九〇秒KO宣言
『すばらしい強さだ! 幻獣の中でも二番目に強いとされているリヴァイアサンを、もとのとしません。要した時間は、わずか六〇秒!』
会場は、盛り上がっている。
リヴァイアサンも善戦していた。が、格闘技と、弱点の炎魔法によって敗北してしまう。幻獣に死の概念はないので、死んだわけではない。が、力は弱っていると思われる。
『この強さがあれば、復活がウワサされる魔王も撃退できるのではないでしょうか? ベロニカ王女、いかがでしょう?』
「……は?」
自分が活躍した記録なのに、王女はまったく視線を向けていなかった。
「すいません。もう一度質問をお願い致します」
懐中時計に夢中になっていた王女が、聞き返す。
『で、ですから、魔王がこの現代に復活したとしても、葬れるのではないかと言われています!』
王女は首を振る。
「油断してはなりません。あの勇者様ですら苦戦する存在です。我々は、常に気を強く持ち、相手の誘惑に打ち勝たねばならない。この試練は、その鍛錬に相応しいでしょう」
実力だけで言えば、S級を授けたっていいくらいだ。
王女の性格にも、問題はない。むしろS級の称号は、彼女にこそ相応しいだろう。
「それより早く、決着を付けましょう」
『なんという気高さ! ほころびは微塵も感じられない。この牙城を、シチサブロー審査員は打ち破れるのか? はたまた、王女は食欲に屈するのか? 目が離せません。さあスタート!』
試合開始のゴングが鳴った。
『さて、試合が始まりました。王女、天使ともに落ち着いています。肉に視線を向けることもありません。対するシチサブロー審査員も、余裕の表情だ。テルル審査員が少し心配気味な顔をしているが、大丈夫か?』
天使に、今のところ変化は見られない。
変わったことがあるとすれば……やはりだ。
シチサブローは、天使に向かってゆっくりと腕を伸ばす。
「断言するぜ。テメエは九〇秒で負ける」
天使を指さして、シチサブローは言い放つ。
『おっとぉ。リヴァイアサンすら倒す最強クラスの召喚獣を相手に、「九〇秒でKOさせる」と宣言したぞ! いったいどういうことなのか?』
九〇秒で倒す。シチサブローの発言に、天使が激高した。
「なんだと!? 貴様、姫様に向かってなんて口を!」
ヒーローは大変だ。台詞を吐くたびに、いちいちポーズを決めなければならないらしい。
「だからよ。お前じゃオレには勝てないんだよ。それは、姫様が一番よく分かってらっしゃるんじゃねえか? 姫様に聞いてみな?」
天使は、王女に向き直った。
「姫よ、こんなヤツの戯れ言など聞いてはならん! 姫はワタシを召喚することができる唯一の……」
そこまで言い終えて、天使は言葉を失う。
王女が杖を支えにして、疲労で倒れそうになっていた。
「どうした姫! なにがあった?」
「その方の、おっしゃるとおりです、わ……」
言い残して、姫はダウンする。
『あーっとぉ! どうした、ベロニカ王女、失神! その時間、なんと九〇秒ジャストです! シチサブロー審査員の予測通り! これはいったい、どういうことだ!?』
会場全体が、パニックになった。
「姫ェ! 貴様、ワタシの姫に何をし――!?」
言葉を言い終える前に、天使は消滅した。
『あーっとぉ! 天使が消えてしまいました! それにしても、何が起きたのか!?』
試合中に召喚獣を消したことによって、王女は試合放棄と見なされる。
大本命の負けが確定した。
「テルル!」
「わかってる」
テルルが、王女の元へ駆けつける。瓶に入った自分の血を、王女に飲ませた。
「ふわっ!」
やつれていた王女が、息を吹き返したかのように目を開ける。
「私は、助かったのですね?」
「ああ。ただし、試合は負けたがな」
負けたと告げたのに、王女の顔は清々しい。
「そうですか。仕方ありませんね。来年に向けて再スタートです」
「その前に頼まれてもらいたい」
シチサブローは、王女に再度天使の召喚を頼む。
「承知しました。事情を説明せねば」
王女は呪文を唱える。
再度、短い賛美歌が流れた。天使降臨だ。
「はっ、ワタシはいったい?」
「テメエは負けたんだ」
「そんなバカな!?」
信じられないのか、天使はオーバーなリアクションを取る。
「それより、今のはなんだ! なぜワタシは消滅した?」
「どうもしてねえよ。姫様のガス欠だ」
「ガス欠だと!?」
「わからねえのかよ。お前さんを召喚するのに、お姫は全魔力を注ぎ込んだんだよ!」
王女は魔力切れによって、シチサブローに負けたのである。
魔力切れを疑ったきっかけは、先のサキュバス戦だ。
あちらも、魔力量に難があったように思う。人の手に余るほどの、ハイレベルの悪魔を召喚したのだから。あのまま男どもの精気を吸わずに試験を続けていたら、召喚士の魂さえ危なかった。
まして王女が引き連れてきたのは、サキュバス以上に強い天使だ。身体に負担が掛かるのは、目に見えている。
A級試験の時、姫がしきりに時計を気にしていたのを、シチサブローは見逃さなかった。
「試合前も、王女は懐中時計を開き、時間を確認していた」
つまり、ガス欠までに試合を終わらせたかったと推測できる。
「お前の大事な王女様は、敵を一分で倒したんじゃない。『六〇秒以上は、身体がもたなかった』んだよ!」
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