幕間2※マイラ視点

私の名前はマイラ。

平民なので家名をもたない。

父は農業をしており、母と兄は父の手伝いをしている。

自然に囲まれた田舎で過ごしていた私は王都に強い憧れを持っていた。ただ田舎娘が王都に行くというのは非常に大変な事。夢を持ちながらも諦めた気持ちでいっぱいだった。

そんな叶わないに等しかった夢を叶えてくれたのは父である。

私が生まれた時からコツコツと貯めていたお金を使って王都の学園に通わせてもらえる事になったのだ。


王都から遠く離れた田舎から出てきた私には当然のように友達が居なかった。都会の人とは話も合わない。友達も出来ないまま入学してから一ヶ月が過ぎてしまった。

学びたい事は学べている。それだけで幸せなのだと言い聞かせていた時だった。

ハリー殿下と出会ったのは。


勉強の息抜きに立ち寄った中庭。ぼんやりと眺めながら歩いていたせいで躓いて転んでしまったのだ。そこに偶然立ち合わせたのがハリー殿下だった。


「大丈夫?」


キラキラした本物の王子様。

絵本で見た事があるような素敵な容姿に目を奪われた。


「捕まって」


伸ばされた手をおそるおそると掴むと引っ張られて立ち上がる。


「ああ、スカート汚れちゃったね」

「そうですね」


ドキドキした気持ちを抱えながら目を逸らすとスカートが土埃まみれになっていた。

王子様の前で酷い格好だと苦笑する。


「使って」


差し出されたのは田舎娘でも分かる程、高そうなハンカチだった。王族の物を汚せるわけもなく首を横に振って拒否をする。


「大丈夫です。適当に払っておけば問題ありません」


にっこりと笑いかければハリー殿下は少し考え込むような仕草をした。

失礼な事をしてしまったかもと謝ろうとした瞬間。


「君となら仲良くしてやっても良い」


そう言われた。

言っている意味はすぐに理解する事が出来た。しかし人を見下すような態度に妙な違和感を感じる。

確かに彼は王族で偉い立場の人間だ。偉そうにするのは当たり前の事かもしれないけど、それでも別の言い方をして欲しいと思った。


「聞いてるのか!」


黙り込んだ私に無視されたと勘違いしたハリー殿下は怒った表情する。

王族の反感を買う事ほど怖い事はない。


「僕が仲良くしてやるって言ってるんだ!」


ハリー殿下は絵本に出てくるような王子様じゃないのね。ショックを受けながらも頷く。

平民である私に拒否権は存在しなかったからだ。


「はい。よろしくお願いします」


頭を下げれば満足気に笑うハリー殿下。

どうしてこんな事になったのだろうか。


「君の名前は?」

「マイラです」

「家の名前は?」

「ありません。私は平民ですので」


だから放っておいてください。

そんな気持ちを込めて言ってみたが彼にとって身分はどうでもいいものだったらしい。


「ふーん。僕は優しいから平民でも仲良くしてやるぞ」


平気で平民を蔑む貴族は多い。

そう考えるとハリー殿下は優しい方なのかもしれない。

態度の悪さは他の貴族と変わらないけど。


「ああ、そうだ。僕の名前はハリー!王太子だ!とっても偉いんだぞ!」


頭が悪そうな挨拶は見ていて気分が良いものではなかった。

しかしそれを言えるわけがない。

黙ってニコニコしているのが一番良い逃げ道だった。


田舎者の私は貴族社会についてかなり疎かった。

ハリー殿下に婚約者がいると知ったのは彼と仲良くするふりを始めてから二ヶ月が経過した頃だった。

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