第11話 ここで、最初の寝床を手に入れたハナシ

 蹴られることは無かったが、確かに真っ先に案内されたのは取り調べ室ではなく牢屋の方だった。

「フェイール」

「はい!」

 事務所には留守番が一人いた。マニックスやその取り巻きとはひと回り若い。新人のようだ。

「こいつを入れとけ」

「持ち物は?」

「丸腰だ。必要ない」

「よろしくフェイール。僕はクラウン」

 自己紹介ながらわたしは牢の中へと入った。

 フェイールは戸惑いながらも、牢の鍵をかける。鍵は先輩たちの手を伝い、牢から少し離れた所にある机の引き出しに入れられた。

 牢は、奥側二面が窓のない壁。向かいが鉄の格子となっている。鎖で固定された簡素なベッドと隅には申し訳程度の間仕切りで隠れた便座がある。当然水洗ではないだろうな。どうやら、ここがに来て初めての泊まり部屋になるようだ。わたしはベッドに腰掛け、保安官たちの成り行きを見守った。自分でいうのも何だが、わたしは厄介な類いの容疑者のはずだ。

「それでどうします?」

「ネイスが目覚めないことには、何も進められないのでは?」

「とにかく、村長に報告だ。もう話は届いてるかもしれないが、一応使いを出そう」

「では、俺が行きます」

 取り巻きの一人が名乗り出て、事務所を出ていった。しばらくしてー

『ヒヒィーーゥン』

 と、馬に似た嘶きと蹄の音が聞こえた。わたしの知る馬と同じかは分からないが、移動手段となる動物はいるようだ。音が遠のくのを見送ると、事務所内から若干緊張が抜けたように感じた。

「ふぅ」

 取り巻きの一人が格子に寄りかかった。檻に入れたからといって、ちょいと気を抜き過ぎだろ。

「フェイール…」

 わたしは小声で牢の前で座る若手を呼んだ。返事はなかったが、こちらに気づいたのを見て、わたしは寄りかかる先輩を指した。正確には、格子の間から銃のホルスターを。

「オズワル先輩!」

 それが彼の名か。オズワルは振り向きざまに銃のことに気づき、慌てて格子から離れた。

「お見事」

 小声で称えるも、若手の彼フェイール先輩オズワルに睨まれ委縮していた。後輩に指摘を受けたのが不満らしい。の先輩のようだ。

「気を付けろ」

「すいません」

 マニックスが諫めたことでその場は納まった。

「…何か飲みます?」

 もう一人の保安官が提案した。彼の名前はまだ分からないな。

「頼む」

「入れましょうか?」

「お前はそこを離れるな」

 立ち上がろうとしたフェイールを止め、保安官は奥へと消えた。

「僕にももらえる?」

 わたしは、マニックスに言った。

「は?何を言ってるんだ」

「喉が渇いちゃってね」

 これは本当だ。

「せっかくの酔いを醒ますのは残念だけど、もうそうも言ってられないし」

「ちっ。用意してやれ」

 奥の保安官に命じるマニックス。一応、その辺は尊重してくれるようだ。しばらくして、盆を持った保安官が戻り、同僚にカップを配る。銅製のカップだろうか?

「ほら」

 最後にわたしにカップを差し出した。わたしのは木製だった。

「僕はクラウン。君は?」

「…」

 格子の隙間からカップを受け取る。

「ありがとう。サンディ」

「え!」

 驚くサンディに、わたしは胸の光るバッジを指した。保安官バッジのようだが、わたしもよく知る星型ではなく、映画のフィルムを思わせるデザインで、中央に名前サンディが彫られている。

「読み方合ってるよね」

「…」

 合ってるようだ。どうやら、わたしのでの読解力は問題なさそうだ。わたしは座り直し、カップに口を付けた。中身は注文通り水であったが、これもわたしののようだ。

 全員がただカップを口に運ぶ時間が続いた。会話も特になく、その中でもフェイールは目に見えて居心地が悪そうに見えた。先輩たちとはまだ上手く打ち解けていないようだ。

 やがて、外から蹄の音が聞こえてくる。しかもひとつではなく、複数だ。金属が擦れるような音も混ざっている。馬車だろうか?解放の時が来たと知るや、フェイールは勢いよく立ち上がった。馬車は事務所のすぐ目の前で止まったようだ。やがて、使いに出た保安官に誘われ、初老の男が付き人らしい男を連れて入って来た。

 彼が、村長のようだ。

「この男か」

「こんにちは」

 とりあえず、まずは挨拶だ。

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