パンドラさんの箱

ハイブリッジ万生

第1話 おくりもの


仕事で訪れたミャンマーの山奥に人里離れた集落があり、そこの現地の人ですらあまり近寄らない方が良いと噂する自称魔女の老婆が住んでいた。


私は好奇心から人々制止を振り切って一人で老婆に逢いにいった。


道なき道を行きつ戻りつしながらやっとの思いでいかにも魔女の住んでいそうな小屋を見つけた。


恐る恐る戸を叩こうとした刹那それを察していたかの様にゆっくりと木製の扉がギギギと開いた。


中から出てきた老婆は高齢に見えたが動きは俊敏で目尻はまるで動物の様に鋭かった。


その風貌にやわら怖気付いて黙っていると老婆はクスクスと笑い「とって食いやせんよ」と嗤いながら中へと手招きした。


小屋の中は思いのほか整理されていて真鍮の鍋にはおそらくその辺に生えていたであろうキノコや植物と何らかの動物の肉らしきものが入っていて匂いだけなら空腹を思い出させるに十分な魅力があった。


気せずしてお腹が鳴るのをさもおかしそうに老婆は笑って直ぐにそのジビエを振る舞ってくれた。


少し癖のある味だが期待どおりの味に舌鼓を打つと老婆は私を気に入ってくれた様でいつでも遊びにくる様にと言われた。


最初こそおっかなびっくりではあったがいざ懐に入ってみると人々がいうようなおかしな人ではないと思う様になった。



それから何日か通っているうちにすっかり打ち解けたのだが、仕事で来ている以上いつまでもミャンマーにいるわけにもいかず日本に帰らなければならない日がとうとうやって来た。


老婆は残念がったが最後にと不思議なお土産を貰った。


古い木の箱なのだが中には猿の首のミイラが入っていると言った。


そんな気味の悪いものは欲しくないと言ったがなんでも願いが叶う箱だと老婆は真剣な顔で告げた。


「願いって三つ?」


「そんなわけないじゃろ、ひとつじゃよ、叶えたい願いを何回も繰り返すんじゃ、想いが届けられたら合図があるはずじゃ」


「合図ってどんな?」


「合図は合図じゃ、なんでも叶うぞ。ただし時を遡らせたいという願いだけは無理じゃぞ」


そう言って皺くちゃの笑顔をつくった。


「流石にそんな無茶なお願いはしないよ」


そう言って私も悪戯っぽく笑った。


とりあえず旅の土産と土産話を両方手に入れた私は断る理由もなく受け取って日本に帰国した。








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