完璧王子(前世陰キャ)と聖女様(悪役令嬢)

ネコさん

断罪そして、婚約発表

豪華に彩られた講堂。

私はそこでひざまずきながら目線を真っ直ぐむけている。

目線の先である奥中央の台の上には、この国のトップ3が立っていた。


右に氷の空気を纏う宰相ブルース・ローズレット、左には大きな剣を鞘にいれ腰に携えているイエロス・ホワイニクル、そして真ん中には王冠をかぶり王としての威厳を持ち合わせながらも穏やかな目で私の事を見る父でありこの国の王、ケストロン・フォン・ミラゴットの姿があった。


ケストロンが立った瞬間、それを見た貴族は王に向かってひざまずき、イエロスは剣を天井に向かって突き上げ、ブルースは王から王冠をもらい受けた。


そのまま私に向かって歩き始め私の頭に王冠をのせた。



「今ここにミラゴット王国の王権をケストロン・フォン・ミラゴット国王からノラカロン・フォン・ミラゴット王太子に譲渡したことを宣言する。」



その宣言と共に会場には大きな拍手が巻き起こった。

私は頭に王冠をのせたまま立ち上がり皆の方を向いた。

皆が笑顔で私の即位を祝福してくれている。


ああ、昔の私がこれを見たら驚くだろうな。

昔は大変だった。

よく改善したものだ。

けどなおってないところもあるな。


私を見る目は主に五種類あった。


ニヤニヤし何か企むもの。


目を細め嫉妬や殺気丸出しの視線を送るもの。


私の容姿や地位に目がくらみ王妃の座を狙うものの媚びへつらうような笑顔。


この三種類はあまり気にしなくていい。


彼女の為に耐えることだってできるし潰すことだっていつでも可能だ。


問題はあと二種類。

表面上では目を潤ませ私の王位獲得を喜んでいるが本当は何を考えているか全くわからない笑顔を仮面として顔に張り付かせている。


平たく言えば腹黒な人。


一番苦手なタイプ・・


この前父上に相談したら

そのような者達は決して主を裏切らない、だからこそ真の王はそのような者達が味方するのだ。お前もまだまだ未熟だな。ふぉふぉふぉ。

なんて言われたよ・・


実際その通りなんだけどさ。


ローバニスもなに考えてるかわからないんだもん。


たまに くくく・・・ って笑ってるし。


ほんと味方じゃなかったらと思うとゾッとする・・


ちなみにブルースもこのタイプだ。


まあ親子なんだから当たり前か。


でもヴィアニカルが 特性腹黒 じゃなくてよかった~


そうじゃなかったらこんな簡単には騙せなかったと思うしね。


そしてもう一つの視線はまっっったく悪意を感じられないとっっっっても純粋な感情を抱いたもの。


この視線は主にイエロスから注がれる。


別に俺はおじさんに好かれても嬉しくないのだが・・いやこれでよかったのかもしれないな。


彼女以外の女からこんな目で見られたら気持ち悪い。


純粋な好意ということで強く跳ね返すことは出来ないしな。


ある意味一番めんどくさい感情だ。


だからこの感情を私に向けてくれるのは一人でいいんだ。


学園で出会い一目惚れした彼女だけ。


もうそろそろで私の手の中に入ってきてくれる彼女だけ。


けど君はいつも嫉妬と殺意の入り交じった視線を彼女に投げていたね・・


どうして・・君とはよき理解者でありたかったのに・・


この前彼女を殺そうとした。


許せない。


自分のなかでどす黒い感情が炎のように燃え上がったのを感じたよ。


今までは転生者として自分の境遇を何とか変えようと必死に動いているのを見て同情して見逃してあげていた。


いや、私は人を殺したくなくて目を背けていたんだろうがな。


転生者だから、という謎の安心感、いや油断のせいで彼女を危険にさらしてしまった。

私のどす黒い感情は油断した自分への怒りと君への怒りで分かれている。


まだ環境が整っていなかった。


君を悪役令嬢として見事に断罪するための。


そして学園のマドンナと呼ばれ私が手に入らなかった恨みから前世の私を殺した殺人犯、入花夏樹として罪を償わせるため。


ごめんね、僕は彼女を守るためならなんだってするって決めたんだ。


彼女に危害を加えるのであれば秘密裏に殺し、それが法に触れるのであれば王になって法律を変える。

嬉しいことにいまの私にはそれを実行できる地位も権利もある。


今日、君を断罪するための環境がやっと揃ったんだ。


彼女には長い間ずっと待たせてしまった。

私はその二人を探していると彼女と目があった。


私は彼女に微笑むと優しい声で呼んだ。


「ダリア、こっちに来なさい。」


私は手招きした。

おやどうしてヴィアニカル、君がそんなに悲しそうにうつむくのかな?


君は何度も私を殺したではないか。


「はぁ~い。ノラカロンでんかぁ~。」



両手を頬にあてくねくねしながらダリアが来た。


ダリアは髪も目も茶色だ。


この世界では珍しい。


あれは・・小顔ポーズというものだったかな?


