熱烈歓迎──1

深夜、人が寝静まる時間にホムラは皇帝陛下が住む城に忍び込んでいた。




(サリィにだけ中身教えて俺も乗せてくれたらよかったのに……クソ忙しい時に漁師のサマさんに船を出してもらってしまった)




ホムラは変装しボリロス島から帝国の港、アリアネ港まで送ってもらい、封筒の中に入っていた入国許可証のおかげで帝国に入国し、魔馬車に乗って帝都入りをしたのだ。




(帝国の女は鼻が鋭いからな……幸い海から来たおかげで海の臭いで誤魔化せてよかった)




後は簡単、慣れ親しんだ城に忍び込み、不自然なまで衛兵が少ない城の中を歩いていた。




「誘われてると思っていたが、懐かしい面々が待ってくれてるじゃないか」




大広間に入ると床に剣が刺さっており、ホムラを待ち構えていたかのように三人の少女がそこにいた。


肩まで短く切り揃えられた黒髪のお淑やかな少女は狂気じみた笑みを浮かべて目を見開き、銀色の髪を背中まで伸ばした少女は不機嫌そうに腕を組み、一番身長が高い少女は剣を構えて静かに立っていた。




「まぁ、まぁまぁまぁ! サリアさん、ネロさん、本物のホムラ様ですわ!! 」


「ふん! 今更どの面さげて帰って来たのよ!私達の事を忘れて島の女と楽しんでいたんでしょどうせ!! 」


「ホムラさま……わたし、会いたかった」



ホムラは剣を構えると三人は一斉に襲いかかって来た。




「ぐぅっ!! 」



なんとか弾き返したが、三人はすぐさま反応して追い討ちを仕掛ける。




「あぁ、夢のようですわ」


「俺からすれば悪夢だッ!! 」




お互い使っている剣は真剣では無く、演舞用の軽くて丈夫な剣で死ぬ事は無い、しかし普段から真剣を扱う三人がそんな剣を使い、一糸乱れぬ連携で攻撃を続けられるとホムラはひたすら防ぐことしかできなかった。




(目で充分追えるが、半端なく強い……これで手加減してるから恐ろしい……!!)




三方向に分かれ、同時に襲って来た瞬間ホムラはニヤリと笑い全ての攻撃を防いだ。





「どうだいアリーナ、お前の惚れた男は」


「素敵です……! 」




アリーナの一振りは腕をぶつける事で振り下ろせなくして、サリアの突きを自ら身体を近づけて間合いを詰めてサリアの腕を自分の腕と身体で挟み、下から迫っていたネロの振り上げた一振りをサリアの腕を挟んでいた方の手に持っていた剣で防いだ。




「ち、ち、近い……!!」


「はっ、お前達がクレネス鳥を使って盗撮した事は知っている……遠くで見るより近くで見る方が嬉しいだろう? 」


「ホムラさま、わたしの剣受け止めてくれた」


「五年ぶりかな、相変わらず強くて手が痛いよ」




ホムラは飛び跳ねて大広間のシャンデリアに乗り三人を見下ろす。




「参ったな、同じ三対一でこうも違うか」


「あら、ホムラ様? 私の知らない小娘と比較していらっしゃいますの? 」


「気に入らないわね……!! 」


「……引き摺り下ろす」




(こっわ……)




一気に殺気立つ三人に身震いをし、シャンデリアの上でこのまま過ごしたいなと思いながらホムラは意を決して飛び降りた。




「……そこ」


(最初に迎え撃つのは当然一番身長の高いネロだよな!! )




二人の剣が激しくぶつかり合ったと同時にホムラの持っていた剣は砕け、ネロが驚いた瞬間に後ろに回り込み顎を掴んで顔を近づけて耳に息を吹きかけた。




「ふわあああああぁぁぁぁ!!!! 」




さっきまでの無表情っぷりから想像できないほど蕩け切った表情を浮かべ、嬌声をあげながら落ちるネロを抱えて着地する。




(……振り向いたら殺されるな)



「侵入者がいたぞ!! 」





「こっちだ!! 」




近づいて来る足音が衛兵の者だとホムラは理解して溜息を吐いた。




「……熱烈歓迎も悪がないけど、こうも多いとな」




気を失ったネロをゆっくりと下ろして剣を奪ったホムラは立ち上がっる。




「貴様! アーガネット家の!! 」


「帝国を追放された男が城に忍び込んで何をしている! 」


「まぁいい、犯罪者な以上捕まえてもなんら問題ないな」


「ッ! 下賤な!!」


「これだから下品な女って嫌いなのよ」





「おやおや、これはお嬢様、危ないですから我々に任せてお下がりください」


「これからは大人の時間ですから! 」




あははと笑う衛兵達にアリーナとサリアは嫌悪する表情で見る。




「大人しくしろ、怪我をしたくなかったらな」


「俺をアーガネット家の人間と知りながら剣を向けるか」


「はん、すでにアーガネット家はこの国に存在しない! 貴様は我らが皇帝陛下に仇なすただの不法侵入者だ! 」


「一応見せておこう」




ホムラは懐から黒薔薇の封蝋のついた封筒を見せるが衛兵達は槍を向け、ホムラは何度目か溜息を吐いて剣を構えた。




「やれ」


「はあああぁぁぁ!!! 」




一人目の衛兵の槍を掴み、腹を蹴って転ばして二人三人と巻き込む、四人目と五人目が同時に襲いかかるがホムラの動きに翻弄され続け鎧越しに響く鈍い痛みに気を失った。




「隊長を呼べ、もしくは皇帝陛下を呼んでこい、下っ端のお前達じゃ時間の無駄だ」


「貴様あああぁぁぁ!! 」




激昂した衛兵が槍を振り回すがホムラは軽やかなステップで回避を続ける。




「ぐっ! この! 」


「子供の方がマシだよ」




衛兵が息を整えようと一瞬動きを止めたがホムラにとって充分な隙、懐に飛び込み横払いに剣を振るうと衛兵は吹っ飛び壁に激突して気を失った。




「……強いわね、相変わらず」


「転がってる連中が弱いだけだ」




ホムラは剣をアリーナ達に向けて不敵に笑う




「じゃ続きをはじめようか」


「まだやるの!? 」


「さっきまで満足していたがこの連中のせいで中途半端に身体が火照ってきたからな、鎮めさせてくれ」


「ホムラ様に求められるのは嬉しいのですが」


「アンタ、陛下に会いに来たのにいいの? 」


「……滅多に会えないからな」




寂しそうに笑いながら答えるホムラを見てアリーナとサリアはお互い目を合わせて頷いた。




「アンタにそう言われたらやるしかないじゃない」


「えぇ、殿方から誘われてそれを無下にするのは帝国淑女としてナンセンスですわ、ネロさん、起きてください」


「……う、最高の夢心地だったのに」


「現実の俺じゃダメか?」


「ううん現実の方が最高」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る