【二月二十四日】

 俺を主役とする行事はもう来月の退役を除けばなにもなくなった今日この頃。後のやらなければいけないこと言えば【道】での細々とした業務と、愛しいよっちゃんと過ごすことだけである。今日も【道】にて長哉に管制艇の任務内容の指導を終え、よっちゃんの【家】へと帰る。よっちゃんとも弟とも一緒に居たい俺は、数日置きに海上自衛隊の【道】とよっちゃんの所の【道】を行き来している。

「ただいまー」

誰もいないよっちゃんの部屋に響く声は寂しい。最近はドックで改造中の長哉がいるので、余計にひとりの時間が堪える。制服を脱ぎハンガーにかけて、上着を羽織る。時計は十七時半を指しているが、外はもう夜をすぐそこに呼んできている。

「寒いなあ」

冷たい風がゆるりゆるりと吹く中、いつもよっちゃんが仕事帰りに使う出入り口の付近まで歩く。機関を止めた体はなかなか暖まらず、踏み出す一歩もなんだか以前よりも小さく感じる。出入り口付近の岩の近くに腰掛けて、愛しい人を待つ。この時間すらも愛しいと思えるのだから、よっちゃんはつくづく凄い人だと思う。ぼんやりと出入り口付近の空間を見つめていると、ふいに空気が穏やかな波のように揺れる。誰かが【道】を開けたのだ。白い手が何もなかった空間から出た次の瞬間には、背の高い女性がその場に現れる。

「おかえり、よっちゃん」

立ち上がり声をかけると女性は猫のように目を細めて微笑んだ。

「ただいま、ひさ」


この声が一番に聞きたくて

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