男所帯のこの【道】ではおかしな感じだが【姉妹艦】というものは姿形が似かよっている。造船所の特色を持ちつつも、やはり一目で設計図を同じとすることが分かるものである。彰が陽凪の件で蛇蝎のごとく拒絶した者が二人いる。一人は陽凪がCICを譲った白幸。そしてもう一人は白幸の【妹艦】である鞍利であった。彰の鞍利への態度は白幸と変わらず、突然蹴飛ばし、皿を投げつけるなんてことは日常茶飯事だった。それも白幸が言った「その内に落ち着くよ」の言葉通りで、白幸への加害行動が落ち着くと共に、鞍利への暴力も落ち着いっていった。顔が似ている、【妹艦】というだけで嫌われたのだから、温厚楽天家の鞍利でもさすがに怒るのではないかとDDH以外の誰もが懸念した。しかし、鞍利も白幸同様決して彰を責めることはなかった。


 陽凪が逝ってから七年、白幸が逝ってからは二年がたった。鞍利の除籍も近づいた今日この頃。心なしか彰がそわそわしているような気がする。DDHでない俺の見立てがどこまで当たっているかは分からないが、彰は鞍利のことを本気で嫌っているわけではないと思っている。そんな十一月の末の日に彰が【道】から姿を消した。もともと自由な【フナダマ】故に珍しいことではないのだが、今回は少し気がかりだ。そして、彰が姿を消してから三日目の夕方のことだった。俺が明日香の始末書を受け取りに補助艦艇の仕事場兼邸宅を訪ねた。補助艦艇の邸宅には【道】中に設置されたカメラの映像が集まる監視室がある。その前を通った時だった。

「ただいまー!!」

監視室からやたらと明るい鞍利の声が響く。こちらは廊下にいるというのに、まるですぐそこに居るかのようだ。鞍利は先日より最後の一般公開のためにバタバタとあちこちの港を回っている。この週末は確か香川県だったと記憶している。それに合わせて哨戒ヘリコプター……【SH60-j】も【くらま】に載せて公開になっていた。鞍利の声から察するにトラブルにはならなかったのだろう。いいことでもあったんだろうなんて思いながら自分の家へ帰るべく外へ出た。遠くの方に大小二人の人物の陰が見える。小柄な方の影が俺をめがけて駆けてくるのが分かった。影はあっという間に俺との距離を詰め全力で胸に飛び込んでくる。

「うおっ!彰!!どうした!?」

「【こんごう】!」

いくら小柄な【フナダマ】とはいえ受け止める反動はそれなりのもので二、三歩よろめく。彰はそんなことはお構いなしに俺の制服をぎゅうっと握り締める。その手は雨にでも降られたのだろうか氷のように冷たく、ピシッと結われた髪の毛もしっとりと濡れていた。

「【くらま】に謝った」

彰が俺の胸に顔を埋めたままそう言った。鞍利の明るい声の理由はこれだったのか。

「彰、よかったな。でもな、重いから降りてくれ」

「やだ」

DDHでもない俺が【フナダマ】一人抱えるのは文字通り荷が重いのだが、彰はそんな俺に気を使うつもりは毛頭ないらしい。先ほど見えたもうひとつの大きな影……【くらま】が追いついて来て嬉しそうにこちらを見ていた。よく見れば【くらま】も濡れているようだ。【現世】は雨だったのだろうか。

「鞍利ちょっとこれ持って」

「頑張れ、金剛」

「えー……」

仕方なく抱えたまま再び帰路につくがもうすでに手がプルプル震えだしている。

「なあ、彰……」

「やだ」

十二月の風は雨の匂いを連れて吹き抜ける。春を待ちわびる種は今夜も土の下で眠っている。

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