第19話

ハリー殿下が断罪された日から二年近くが経過した。


学園主催のパーティーの翌日ハリー殿下は学園を退学になり、そして辺境地に送られたそうだ。

第一王子として生を受けて、王太子として甘やかされて過ごした時間が長い彼が厳しい生活に耐えられているのだろうか。

仕方ない事ですが元婚約者としての情が残っていたのでしょう、少しだけ可哀想に思えました。


「またハリー殿下の事を考えているの?」

「ごめんなさい」

「いや良いよ」


大切な婚約者と過ごしている時間なのに他の男性の事を考えてしまうとは失礼過ぎる。

考えていた事を中断してカイに向き合う。


「もうすぐ結婚だね」

「そうね」


笑顔の彼に笑って返す。

あと数ヶ月もしたら私は学園を卒業する。卒業後すぐにカイと結婚する事になっているのだ。


「でも良かったの?」

「なにが?」

「結婚式に彼女を招いて」

「マイラの事ね。当たり前じゃない、友達だもの」


パーティーの後、私はマイラと友人になった。

話してみれば結構面白い子で、平民という事で私の知らない知識をたくさん持っていた。

今ではすっかり仲良しです。


「アイリスが良いなら僕は良いけどね」


紅茶を飲みながら笑うカイ。

二人の間には穏やかな時間だけが流れていく。


「アイリス」

「どうしたの?」


にっこりと微笑むカイは立ち上がり私の前に跪く。

唐突な行動に私は首を傾げるしか出来なかった。

私の手を握り締めた彼は小さい頃から変わらない笑顔を見せてくる。


「愛している。僕と結婚してくれるかい?」


どうして今のタイミングなのだろう。

既に結婚するつもりで婚約しているのに。

そんな無粋な言葉は飲み込んだ。


「ええ、もちろん。私も愛しているわ」


彼の手を取り笑いかけた。

触れるだけのキスを贈られて、頬が熱くなる。

抱き締められて、安心する。

ハリー殿下が婚約者の時には思わなかった事が頭の中を占領する。


「ねぇ、カイ」

「なに?」

「私、幸せよ」

「ああ、僕も幸せだ」


私は貴方の側にいる事だけには執着してしまうでしょうね。




数ヶ月の時が経ち、アイリスとカイの挙式は無事に催された。

そこには友人となったマイラの姿があり、笑顔で二人を祝福していた。

そして、もう一人。

幸せな二人を遠くから見つめる事だけを許された人物がいた。


平民ハリー。


彼がアイリスの花嫁姿を見つめて流した涙の理由は何だったのでしょうか。


よく考えてみたら婚約者に執着していたのは──。


~ fin ~


**********

本編は終了です。番外編を書いていきます。

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