あっちの世界しかないと思っていたが・・


ふ、やはり彼女は面白いな。

ダリアは私の元に着くと抱きついてきた。

本当に積極的だな。

まあいい、あとで考えよう。


「王となって初めての命令を出させてもらおう。」


今日は王権譲渡式。


国中の貴族や各国の重鎮達が集まり私が王になるのを見届けてくださる。


けれどそんなお祝いの空気は一瞬で消えた。


私のあの低い声を聞けば誰でも感じるだろう。


皆が息を飲んだ音が聞こえた。


だが、いまの私にはそんなのどうでもいい。


私はこの日をいつから待ち望んだことか。


「ダリア・オレンジェット男爵令嬢。君を公爵令嬢殺人未遂の犯人として身柄を拘束させてもらう。兵士よ、彼女をとらえよ。」


命令を下した瞬間人混みからばっと兵が出てきた。

出てくるのが遅いな、あんなに時間を与えては犯人は逃げてしまうだろうに。

少し配置場所を変える必要がありそうだ。


でもまあ彼女は唖然としてるし今回は良しとしよう。


「もう一つ、私は今ここにヴィアニカル・フォン・ローズレット公爵令嬢との婚約を発表する。」


最初は呆然とし、静まり返っていたが暫くするともしかすると先程よりも大きいのでは?と思うほどの拍手が鳴り響いた。


後ろから殺気を感じる。


恐らくローズレット公爵だろう、全くあの人の親バカには困ったものだ。


婚約の申し込みの時だって最終的には承認してくれたがずっと睨まれたいた。


ふと見ると焦った様子のヴィアニカルとまた目があった。


ちなみにヴィアニカルのことをアニと言っている。


「ごめんね、君を手に入れるために外壁は埋めさせてもらった。私から逃げることはできないよ。」こんな思いも込めてもう一度アニに微笑むとアニはキョトンとした眼差し(矢)で私の胸を貫いた。


か、可愛すぎる・・・


私は崩れ落ち口から血を吐くと命絶えた、心の中で。


自分を奮い立たせると、私は両腕を押さえつけられ床にひれ伏した彼女に近づいた。


これがダリアとの最後の会話になるだろう。


彼女のためにも僕、昴(すばる)のためにも・・



「どうして・・わたしはヒロインなのよ・・・どうしてノラカロン王は私に一目惚れしないの?今日の王権譲渡式で婚約者として発表されるのは私の筈なのに。拘束されるのは悪役令嬢のヴィアニカルの筈なのに。

そういえば最近みんなの様子がゲームと外れてた気がするわね。私が転生者だからだと思ってたけど、私の他にも転生者がいたのかしら。それとも私のせい?」


近づいてみるとダリア嬢はぶつぶつと何かを言っていた。


兵の一方は気が動転したのかとダリア嬢を心配しもう一人は何を言っているのか分からず喋るなと注意するか迷っていた。


無理もない、これは紛れもない日本語だ。


分かるのは私しかいないだろう。



ここは「シンデレラストーリー ウエトリーシリーズ~学園での両片想い~」の世界だ。


彼女が言っているゲームとはこの事だろう。


ゲームのあらすじは、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

平民として生きていた私は実は貴族!?

この国で一番の学校に通うことになったけど授業のレベルは高いし皆からは苛められるしどうしようと悩んでいたとき・・私に王子様が現れたの!

皆の憧れでかっこよくて私も一目惚れしちゃった!

でも本当の王子様で、私とは婚約者持ちの王子と元平民の男爵令嬢という壁がある・・・これからどうしよう・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


という何ともありふれたテンプレ展開。

私がその王子に転生した。


ん?どうして男なのに女性向けの乙女ゲームを知ってるのかって?


うっさい!たまたま妹がしてたのを見ただけだから。


その時に一目惚れしただけだから。


それからというもの、何とか彼女が破滅しないルートはないかずっと試してたらたまたま裏ルートまで攻略対象全コンプしちゃっただけだから。


・・いや、そもそもゲームの世界のヴィアニカルに初恋の一目惚れっていうのがおかしいのか?


まあ妹には

「DT男子高校生の初恋が二次元の悪役令嬢とか乙wwww」

て笑われたけど・・・ファッキュウ


でも仕方ないじゃん!


こっちに転生して学園で出会ったときは心臓止まったよ。


カ・ワ・イ・イ


いや人間という生き物として反則だろ・・・


さらさらロング金髪ヘアーにルビーのように真っ赤に燃え上がる瞳。


更には学園での成績優秀、剣術馬術共に男子生徒にも劣らない。


こんな完璧美少女見たあとに、ヒロインを見てもトキもメキしやしない。


たまにヒロインが俺にベタベタしてきてその時はほんっっっっっとうに嫌だったけどそれを見たアニが嫉妬してほっぺをぷくっと膨らませるのがかわいくてかわいくてその時はガチでヒロインに感謝した。


そんな様子から私が全く自分に興味を示してくれていない事に気がついたヒロインは行動がどんどん過激になっていった。


だからこうして断罪されるのは自業自得だ。


別に前世に未練もなかったし見逃してあげようと思っていたのに。


私はダリアの耳元でそっと囁いた。



「ごめんね、夏樹さん。君を利用させてもらったよ。でも良いでしょ。最近は悪役令嬢の断罪スタートの話が人気なんだって。まあ君は元ヒロインの悪女だけどね。

悪役令嬢や悪女に仕立てあげられた令嬢はざまぁで幸せになるのがお約束だけど、君はどうかな?


