愛とか恋ってなんですか?

柵木悠夏

第1話

「結婚しようか」


 安い居酒屋の一角。私は幼なじみである鈴原蒼すずはらあおいからそう告げられたとき、後先考えずに言ってしまった。

「いいよ。お互いいい年だしね」

「だね。じゃあ、さっさと籍いれよっか?明日とか適当なときに役所行って」

「いいよ、適当で」

「そうだね」


 私はビールを大きく口に含み、口の中に残っていた軟骨を噛み砕いた。焼き鳥一本100円から売っている安い居酒屋とはいえ、この組み合わせは絶妙だ。こりこりした食感がクセになる。

「なあ菜音なお、子供は?」

「どっちでも。私、あんまり子供得意じゃない」

「俺も」

「ならいいじゃん」

 私は3杯目に焼酎を注文した。強いアルコールが欲しかった。お酒は得意な方なのだ。

「じゃあ、営みは?」

 突拍子もないようなこときいてくるなぁと思ったが、お酒の勢いだろうか、素直に答えることにした。

「営みとか、したくないから、あんたと結婚するんじゃん?」

「そうか」

 蒼もビールを口に含んだ。思わずその苦味に顔をしかめてしまうところが可愛らしい。蒼はアルコールが得意なほうではないのに、こうして私に付き合ってくれる。


 私と蒼の間には恋愛感情がない。ただ、お互い30を目の前にして、なんとなく焦りを感じ、結婚しているという事実が欲しかっただけ。

 小さい頃から一緒だし、気心の知れた仲だ。隣でずっと黙ったままでも苦しくならない。

 つまり、両者の利害が一致によって成立した結婚話なのだ。


 ドキドキもしないけど、相手が今も私のこと好きなんだろうか、何ていって悩むこともない。この上なく楽な結婚だ。


 次の日、私は二日酔いで痛む頭を抱えながら結婚届を書いた。






作者から。

2話から4話まで、進みの悪い話が続きます。仲良しになる二人をみたいという方は飛ばして、5話へ進んで下さい。




 


 

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