第2話・物語の中で転生する奴は頭が良いけど……

 ラノベの主人公は転生後、よく現代の知識を使ってとんでもない産業革命を起こしたりする。

 冷静に考えてみれば、アイツら詳しすぎるんだよな、色々と。

 でも俺は下っ端のサラリーマンで、技術力のある職人ではない。

 当然、この異世界で再現できるような知識なんて持ち合わせていない。

 というか、この世界は産業革命なんか起きる前に魔法で解決できてしまうからな。

 むしろ変な発想でもして魔女裁判にでもかけられたら、子供というだけで詰んでしまう。

 だから、大人しくしておこう。


 ウチは農民。

 元々農民というわけではなく、両親が結婚した後にここに住み着き、収入を得る為に農業を始めたのだ。

 田舎だが、ある程度資産がある為、貧困というわけではない。むしろ裕福な方だ。

 父の金髪マッチョメン、アルハスは元聖騎士。見た目以上の筋力で、とんでもなく重く大きい大剣を片手でブン回す強者だ。その剣のサイズ感は某ゲームの大剣よりやや大きいくらいか。

 退役した今でも、騎士がたまに我が家を訪れるくらいには慕われていたらしい。実際、村の人々にはかなり慕われている。女性陣はワーキャーワーキャー。既婚者の男にお熱い事だ。

 灰髪の母、ナリアは元魔術師。といっても戦闘系じゃなくて、学者の方だったという。色んな魔術を研究していて、騎士団の講義の時に父と出会い、結婚に至った。

 今でこそ農民やってるけど、二人して元貴族。跡継ぎ問題とか色々と面倒なしがらみから逃れる為にこの村で生活しているんだとか。3歳の子供によくこの説明が通ると思ったな。

 二人共、元日本人の俺から見ても、良識のある大人だと思う。この二人なら素直に従っても問題無いだろう。

 とりあえず、年齢が一定になるまではこの村で生活していよう。

 実家暮らしができる内は、余計な事は考えず、遠慮なく自分のスキルを磨くのが得策だと見たね。


 俺は2歳の誕生日まで無名で過ごした。それは宗教上の伝統らしい。

 2歳になると名を授けられるそうだ。俺は無信仰だが、両親の意思を尊重して、名付けだけは教会でしっかり手続きを取ることにした。

 そうして授けられた俺の名が、ソロバルト、という。

 英雄の騎士ソルバレアと、同じく英雄の魔術師ハンバート。

 そこに倣ったらしい。直接くっ付けると安直すぎるので流石に弄ったらしいが。

 どの道を選んでも、上を目指して突き進めるようにと。

 ちなみに名付けられてすぐ、ソル、と略された。

 と言う事で、父アルハスと母ナリアの間にソロバルトという少年として過ごすことになった。


 3歳になって二月くらい。

 俺は両親にコソコソ隠れてトレーニングと勉強を始めた。

 まずはスクワットとも言えぬ、ただの立ちしゃがみ。

 足腰は全ての基本。

 車なんか無いこの世界では歩行が多いはず。鍛えておいて損は無い。

 子供の身体は成長が早く、始めてすぐに同年代の子供と比較して足腰が強くなった、と思う。ダッシュめっちゃ速くなったし。

 それから、段々と魔法と武術の練習が始まった。

 武術だ。日本でいう武道とは違い、敵を倒す為のすべと言えるものだ。

 といっても、一般家庭での修練だからな。武器の扱いやら、ステゴロでの立ち回りを一通り聞いたあとは、実践あるのみとボコボコにされる。

 対して魔法は座学メイン。魔力と呼ばれる物を集中させて属性を発生させる。これさえできれば、魔法は使える。ので、詠唱や術式の解剖で仕組みを頭に叩き込めばバリエーションは増やせるみたいだ。しかし、使いこなすのには実践訓練がいるみたいだ。

 但し、魔法は杖がないと使えないらしい。といっても、漫画の杖のような魔石付きでなくとも、木の棒とかでも良いらしい。

 要するに、触媒となれば何でも良いと。魔石があればより強力になるらしいが。

 そこで、ふと気になって聞いてみた。

「じゃあ、剣や槍を杖として使った人もいたの?」

「ん? まぁな。でもオススメはしないぜ。魔法使おうと思ったら詠唱がいるからな。前線で詠唱に集中する余裕なんか無いし、結局魔石がある奴には威力では勝てないし。魔法は後衛やってる奴に任せて、前衛は武器で戦うのが、バランスが良いだろうぜ」

「まぁ、そうだよね……」

 魔法を使う為には、詠唱がいる。詠唱は、先人達が築いてきた魔法の具体的なイメージそのもの。言葉を並べれば魔力を使って誰でも魔法が使えるようにする、画期的なシステムだ。

 ネックなのは、発動するには一言一句正確に発音しなければならない、という事だ。前線で敵がもの凄い剣幕で襲い掛かってくる、という緊張感の中で、正確に詠唱するのは困難だろう。下手な詠唱して不発や暴発なんてするくらいなら、最初から武器のみで倒すのが賢い選択なのは理解できる。

 でも、俺には別の選択肢があった。元日本人ならではの発想というのか。

 そう、魔法を扱う転生物に触れていれば誰でも通る道だ。

 杖なしに無詠唱。

 俺はその研究を始めることにした。




 一方その頃……。

「ねぇアルハス。私二人目が欲しいわ」

「いけないよナリア。まだソルが起きてる」

「大丈夫よ。あの子はもう寝落ちるところだったもの……」

「あ、コラ……、イケナイ娘だな。仕方ない、今日は特別激しくしてあげよう……!」


 両親が色事を開始するのだが、その声が耳に入っても何も思わない自分に驚きつつ、夜な夜な魔法の本を読み続けた。

 何だこれ、ケツを水の魔法で洗って清潔に保ったって。セルフウォッシュレットなんてよく思いついたな。変態じゃん。

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