第6話 放課後は部室でホノカとデート

 やっと放課後になった。

 どんなに待ちわびた事か。


 ホノカに、僕の城を披露するのだ。


来間くるまくん。部活?」

「そうだよ」


 小早川さんがそんな僕の邪魔をする。

 しかし、ホノカが何故だか小早川さんを気に入っているので、邪険にもできない。

 僕の胸ポケットのボールペン型カメラで恋人にしっかり見られているのだから。


「この学校、部活に入らないといけないんだよね?」

「うん。校則だからね」


「そうなんだ」

「迷ってるなら、適当な文化部に籍だけ置いて、幽霊部員になれば良いよ。そうしているヤツも結構いるみたいだし」


 スマホがブブブと震える。

 チラリと確認すると、ふくれっ面のホノカさん。

 しまった、セリフの選択肢をミスったらしい。


「小早川さんはまだ編入して1ヶ月経たないんだから、色々見学とかしてみたら? 先生も別に急かしたりしないと思うけど」


 これならどうだ。

 もう一度、ホノカさんチェック。


 満面の笑み! なんて可愛い!

 ルート分岐に成功した模様。


「そうだね。ありがとう」

「別に、お礼言われるほどの事じゃないよ。じゃあ、僕は行くから」


「うん。また明日、来間くん」

「ああ、うん。またね」


 毎日、おはようとさようならだけはきっちり挨拶してくれる小早川さん。

 どうしてなのかは分からないけど、多分、アメリカではそういうフランクな感じが一般的なんじゃないかと、勝手に自己完結しておいた。


 別に、まったく興味がないので、それで問題ない。

 そんな事より、僕は城へ急がねば。


 ホノカは驚いてくれるだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 現在ボールペン型カメラのレンズを塞いでいる。

 午前中にトイレへ行った際、『女の子に男子トイレを見せないでください!!』と強く怒られたので、以後、トイレに行く際には映像を遮断する約束が交わされた。


 そして、今僕は、「トイレに行く」と言って、繰り返すがカメラを塞いでいる。


 トイレになんか行っていないのに。

 僕も悪い男である。

 でも、世間では少し悪いヤツの方がもてはやされるらしい。

 三次元にもてはやされても何も感じないが、ホノカともっと仲良くなれるなら、僕は悪者にだってなる構えだ。


 さて、部室に入った事だし、そろそろ良いだろうか。


「ホノカ。ちょっと見てごらんよ」

『もうおトイレは済んだんですか? ……わぁ! なんですか、ここ!!』


 もう部室に着いたのだから、こそこそする必要もない。

 ポケットからスマホを出して、ホノカを自由にしてあげる。


「ここはね、文芸部の部室だよ」

『文芸部、ですか? あの、一般的には文芸部は、読書や小説などの創作活動をする部活動だと思いますけど。明らかに文芸部らしからぬものが』


 ホノカの指摘は実に正しい。

 本棚には、古今東西の漫画やラノベ、アニメのDVDやゲーム雑誌。

 逆側には大きな液晶テレビと、これまた古いものから最新のものまで、多くのゲーム機とそのソフトが並べられている。


「僕だけの秘密の部室なんだ。ここなら、放課後、ホノカと一緒に色々できるよ!」

『大晴くん! 学校にこんな場所を作るのは、不良のやる事ですよ!』


 ホノカはどうも、事あるごとに僕を優等生にしたがるきらいがある。

 ただし、今回の僕は優等生ではないけれど、不良でもない。


「ふふふ。この文芸部の部室、そしてこの設備。全部学校は認めてくれているんだよ! 公認されてるんだ! ほら、今年の生徒会の認証書類もここに!」

『むーむー。……本当ですね。偽造の可能性も疑いましたが、正式なもののようです。どういうことですか? ホノカの文芸に対する認識が崩れていきます!』


 それは大変だ。

 これ以上もったいつけて、ホノカに不具合が生じたら切腹ものの失態。


 僕は速やかに種明かしをした。


「今年の春卒業した先輩の私物なんだよ、この部屋のものは全部。で、その先輩、僕が卒業するまでの間、文芸部の存続を校長だか教頭だかに認めさせたんだって」

『そんな事が可能なんですか? 確かに、私立の高校ですから、ある程度の自由は認められるかもしれませんが』


「先輩の家、なんとか言う会社の社長なんだよ。それで、学校にも多額の寄付金を納めてる、とか言ってたかな。その辺は僕もよく分かんないけど」

『なるほどー。一応、筋は通る説明です』


 半信半疑の様子なホノカさん。

 それでも、整合性のある僕の説明にこれ以上の異は唱えない様子。


「生徒会の監査もちゃんと受けてるし、合法的な部活だよ!」

『大晴くんがそう言うなら、わたしも信じます! それにしても、変わった先輩に好かれていたんですね! ……むぅ、もしかして、女の子ですかぁ?』


 僕はしっかりと首を横に振る。

 これ以上ないくらいの綺麗な否定のジェスチャー。


「まさか! 僕が三次元の女子に興味ないことくらい、ホノカも知ってるじゃないか!」

『そうですか! わたしは実は自分が2号さんなのではないかと、少し心配してしまいました!』


 1号とか2号とか、そんな俗っぽい表現はホノカには似合わないなぁと思った。

 ネットワークで拾ってくる知識と言うのも、良し悪しである。


「何か興味の惹かれるものってある? 今日は一緒にそれをしよう!」

『あー! だったらわたし、BLEACHが読みたいです! 大晴くんが好きだって話してくれていた漫画ですよね!』


「マジで!? 嬉しいなぁ! それだったら、電子書籍版が全部こっちのタブレットに入ってるんだけど。どうしようか? 僕のボールペンカメラで読める?」

『ご心配なく! あの、ここってネット環境は?』



「Wi-Fi完備だよ! 当然!!」

『わぁ! さすがです、大晴くん!』



 ホノカは、目を閉じて何やら難しそうな、と言うか日本語ではない、むしろ人間の言語かも怪しい呪文を唱えている。

 可愛いから、それが仮に火星語とかでも僕は一向に構わないけど。


『同期が完了しました! これで、大晴くんがページを捲るのに合わせて、一緒に読めますよ!』

「ホントに!? うわぁ、彼女と漫画を一緒に読むとか、夢みたいだ!」


 それから1時間半くらいだろうか。

 作中で卍解が登場するくらいまで読み進めたところで、僕の夢のような時間を妨害する、面倒なイベントが発生する。


 しかもこれが、負けイベントなんだから嫌になる。



「こらー! 開けなさい、来間くるま大晴たいせい! いるのは分かってるんだからね! 御用改めである! いつも言っているでしょうが! 部室に鍵をかけない!!」



『大晴くん? 女の子に呼ばれてますけど? 大丈夫なんですか?』

「うん。平気、平気。しばらく無視しとけば、諦めて帰るかもしれないし」


 こんな時に、希望的観測が叶う機会の少なさは異常。

 負けイベントが終わったら、ホノカにこの現象についても質問してみようと思った。

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