第31話 境界

 村の外に一歩たりとも出てはいけない。

 父さんは毎日のように言い聞かせていた。

 でも僕はどうしても外へ出てみたかった。

 村外れの門。

 ここならあまり大人が来ないし、しかも今は昨日の嵐のせいで門が壊れていた。

 一歩ぐらいは…。

 僕はおそるおそる、村と外のをほんの一歩だけ踏み越えた。

「何してるの?」

 途端に声をかけられた。

「ごめんなさい!」

「こっちだよ」

 その声は村の外側からだった。

 きれいな花畑の中に一人の女の子が立っていた。

「外に出ようとして、いけないんだ」

「き、君はどうなんだよ」

「私は内緒の散歩中よ」

「もう内緒にならないね」

「じゃあ、ふたりの内緒にしない?」

 言ってその子は僕の手を取った。

「ほら行こ」

 誘われるままに、僕は村の外へと完全に出てしまった。

 そして、が一変した。

「ヒサビサノニンゲン。ズットマッテタカイガアッタゼ」

 僕の手を握るのは、女の子じゃなくなってた。

 僕は心の中で、父さんにひたすら謝ることしかできなかった。

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