17 邪馬台国と卑弥呼

ミサ〉 さてと、日本最古の王と聞いて、誰を思い浮かべる?


我聞〉 邪馬台国の女王、卑弥呼でしょう。


ミサ〉 いわゆる『魏志倭人伝』によると、卑弥呼の前にも男王がいた。けれど、その後争いが勃発し、卑弥呼が担ぎ出されて治まった、ということだ。だから王の定義にもよるが、卑弥呼が最初ではない。

 とはいえ、なんといっても有名なのは卑弥呼だ。


我聞〉 ゲームにもいっぱいでてきます。たいてい超美人ですね。


ミサ〉 そこをあえてのお婆ちゃんキャラでいってほしいところだが、他のゲームと差別化をはかれてよいと我は思うのだが、まぁそんなことはいい。


我聞〉 それじゃ売れんでしょ。つーか、女王ってのがいいんですよ。「喧嘩をやめて~ 二人をとめて~」じゃないですが、男たちが争ってるのをね、女が終わらせた、みたいな。大昔は女性が王になることもあったんですね?


ミサ〉 河合奈保子の歌だな、よく知ってるな。しかしアレは三角関係の歌だぞ。意味が全然違うぞ。

 ちなみに王は男なのが当たり前、ってのは偏見だ。これは考古学者・清家章さんの受け売りなんだが、この時代、女性の首長は珍しいことではない(1)それなりにいたらしい。つまり女王・卑弥呼の登場は異例ではないってことだ。


我聞〉 へぇー、そうだったんですか。ちなみに邪馬台国の勢力範囲って、どれくらいだったんですか?


ミサ〉 知ってるとは思うが、そもそも所在については論争がある(2)大昔のことなんて結局よくわからんよ。とりあえず我は畿内説を支持している。理由を語れば長くなるので割愛。畿内説をとれば、卑弥呼を擁立した支持基盤というのは、おそらく瀬戸内東部から近畿中央部までの範囲だろう。


我聞〉 列島全部を支配してたわけじゃないんだ。


ミサ〉 当たり前だ。列島が一枚岩になるのはずっと先の話だ。さて、卑弥呼だが、「鬼道」をしていた、という記述が『魏志倭人伝』にでてくる。


我聞〉 シャーマンだったんでしょ?


ミサ〉 ん~、どうだろう。『魏志倭人伝』はな、三国志マニアならお馴染み、物語『三国志演義』ではなく、正史『三国志』の方にでてくるんだが、他にも「鬼道」と記されている箇所がある。五斗米道とかいう宗教的王国を築いてた張魯のところだ。


我聞〉 あ、知ってますよ、張魯ね。曹操に負けて降伏したんです。


ミサ〉 詳しいな。


我聞〉 じつはオレ、三国志オタクなんで。ちなみに曹操推しです。司馬懿も好きです。


ミサ〉 そっち系か。わりとダーク・キャラが好きなんだな。


我聞〉 なに言ってんですか! 曹操とか司馬懿を悪いヤツだと思うのはね、ド素人ですよ。それこそ『演義』の世界観に毒されてますね。曹操はですねぇ・・・・・・


ミサ〉 待て! きっと長くなる。とても。


我聞〉 張魯の五斗米道というと、道教系ですね。


ミサ〉 話を戻してくれてありがとう。だからといって鬼道つながりで卑弥呼もまた道教の輩だった、というわけではないと思うぞ。ただ、中国の人からするとだ、かぶってみえた、ってことは言えるだろう。

 とはいえこの時代、そっち系の思想もいくらかは入ってきてるだろうし、ぶっちゃけ、よくわからん。諸説ある。

 ただ、いずれにせよ、卑弥呼が〈宗教的権力〉を体現していたことには違いない。そこで、だ。シャーマンは共同体の周辺、理念的には「こちら/あちら」の境界線上にいた、ってことを思い出してほしい。卑弥呼はもう周辺的存在ではないな。むしろド真ん中にいる。なんせトップなんだからさ。

 ちなみに弥生時代の環濠集落では、ボスも下々もみんな一緒に暮らしてたんだが、卑弥呼の時代になると、ボスはその輪から抜け出て、別途厳つい居館を構えるようになってくる。共同体内で序列化・階層化が進んでいる証拠だ。さらに、ボスのお墓も共同墓地ではなく、別途設けられるようになった。それが後の古墳につながる(3)


