第2話河川敷争奪戦

「おい!!どけよ、中坊が!!」

「子供は早くどっか行きな!!」

夏休みのある日、ユニフォームを着た高校生二人がバットを振り回して、俺たちを蹴散らす。

群青高校野球部のメンバーは、決まった時間になると強引にこの河川敷を独占する。

俺たち緑丘中学サッカー部のメンバーは校庭が改修工事のため、この河川敷で練習している。

ところが群青高校野球部が先ほどのように、荒っぽいやり方で俺たちを追い出し、野球の練習を始める。ところが野球をしているのは三十分程だけで、後はどこから持ってきたのかお菓子やコーラなどの飲み物を飲食しながらサボっている。

しかも河川敷を出る時にゴミを持ち帰らないので、ゴミを集めなければならないので、満足できるほどサッカーの練習ができないのだ。

「あーあ、今日もゴミ拾いか・・・。」

俺・三階堂強志みかいどうつよしはぼやきながらゴミを集めた。

「本当にあいつら、どっか行ってくれないかな?」

GKの寺戸信二てらどしんじも不満をこぼしている。

「お前達、素晴らしい!!」

突然、河川敷に響いた大声。

俺が声のする方を見ると、お爺さんが堤防を下りて走りながらこちらに向かってきた。

「あんた、誰ですか?」

訊ねるとお爺さんは言った。

「わしは椿山雄つばきやまおというものだ。それよりもお前達、河川敷を掃除するとは素晴らしい心がけじゃ。」

「ありがとうございます、このままだと練習ができないので。」

「お前達、見たところ中学生だな。いつも河川敷で練習しているのか?」

「はい。校庭が工事中で、ここで練習しています。」

「そうか、ゴミ拾いは毎日しているのか?」

「いいえ、土日だけです。あいつらがいなければ、ゴミ拾いしないでいいのに。」

「あいつらとは、何者だ?」

俺は椿に群青高校野球部のことを説明した。

「なんて腐った連中だ、しかも群青高校にいたとは思わなかった。」

「え?群青高校のことを知っているの。」

「ああ、わしの孫が通っているのじゃ。お前ら、困っているようじゃな。」

「ああ、あいつらがいなくなればどんなに練習しやすいか・・・。でも中学生が高校生に勝てるわけねえよ・・・。」

FWの三善速人みよしはやとが言った。

「そんなことはない、やればできる。」

「だから無理なんだって。実はあいつらと一度ケンカしたことあるけど、やられてしまったんだ。」

「ふむ、度胸とやる気はあるようだな。よし、わしが一肌脱いでやろう。」

「椿さん、どうするんすか?」

「わしがお前らのコーチになる。」

「椿さんがコーチ?」

「そうじゃ、わしが味方になってやるからお前らも文句を言うのだ。」

椿さんはすっかりやる気満々だ、俺たち十三人はただ呆然としながら椿さんを見つめた。








来週の土曜日、椿さんがやってきた。

椿さんの指導はスパルタで、自主練よりもきつい練習になった。

練習を始めてから三十分後、群青高校野球部の連中がやってきた。

「おら、お前らどけ!!」

「俺たちの練習の時間だ!!」

ずかずかと歩く連中の前に、椿さんが立ちはだかった。

「ジジイ、そこをどきな。」

「今から俺たちが練習するからよお、どいてくれねえか?」

睨みつける高校生に怯むことなく、椿さんは言った。

「お前ら、ここで練習したければわしをコーチにしろ。」

「ハハハハハ、笑わせるんじゃねえよ!」

「誰がジジイの言う事なんか聞くか!!」

連中は椿さんをなめている、しかし椿さんは連中の一人が持っている大きなカバンを指さして言った。

「お前ら、本当はピクニックに来たんじゃろ。そこにお菓子やらコーラが入っているはずだ。」

「ジジイ、言いがかりつけようってか?」

「言いがかりじゃねえ、俺は見たぞ!!お前らがここでピクニックしているところをな。」

俺は連中に向かって叫んだ。

「そうだそうだ、俺たちは毎回ゴミ掃除しているんだ。自分で出したゴミくらい、持って帰れ!!」

三善も叫んだ。俺たちはこれまでの不満を、大声で連中にぶつけた。

「お前ら、黙らせてやろうか!!」

高校生の一人がバットを持って椿さんに襲いかかった。

しかし椿さんは高校生の攻撃を避けると、手刀で高校生の腕を攻撃した。高校生が攻撃されたはずみで、バットを落とした。

「痛いじゃねえか!!」

すかさず椿さんは高校生の腹にパンチを入れた、高校生は腹を抱えてうずくまってしまった。

「椿さん、すげえ・・・。」

俺たちは椿さんがただのお爺さんではないことを知り、驚きと恐怖で震えた。

「お爺ちゃん、やり過ぎよ。」

堤防からビデオカメラを持った可憐な女子高生が降りてきた。

「あの、椿さんの孫ですか?」

「ああ、孫娘の夏鈴かりんじゃ。学級委員長をしている」

連中は夏鈴の登場に騒めき出した。

「あなたたちのことは、このビデオカメラに全て記録されているわ。あなたたちは、群青高校の恥よ!!」

夏鈴がキッパリと言うと連中は黙り込んでしまい、その後すごすごと立ち去った。








それから毎日の河川敷での練習には、椿さんがコーチとして参加するようになった。

椿さんによると群青高校野球部は廃部になった、前々から素行が悪かったようで夏鈴の撮影したビデオカメラの映像が決め手になった。

そして夏休みの間、俺たちは充実した練習を続けることができた。

校庭の改修工事が終わってからも、椿さんと河川敷で練習をしている。

俺たちは椿さんに感謝することを忘れないと誓った・・・。



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