よく考えたら婚約者に執着する必要ないですね?

高萩

本編

第1話

私アイリス・シーモア公爵令嬢は苛ついていた。

原因は婚約者である王太子ハリー・エドワード殿下が自分を蔑ろにしている挙句、平民少女のマイラを気にかけているからだ。

貴族社会は望まない結婚ばかり。それでも決められた相手を大切にするのが決まり事だ。それなのにハリー殿下は自分を大切にしない。それも全部マイラが悪いのだ。


学園のテラス席。

遠くの木陰にはハリー殿下とマイラが仲睦まじそうに寄り添い合っているのが見える。

あれで隠れているつもりなのだろうかと呆れてしまう。


「アイリス様。あの女どうしてやりましょうか?」


自称私の取り巻きの令嬢が尋ねてくる。

どうしてやるもなにも人の婚約者に手を出す事の恐ろしさを分からせてやるしかないだろう。


「まずは無視からかしらね」

「それは良いですわ」


無視とか幼稚な真似はしたくないけど人の婚約者と仲良くする女と話したいとも思えない。

無視をするというよりも話さないようにすると言った方が正しいだろう。


「それだけでは効果がありませんわ」


別の自称取り巻きが尋ねてきたのでどうしようかと悩む。確かに無視だけではマイラは反省もしないだろう。


「無視する前に人の婚約者に手を出さないように言うとか」

「それも良いですわね。強めに言いましょう」


いや、これ結構普通の事よね。

やっちゃいけない事を注意する事のどこが苛めになるのだろうか。


「それだけでは足りませんわ」

「そうです、そうです」


ほか二名の自称取り巻き達が煽ってくる。

そう言われても他にやる事などない。


「アイリス様、賢明なご判断を!」


この人達、私に苛めをさせたいのね。

王太子の婚約者というのは面倒なものだ。

望んで婚約したわけでもないのに妬まれ今のように自分を陥れようとする人間達に囲まれる。

よく考えたらハリー殿下の婚約者に執着する必要はあるのでしょうか?

いや、ないですわね?


幼い頃より王太子の婚約者として厳しい教育を受けてきたが何度も逃げ出したいと思ったし、妬まれ悪口を言われるたびに何度も泣いた。誘拐だって何度されかけた事か。

正直なところハリー殿下の婚約者になってから心がズタボロにされた記憶しかない。それにハリー殿下が私に優しくしてくれた事は一度もないのだ。

今だって自分を蔑ろにしている挙句、平民少女に構っている。

そんな人間の婚約者を続ける理由はない。


「もうやめましょうか」

「え?」

「どうされたのですか?」

「失礼します」


付いてこようとする自称取り巻き達もとい私を陥れようとする人達から逃げて一人になる。


「もう婚約解消してしまいましょう」

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