第6話:Take out

「あ、そろそろ待合側の清掃お願いしても」


"♪〜♫"


『いらっしゃいませ〜』


あぁ"!!もう!!!何度言えばわかる!その間延びした挨拶!!。

いゃ、てか、あと1分しか時間ないんだから他のバイトくんであれば

いつもお客さまを追い返すところを、いつものやる気ない態度にしろ

きちんと接客してんだから、他のやつに比べたらだいぶマシか。。。


「お決まりでしたら、メニューお伺いいたします!」


なんでギリギリに来んだよ。

内心毒づきながらも表面上は世間でいう営業スマイルだ。

何年外食チェーン店で働いてきてると思ってんだ。

コロナだなんだって、今までの接客を疎かにするつもりはない。

調理場から明らかに閉店準備中です!こちら側でも作業している人物が

おります!!と、バックヤードとの間の小窓からでは裏側の作業状況が

見えなくとも察していただければと声をかける。

大概のお客さまは、きちんと気持ちを理解してくださるものだ。


『唐揚げを1 バケット。』


商品をお渡しする小窓から見える会計の風景。

スーツの胸元から長財布を取り出しながら、発せられた声

どこかで聞いた気がする

顔をチラリとみてみたが、既に財布をしまう最中であった事と、

俯いていた事、小窓からの角度が悪く誰だったのかは窺い知れなかった。


似たような声なんて、この世の中にごまんといるし。。。


気のせいだと

タイマーをセットする。

暫くは時間がかかるから、明日に利用するキャベツでも刻んでおこう。

やならければいけない仕事はたくさんある。
















"♫〜♪"


『からあげバゲットのお客さま〜』


出来上がったタイミングでバイトくんがお客さまを呼び、会計を始める

お箸は何膳か、タレはどちらがよいか、間延びした喋り方は相変わらず

だが、入ったときに比べてかなり成長したものだと感心しながら

お客さまへお渡しするためにしっかりと油を切り、ボックスへ丁寧に詰め

輪ゴムをする。


『ここの唐揚げは、何かこだわりがあるんですか?』


『え。。。えーっと、こだわりっスか〜ぁ?』


「何か気になることがありましたか?」


適当な態度でも、根はしっかりした子だ。

最近の子は、愛想笑いしたりスルーしたりするけれど、

この子はやる気がないように見えて、しっかり相手と対話しようとする。

いつもモタついて言葉にならない状況をフォローしてあげているが、

苦でもないのが不思議なものだ。


ちなみに、フォローしてもらったと認識は一切ないようで、

一度もお礼らしいお礼を言われた記憶はない。


「何かお気づきのことがあれば、今後のためにも教えてください。」


『いゃ、チェーン店のはずなのに、ここの店舗は他とは違うので

何か違う工程でもあるのかと思い。。。』


「特に、何もないですよ。

指定されている方法でマニュアル通りです。

チェーン店で違いが出ないように、弊社は努力しています。」


『。。。。あ、あぁそうですよね!とんだ失礼なことを!!』


「いえ、こちらの店舗を褒めていただき、有難うございました。」


『こちら、商品です。ありがとーござっしたー』


差しあたりない返答に対して差し当たりのない会話。

調理場の向かい側で聞いた慌てたように裏返った声は

どこかで聞いたような気がしたが、思い出せなかった。
























『唐揚げが食べたくなったら、また来ます。』









洗い物をしている背中越しで、

本日最後のお客さまが当店のドアを出ていく音がした。


.






















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