第16話 戦いの裏側


 ドラドの事件について、少し付けくわえておこう。


 ニャウたちは、そのうちドラドからの呼びだしがあると決めて、前もって対応策を練っていた。   

 そして、必要となるだろうことを準備しておいた。


 ・テトルが呼びだされるだろう場所の周辺調査。

 ・ギルド受付メイリンに渡す手紙の用意。

 

 そして、計画実行の直前になるまで情報を漏らさないよう注意した。これは、ギルド内にドラドの仲間がいると考えたからだ。

 

 大通りでドラドの配下、イタチ顔の小男と出会ったことが計画の引き金となった。

 あらかじめ決めてあったとおり、テトル、タウネ、ニャウの三人は、ドラドとの待ちあわせの場所へ、バックスは二匹の猫を抱えて冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドに到着したバックスは、用意してあった手紙をメイリンに渡した。

 その内容は以下の通りだ。


『こんにちは、メイリンさん。テトルはこの半年以上、ドラドから脅迫され、お金を奪われていました。今この時にも、またそのようなことが行われようとしています。


あなたがこの手紙を読む頃には、私たちはドラドから呼びだされ、彼と会っているはずです。読んだらすぐ、彼を捕まえるために、高ランクの冒険者を派遣してください。そして、子猫ちゃんたちと一緒に、現地そばで待機しておいてください。

 場所はこの手紙を持っていくバックスに聞いてください。


 それと、私たちはギルド内部にドラドと通じている人がいるとにらんでいます。

 高ランク冒険者を招集するとき、職員の動きをよく見張っておいてください。

 ドラドの仲間なら、それらしい行動を取るはずです。

 

 最後に。

 私たちがこれから出向く場所には、ドラドだけでなく、その仲間もいると考えられます。テトルの話だと、いつも通りなら少なくとも五人は子分がいるそうです。

 テトル、タウネ、私の三人で時間稼ぎをしますが、下手をすると命の危険があるかもしれません。

 私の子猫ちゃんが消えたら、冒険者の先輩たちには、すぐ現地に踏みこんでもらってください。

 それでは、くれぐれもよろしくお願いします。


 命を懸けて。

 テトル、タウネ、ニャウ、バックス』


 ニャウによって書かれた、この手紙を受けとったメイリンの行動は早かった。

 ギルドマスターにだけ手紙を見せると、すぐに高ランクの冒険者を緊急招集した。 

 このとき、ギルド裏口から忍びだそうとした職員の一人を拘束、さっそく尋問に入った。


 ギルドに二匹の子猫と手紙を届けたバックスは、冒険者たちの派遣を待たず、単独で現地へ向かった。そして、あらかじめ調べておいた抜け道に身を潜め、ドラドの子分たちが逃走する場合に備えた。


 一方、子猫を抱え、冒険者たちと現地へ駆けつけたメイリンは、袋小路の近くに隠れ、子猫たちが消えるのを待った。

 そして、子猫たちが光に包まれ消えるとすぐ、冒険者たちと一緒に袋小路へ踏みこんだ。

 

 以上がドラド事件の裏側で起こっていたことである。


 ◇


 事件の翌日、ニャウ、タウネ、バックスの三人は冒険者ギルドを訪れた。

 事後報告が必要だとかで、昨日のうちにメイリンから呼びだしを受けたのだ。

 テトルだけは、事件に関する事情聴取があるので衛兵詰め所へ出向いている。

 

 三人がギルドに入るなり、ギルド職員だけでなく冒険者からも拍手が湧きおこった。

 この日、ギルドの待合室には、身動きがとれないほど人が詰めかけていた。なぜか冒険者でない街の人たちもいた。

 

「よくやった、『テトルと愉快な仲間たち』! あいつらのことは、わかっていたけど手が出せなかったんだ」

「うちの子も、あいつらから金を盗られたんだよ! やっつけてくれてありがとうね、『タウネとその手下』!」

「これで、びくびくせずにギルドに来られるよ! ホントありがとう、『バックスの大楯』!」


 拍手の合間から、そんな声が聞こえてくる。

 褒められることに慣れていないニャウたち三人は、しどろもどろになりながらも一人一人に言葉を返している。


「ええと、『タウネとその手下』ってナニかしら?」


 そう口にしたタウネの顔が引きつっている。


「大楯はおいらの自慢だけど、さすがに『バックスの大楯』っていうパーティ名はどうなんだ?」


 バックスは、まんざらでもない顔だが、それでも納得しているわけではなさそうだ。


「え? それって私たちのパーティ名だったの?」


 ニャウだけが、ちょっと違った反応を見せている。

 この少女、どこか少し抜けたところがある。


「ニャウちゃん、それは仕方ないわよ。あなたたちがパーティ名を決めないのが悪いんだから」


「あ、メイリンさん!」


「世間から勝手に変な名前をつけられたくなかったら、早くパーティ名を申告することだよ。まあ、とりあえずそれは置いといて、三人とも今回はホント大活躍だったね。報奨金、かなり出るみたいよ。受付で受けとってちょうだい」


 メイリンがタウネの耳元で報奨金の額をささやく。


「やったー!」


 タウネが跳びあがり、全身で喜びを表現する。


「もうすぐ孤児院を出なきゃならないから、家賃のことがすごく心配だったんだ! それだけもらえれば、いい場所が借りられるかも」


「タウネさん、報奨金は四人に出てるんだからね。全部自分でつかえるわけじゃないよ」


「あ、そうでした。それにしても、きっと考えていたよりましな部屋が借りられるはず」


「それはテトル君がいるときに相談するといいよ。彼だけは、みんなよりたくさんお金が入るから」


「へえ、なぜですか?」


 そう尋ねたニャウの顔には、羨ましさなど、かけらも浮かんではいなかった。

 

「ドラドに奪われたお金まで返ってくるからよ。ほら、『銅貨も集めれば金貨』って言うじゃない。テトル君って、少額だけど繰りかえしお金を盗られてたみたいだから。盗られた分の三倍くらい返してもらえるみたいよ」


「へえ、そんなに? どうしてです?」


「罰金としてドラドたちが払わされることになるみたい。とりあえずは国が支払ってくれて、それが彼らの借金になるみたい。借金の金額が大きければ大きいほど、鉱山で働く期間も伸びるそうよ」 


「あの人たち、大丈夫かしら」


「ニャウ、今はドラドたちの心配じゃなくて、これから住むところの心配しようよ。どんな家があるかなー、今から楽しみ」


 無邪気に笑うタウネは、いつもと違って年相応の少女に見えた。


「そっか、もう孤児院も卒業かー」


 そうつぶやいたニャウは、同室の少女たちの顔が頭にちらつき、思わず涙ぐんでしまった。 









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