我聞〉 卑弥呼はもはや周辺的シャーマンではなく、センタートップにいる。〈第三項排除〉でいうなら、〈上方排除された宗教的権力〉になっちゃってるわけだ。


ミサ〉 イエス。で、このとき、〈軍事的権力〉&〈政治的権力〉はどうなってるかというと、卑弥呼の下には「男弟」がいて、統治を補助していた、という。この「男弟」の存在をどう解釈するかだが、さっき名前を出した清家さんは、男性が首長である場合と異なり、女性が首長の場合は〈軍事的権力〉まで束ねていなかったのではないか、と考察されている。たぶんそうなんだろうな、と我も思う。

 〈宗教的権力〉も〈軍事的権力〉も〈政治的権力〉も一応中央に集まってきてはいるが、卑弥呼の場合、その身体に全集中していなかった、と想像しておく。


我聞〉 完全なる三位一体とまではいってない、ってことですね? 「男弟」が、その一端を分有していたと?


ミサ〉 たぶんね。あと、卑弥呼は独り身だったというが、なんでだと思う?


我聞〉 祭祀っぽいことしてるんなら、処女の巫女、つーか、私は神様の妻よ、みたいな・・・・・・


ミサ〉 その先入観はアニメの影響か? 卑弥呼が夫をもち子を産めば、その子が次の王になるやもしれぬ、ってことが問題だったのだろう。清家さんもそう言っている。つまり、いわゆる王位継承が発生しかねない。


我聞〉 ダメなんですか?


ミサ〉 卑弥呼がかつがれる前には争いがあった。どんな規模感かは知らんが、主導権争いをしていたわけだ。この争いを、卑弥呼はトップダウン型で制圧したのではなく、いわば横並びの争いを終わらせるため、ボトムアップ型で選出されている。


我聞〉 なんつーか、そういうときって、たいてい一番無害なリーダーが選ばれたりするんですよね。違いますか?


ミサ〉 卑弥呼が無害かどうかは直接会ってないから知らんが、これだけは想像がつくぞ。おそらくこの時代、大ボスが不在だった。もっとつっこんで言うと、大ボスがいてもらっては困ったのかもしれない。誰かが大ボスになろうとすると、誰かがその足をひっぱった。だから争いになった。

 実際、卑弥呼が亡くなると、またモメはじめたらしく、結果、再び女王が誕生しているのだ。ちなみにその女王は少女だ。萌えるか?


我聞〉 なんですか、その目は。つまり横並びの覇権争いがあった、ってわけですね。


ミサ〉 もしかしてお飾りだったかもしれぬ卑弥呼が子を産み、そいつが後継者になっちまうと、代々その家が大ボス・ポジションに収まっちまうことになるかもしれぬ。だからおそらく卑弥呼は独り身を貫き、「我に野心はございませーん」アピールをする必要があったのかもしれないし、逆にそんな感じであるからこそ、支持されもしたのだろう。あくまでテキトーな推測だがな。


我聞〉 つーことは、最初に教えてもらった『国家に抗する社会』じゃないですが、〈宗教的権力〉〈軍事的権力〉〈政治的権力〉は中央に集まってきてはいるけれど、女王の一つ身体には統合されておらず、三位一体になりきれていない、どころか、むしろ逆に、強力な王権が生まれては困る、足の引っ張り合い、つーか、王権誕生へストッパーがかかってる、って感じですか?


ミサ〉 タイムマシンにのって現地へ行ってみないことにはわからんが、突出したトップダウン型の大ボスが出そうになるとモメ、出そうになるとモメ、していたような気がしなくもないな。あくまで、想像の域を出ないがな。


我聞〉 その後の展開は、どんな感じです?




(註)


1 清家章『卑弥呼と女性首長』吉川弘文館、2020

 清家章さんは考古学的データを検証し、弥生時代後期後半から古墳時代前期においては一定度の女性首長が存在していたと指摘している。ただし、男性首長とは異なり、軍事的な権能については限定的だったのではないか、と推測している。


2 「邪馬台国はどこにあるか?」は、興味をそそられる古代史ミステリーである。これまで多くの論者が謎解き?に挑んでおり、多彩な仮説が提出されている。

 しかしながら『魏志倭人伝』は、当時の中国における(半ば空想的な)地理観・世界観をベースとするものであるから、そこに記された方位や距離をどこまで真面目に受けとって議論できるのか?といった根本的問題がある。

 詳しくは、たとえば、吉松大志「邪馬台国から古墳の時代へ」『古代史講義 邪馬台国から平安時代まで』(佐藤信編、ちくま新書、2018)所収を参照。


3 都出比呂志『古代国家はいつ成立したか』岩波新書、2011:第一章

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