゲ』モンスター達のほとんどは、前世の記憶が蘇る前に拾ったものだ。実は強力な効果を持ったモンスターなのに関わらず、攻撃力が0という理由だけで捨てらていたようだ。もったいない話である)

(それ以外のカードは鉱山で見つけた…前世の常識で考えればおかしな話だが、この世界ではカードは『デュエニウム』という物質でできており、鉱山で掘り出したデュエニウムを素材に人工的にカードを増産したり、カードが自然発生することもたまにあるんだとか。いや、自然の中で取れるカードってなんだよホントに…)

(それにしても紙でも鉄でもない物質デュエニウム。現実のカードと違って傷が付くことも無ければ汚れることも無い。カードスリーブ不要。実はとんでもない代物では?)


「ウォーターガードナーで直接攻撃」

「ぐわあああああ!!」

男性 HP:1000→0

『YOU WIN!デュエルマネーを獲得しました』

(ちなみにこの世界のデュエルには賞金制度がある。勝てばDM…つまりお金が手に入るのだ。デュエル弱者には非常に厳しい世界のようだが、俺にとっては好都合である)

(野良デュエルでちまちまお金を稼いでもいいけど…どうせならがっぽり金を稼いで安定した生活を送りたい。アニメの主な舞台でもあった『Dシティ』は世界最大のデュエル都市だ。ここでならもっと金を稼げるはず。もしかしたら衣食住も手に入れられるかも。ということでDシティを目指すことにした訳だ)


「そういえばお前、なんて名前なんだ?」

 先ほどデュエルで倒した男が少年に尋ねてきた。

「名前…」

(そういえばこの世界の俺にはまだ名前が無かったな。99番…は名前っぽくないし…えーっと前世では『たかし』って名前だったっけか)

「…タカシ」

(まあ、これでいっか)


 それからもタカシは旅を続けた。

 デュエルで資金を確保しつつ、電車やバスで移動し、Dシティを目指す日々。そのデュエル回数は累計数百回にもおよび、勝率は8割程だったという。

(相手が弱くても俺の引きが悪くて負ける事もたまにあったけどな)

 一方、攻撃力の高いモンスターに頼らずに何人ものデュエリストに勝利したタカシは、一部のデュエリストで噂になっていった。ただしタカシ自身は自分が噂になっていることに気づかなかったのであった。


 そして月日は流れ…

「ゲロゲロックでセキュリティドッグを攻撃」

「うわあああああああ!」

警備員 HP:200→0

 ゲロゲロックの攻撃でモンスターを破壊され、余波で吹っ飛ばされるのは制服に身を包んだ警備員。デュエルが終わり、モンスターが消滅。よろよろと立ち上がる警備員に対し、タカシは会釈する。

「…対戦ありがとうございました」

「あ、ああ…この街の門番である我々Dシティ警備隊を打ち破るとはな…!君の望み通り、ここを通行することを許可しよう!!」

 警備員に再び軽く会釈をした後、タカシは巨大な門をくぐる。


(「負けたら逮捕だ!」なんて言われて流石にちょっとは緊張したけど無事に勝てて良かった。そして…)

 ビルが立ち並ぶ大都会が、タカシの目の前に広がっていた。

(ついに来たぜDシティ…この世界一のデュエル都市!)

 タカシの前世の世界にも大都会はあったが、Dシティのビルは前世の世界とは全く異なる不思議な形状をしているものばかりでカラフルな装飾が施されている。

 そして何よりの違いはデュエルガジェットによって実体化したモンスターが至る所でバトルを繰り広げていることだろう。

「よそ者がやってくるとはな…俺様がこの街の掟って奴を教えてやろう!」

(早速デュエルの洗礼か…まあ資金稼ぎはしておいて損はないかな)

「「デュエル!!」」


「ひょーひょっひょっひょ」

 物陰でキラリと光る眼鏡。その目線の先にいるのはデュエル中のタカシだ。

「あのデュエリスト…使っているのは攻撃力の低いモンスターばかり…もしかして噂の!?先輩とあいつがデュエルすれば…またスクープになるかも!早速準備だー!ひょーひょっひょ!」


To be continued…

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