第7話 騎士団

「──捕まえろ! 何としても捕まえるんだ、魔道騎士団の威信にかけて!!」


 背後からは、屈強な男どもが血相を変え、ワラワラとわっちを追いかけてきておる。


 それもそのはずじゃろう。

 何せ、国の魔道騎士団。関係者以外立ち入りを禁じられている修練場に、十三になったばかりのわっぱが、忍び込んで来たのじゃから。

 

「いやはや、全くもって遅いの。鬼さん、こちらじゃ!!」


 わっちは追いかけてくる男どもをあおった。

 騎士達の多くは怒りをあらわにし、大人げなく本気で追いかけてきおる。


「なんじゃなんじゃ? 魔道騎士団様達は、わっちみたいなわっぱ一人、満足に捕まえられんのかの?」


 騎士達が本気になって、集団で追いかけ回しても、わっちは縦横無尽に駆け、危なげなく逃げきった。


 わざと近づかせては、フェイントを交え回避したり、時には相手の上を飛び越して翻弄ほんろうした。


 これはこれで、それなりに楽しんでおったのだが……。


「ふむ、あやつら。鬼遊びには飽きてきたようじゃな」


 半刻ほど走ったかの?

 その場に居る騎士は肩で息をし、中には地面に座り込むものまで出てきてる始末。


「なっさけないのぉー。それでもぬしら、国を守る有名な騎士様か? この醜態、民が見たら不安を覚えるぞ?」


「はぁはぁ……このガキ、言わせておけば!!」


 座り込んでいた兵の一人が立ち上がり、こちらに向かい手を構え、ブツブツと独り言を言い始めた。


 あの詠唱は『ファイアボール』かの?


 十中八九間違いない。

 魔術で重要なのは具体的で明確な想像力。

 形の無い炎をイメージするため球体状にし、尚且つ球として認識することで命中精度を上げた魔術じゃ。


「──馬鹿、何してるんだ。相手は子供だぞ‼」


「うるせぇ、ただの脅しだ! 良いから邪魔すんな!!」


 その行為が目にまったのじゃろうな。

 他の騎士が、魔法を放つのを止めにかかる。


 しかし──。


「しまった、手元が!?」


 怒りにより冷静さを欠いた兵が、同胞との小競り合いの末放った魔術は、真っ直ぐとわっちに向かい飛んできたのじゃった──。


「まったく、手元を狂わすとは……」


 火の玉であろうと、十分な殺傷能力がある。

 普通の子供では、怪我ではすまぬだろうな。


 当たる直前、わっちは飛んでくる魔術を手で払い除ける仕草を行った。

 すると火球は目の前で散り散りと広がり、跡形もなく霧散した。


「「なっ!?」」


「これしきの事で、何を驚いておる。それにこの威力、ガッカリさせるでない。もしや、これがぬしの限界かの?」


 どんな理由であっても、まともに御する事の出来ない魔術をわっぱに向け放つ。少しじゃが、頭にきたの……。


「足りん、全然足りんのー。火球とはこの様な物を言うのじゃ、必死に逃げるが良い!!」


 こやつらに合わせ、わっちはわざわざ詠唱を始めた──。


「赤々と燃えるは憤怒の炎。我が意思の元、姿を変え、敵を討たん……」


 先程兵の生み出したファイアーボール。

 その十倍はあろう火球が、手を上げたわっちの頭上に現れる。

 そして、それを見た兵達の目の色が変わった──。


「お、おいなんだよあの魔術、なんでガキがあんなもん使えんだよ……」


「──馬鹿、それどころじゃないだろ。丸焦げになる、逃げろ!」


 なんじゃ、まだまだ元気ではないか。


 鬼遊びで疲れはててた兵は皆起き上がり、一目散に逃げていく


「かっかっか、本物の火球、しかと目に焼き付けるがよい──ファイアーボール!!」


 詠唱を終え、わっちが目的の場所を指差した。

 それは兵の目の前に落ち、落下地点で爆発とともに高い高い火柱を上が上がった。


「ふむ、久しぶりに詠唱ありじゃったから火加減しすぎたわ」


 わっちも人の事言えんの、感覚が鈍っておる。


「な、何だあの魔術。あのガキ……一体何事だ?」


 わざと外したため、逃げた兵達は誰一人として怪我人はない。

 しかし爆風と轟音で、騎士達の何人かは腰を抜かしているようじゃ。


「──どうした騒々しい? 今火柱が見えたようだが」


「「隊長、それに副隊長!!」」


 隊長に副隊長? やっと本命が来おったか。

 振り返ってみると、出入り口からは立派な装備に身を包んだ、二人の男が修練に入ってきたのじゃった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る