本物の悪女、王子に裏切られ闇に落ちる。悪役令嬢に仕立てあげられた公爵令嬢、王子に

助けられ国の母となる。


これが僕の作ったシナリオだよ。この世界は全て僕次第だ。」


「あんた何言って・・・まさか・・・あんた、昴?もしかして・・・作者?」


「・・連れていきなさい。国外追放です。」


私がそう言うと兵は引きずりながらダリアを会場の外に出した。


ダリアは抵抗しながら叫んでいたが髪を引っ張られた瞬間、大人しくなった。


本当は私が殺気を出したんだがね。


「ダリア嬢。君は惜しい点まで来たのにね。私は作者は作者だけど・・・世界の作者だ。」


最後の一言は使徒語で話したため、私達以外は誰もわからない。


私の呟きは疑問に思ってはいけないという暗黙の了解の元、闇に溶け込んだ。


それから一年後学園を首席と、副首席で卒業した私達は王宮で披露宴を挙げた。


私の隣にいるのは悪役令嬢ヴィアニカル・ローズレット。


彼女は悪役令嬢でありながらも自分の運命に抗い、ヒロインという立場を得た。


悪役令嬢がヒロインに、これこそ本当のシンデレラストーリーだと思わないか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから一年後学園を首席と(私)副首席(アニ)で卒業した私達は王宮で結婚発表をした。


国民”は”笑顔で祝ってくれた。


ブルースとローバニスは周りに気づかせないようにしながら私だけに殺気を当ててきた。


アニコンどもが。


父上は泣いた。


まあ家は母上が居ないから父上が愛情注いでくれたしな。


泣くのは当然か、もし自分の娘が結婚するって想像してみたら考えただけで私も泣きそうになる・・・


イエロスはメイド長メリッサに一時間かけて整えた頭を十秒で壊した。

死刑確定じゃん・・イエロス・・御愁傷様です・・・


メリッサは鬼のように怖い。


父上の恐れるものを聞くとメリッサだそうだ・・・


・・・テンション落ちてきたから話題変えよう・・・


アニの花嫁姿めっっっっっっちゃ可愛かった。


真っ白のドレスにフリフリのリボン、色んな色の真珠のついたドレス。


メリッサの最高傑作です!!


メリッサマジ神!!


アニはもっと質素でいいと何回も言ってたけど、幼い頃からアニのことを見てたメリッサが断固として譲らなかった。


本当はルビーやサファイア、真珠をつける予定だったらしいけど折れたアニがそれだけは頑張って拒否してた。


私はドレスの費用として白金貨十枚(十億)ほど用意してたのに・・


そんなにいらない!代わりに福祉に寄付してほしいとのこと。


うん!謙虚で国民のことを第一に思っている私の婚約者最高!!


ちなみに日本円で言うと九億五千万以上を寄付した。


王家のドレスの最低金額が五千万ぐらいだからな。


けれどアニのドレスは五千万とは思えないほど輝いていた。


私はアニが輝いているんだ!と主張してみるもののスルーされた。


だってアニは精霊の愛し子だから精霊が見える俺には物理的に光って見えるんだもん。


アニに聞いたら今回の披露宴に精霊達も力を貸してくれたらしい。


そのお陰もあり披露宴は完璧に進んでいった。


最後に精霊達からはローズの花びらが降ってくるというサプライズプレゼントを貰った。



そのあとは王宮に入って親しい者だけで結婚式をした。


俺の提案でブーケトスも再現して貰った。


すると取ったのは意外にもローバニスいや義兄さんだった。


そういえばこの前ホワイニクル家の令嬢とお茶してたな。


あいつのあんなに輝いた笑顔久し振りに見たな。


「その花束を新婦から受け取った人が次結婚するって言われてるんですよ。マーガレット・ホワイニクル嬢と仲良く、お幸せに」


私はローバニスの耳元でそう呟くと知らなかったのか顔を真っ赤にして硬直した。


マーガレット嬢が心配してローバニスの顔を覗こうとしたら顔をぐいっとそらしていたのでやはり彼女に気があるのだろう。


「マーガレット嬢。腹黒で何を考えているのかわからない彼ですけどどうか末長くよろしくお願いします。」


「?はい、かしこまりました・・?」



最後の方は疑問形であったが言質は取った!


謎の達成感に浸っていると前ではローバニスに胸をグーパンされ後ろからはアニに服をくいっと引っ張られ、上目使いをもろに食らった。


心臓に悪い、どちらの意味でも・・


そのままガヤガヤと楽しい雰囲気のまま結婚式が終わった。



一年後、私の元にある2つの知らせが届いた。


ローバニス義兄さんとマーガレット嬢の結婚式の日程が決まった。


そして第一王子であるヴィアロン・フォン・ミラゴットが無事に産まれ母子ともに健康だという知らせが。



                  







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