経験値横取りにキレた俺は女装で無双する

白生荼汰

プロローグ 勝手な奴は自覚がない

第1話 余計なお世話でレベルが上がらない

「アディ、危ない! たぁあああああ!」


 ドン、と横から突き飛ばされた。

 もはや息も絶え絶えになっていたホーンラビットの首が刈り取られる。


 ……いや、危なくなんかなかったよ?


「お、今のでレベルアップしたな」


 ホーンラビットにとどめを刺したガリオンが嬉しそうに言った。

 対して、俺に入った経験値は微々たるものだ。


「アディがもたもたしてるから」

「しょーがないよ、アディ太ってるから」


 呆れたみたいに言うノーマに、カスハがフォローにもならないフォローをしてくれた。


「こんなにボロボロにしちゃ、買取価格が下がるじゃない」


 忌々しそうにロージィが言う。


「アディだから仕方がない。こいつは夕飯にすればいい」


 リディが切り離されたホーンラビットの首を持ち上げながら言った。


「食べるにしても、手数を少なくして、ちゃんと血抜きしたほうが美味しいんだけどねー」


 あはは、とカスハが笑って言う。


「アディが怪我をしなかっただけいいさ」


 ガリオンが悪気のかけらもなく爽やかに笑う。


 倒した魔獣は、オークが一匹。ホーンラビットが一匹。

 俺たちD級パーティ『暁の星』にとってはまずまずの成果だ。

 金貨五枚は堅いな。

 オークを丸ごと持って帰れたら、その素材でもっと稼げるんだけど。


「野営の支度はしとくから、そのホーンラビットの解体しに行ってこい!」


 騎士のリディに命令されて、俺はホーンラビットの首なし死体を持ち上げると、のろのろと水場に向かった。


 討伐した魔獣の解体は基本ギルド併設の解体場でやってくれるけど、自分たちで食べる分には、自分で解体しなきゃならない。

 これが結構めんどくさい。

 ざっと捌いてから、食べられない部位を埋める。


「いって……」


 気が付かなかったけど、肘にかすり傷が出来ていた。

 応急処置に、その辺にあった薬草を揉んで貼り付ける。

 間違ってもホーンラビットとの戦いで出来た傷なんかじゃない。

 ガリオンに突き飛ばされたからできた傷だ。


「……はぁあああ、あのホーンラビット、俺一人でも倒せたのに」


 魔獣との戦闘はパーティを組んでいれば一定の経験値が入るけど、それとは別に攻撃ボーナスと、とどめを刺した時のボーナスが入る。

 他のパーティメンバーはオークを相手取っていたから、俺はホーンラビットにかかりきりだったのだ。

 とどめまで刺せれば、まるまる一匹分のボーナス経験値がもらえた。

 そして、とどめを刺したボーナスは攻撃ボーナスよりも高い。

 もちろんオークとホーンラビットでは、オークの方が段違いに取得できる経験値が多いから、それだったら俺もオーク討伐に参加した方がもらえた経験値は多かったはずだ。


 同じパーティ内のことだから、ガリオンには横取りをした意識なんかなかっただろう。

 もたもたしている俺のために、早く戦闘を終わらせてやった。

 そんなつもりでいるはずだ。


 解体の終わったホーンラビットを持って野営地に戻ると、まだオークは埋められてなかった。


「あれ。まだ素材剥ぎ取り終わってないの?」


 俺が聞くと、もう座っていたガリオンが顔を上げた。


「なぁ、アディ。ホーンラビットが解体できるんなら、オークは解体できねえの? 持って帰れたら金になるだろ?」

「それは……」


 俺だって考えたことがないわけじゃない。

 解体が出来れば魔石も手に入る。

 確実に売れる睾丸だけでは金貨二枚程度にしかならないのだ。

 オークの討伐報奨が金貨三枚、ホーンラビットが銀貨五枚、ここにオークの素材をもっと持ち帰ることができれば、収入は二倍三倍に膨れ上がる。


「……残念だけど無理だ」

「はぁ、つっかえ……」


 使えねーな、と溜息を吐かれて、俺は俯くしかなかった。

 大体解体できたところで、俺一人で持ち帰れるのは、腕の一本がせいぜいというところだろう。


「持って帰れないものは仕方ないでしょ。ほら、お肉貸して」

「私たちで燃やすから、埋める穴をよろしく」


 料理をしてくれるカスハに肉を託し、俺はノーマの指示を受けて、オークを処理するための穴を黙々と掘り始めた。

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