王国復興
新しい聖女と巫女が発見されてから、急ぎではありますが二人に役目の説明がされました。そしていよいよその二人を加えた初めてのお祈りの日がやってきます。
いつものように神殿の最上階に上がった私が天に向かって手を合わせると、突然、どこかから私に向かって大量の魔力が流れ込んでくるのを感じます。
その魔力はエメラルダが私のために祈ってくれた時に比べてさらに量が増えており、まるで大河のようでした。そしてその魔力の流れは一つだけではありませんでした。
周辺の人々の祈りを合わせた聖女の祈りの分、そして竜たちの思いをまとめた巫女の分が双方から私に向かって流れてくるのです。
私の体は急になだれ込んできた魔力で満たされます。一瞬私は自分の魔力が決壊し、暴走するのではないかと冷やりとしたほどでした。これほどの魔力を制御できるのはひとえに私がもらった神巫の力によるものでしょう。
そして私は皆から受け取った力を全て神様に向かって捧げます。
自分の中から信じられないほどの魔力が神様に向かって放出されていくというのはなかなかすさまじい感覚です。まるで凄い勢いで流れる大河の流れを自分の腕でコントロールしているような、そんな無茶をしている感覚になります。
“おお、すごい! まさか神巫にはこれほどの力があったとは!”
祈り始めてすぐ、神様からも驚きの声が聞こえてきます。
古代の時代よりも人口が増えている分、もしかすると祈りの力も増えているのかもしれません。
“すごい、失われた我が力が、記憶がどんどん戻ってくる!”
そして不意に私の脳裏に様々な情景が浮かんできます。
最初に、日照りにより枯れかけていた王国の農地。今年の収穫は絶望的と思われましたが、にわかに雨が降り注ぎ、作物はみるみるうちに活力を取り戻しました。
次に氾濫ばかりを繰り返していたとある川。川の流れは泥や岸にあった建物などで暗く濁っていましたが、急速に透明度を取り戻し、さらに流れも落ち着いてきます。
さらに噴火を繰り返していた火山は大人しくなり、地震が相次いでいた地域も地鳴りがやみました。
また、追放された直後に私が出会った瘴気に包まれた虫が王国の辺境部で複数発生していましたが、それらも神様の力で次々と浄化されていきます。
そして竜国でも、まだしぶとく残っていた魔物たちが次々と人間の領地から撤退していきました。
竜国は元々災害は起こっていなかったのですが、普通に育っていた農作物はより豊かに育ち、実りを増やしています。
また、竜たちもそれまで竜の巫女である私が与えていた力を神様からもらい、より活力を増しています。私の祈りの時とは違い、守護竜様やガルドだけでなく全ての竜に分け隔てなく力がそそがれているのです。これまでも竜の生命力や体力は凄まじいものがありましたが、彼らの動きはより躍動感を増しました。
このようにして、神様の力が戻ると同時に周辺の様々な地域で一気にいいことが起こり始めたのです。私が追放されてから今まで、王国の人々は様々なことに苦しんできました。また、竜国の人々はそれよりも長く苦しい生活を強いられてきたはずです。
そんな人々の苦しみが今度こそ本当に終わろうとしているのです。。
そんな映像が次々と脳裏をよぎっていくたび、私は高揚感に満ちていくのでした。
祈りを終えた私が神殿に降りていくと、そこにはこのところ忙しくてあまり会えていなかったハリス殿下が待っていました。私は神殿の仕事に、殿下は二国分の政務にそれぞれ忙殺されていたので、会いにきていただいてとても嬉しいです。
「殿下、お久しぶりです!」
「すごいぞシンシア! 僕はあまり神様には詳しくなかったが、その僕でも何かすごいことが起こったのが分かる!」
殿下は興奮した口調で話し始めます。
「本当ですか?」
「ああそうだ、おそらく他の人たちもそうだろう」
確かに神官たちも皆興奮した面持ちで何かを話しています。すると彼らの中からエメラルダも私の方へやってきます。
「シンシア様、長らく枯れていた神殿の後ろにある聖なる薬草の畑が息を吹き返しました!」
「本当!?」
「はい、他にも神殿の倉庫に眠っていた力が失われた神器の力が戻るなど、様々なことが起こっています!」
それを聞いて私は深い達成感に包まれました。
先ほど脳裏をよぎった風景だけでなく、こうして王国中に無数の吉事が起こっているのでしょう。一連の事件で王国は深い傷を負いましたが、それらはきちんと癒しに向かっていくのです。
ここまで色々ありましたが、この道を選んでいて本当に良かった、と思うのでした。
「良かった……ではこれでこの国は復興していくのですね」
「ああ、明日以降王都には各地から報告が届くことだろう。今日はゆっくり休むが良い」
殿下は優しく言ってくださります。
確かにここのところ神殿の人員不足で私は働きづめだったので、役目が一区切りついたと思うと、どっと疲れが押し寄せるのを感じます。
「ありがとうございます」
こうして私は久し振りにゆっくりと眠りについたのでした。
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