eleven bullets 変容的作戦

 午後6時50分。俺達はJPSUプレイカンパニーの控室の中で作戦を確認し合っていた。


 今回の試合も出場者は6人ずつ。出場メンバーから落ちたのは児島だ。6人は着替えを終え、装備も準備万端。

「じゃ、作戦通り行こう。相手が格上であることはむしろ私達にとっていい実践相手だ」

 北原が全員にそう話す。今回は北原がリーダーをすることになった。インカムと四点180度式小型カメラを着けた6人は、準備完了であることを北原に報告する。

「エヴァンスチーム、全員確認完了です」

 北原はインカムに報告する。

「じゃ、行こう」

「みなさん、頑張って来てください」

 ぎこちない励ましであることを表すように頬が引きつっている。

「おう。ぎゃふんと言わせてきてやるっ!」

 梁間は自信満々に返答する。6人はフィールドに入っていく。

 扉が閉められた。鈍い音が控室に鳴り響く。俺と児島が控室に残された。

「はあ……」

 児島はあからさまに落ち込んでいる。

「試合に出られないことが悔しいのか」

「まあ、多少は……」

「今回の戦術は遠距離タイプのプレイヤーを自チームフラッグ付近に2人配置し、連続射撃を得意とするサブマシンガンを1人配置。残り3人でフラッグを取りに行く。お前が落ちたのは実力もあるが、戦術的にもお前には不向きだ。試合もこれだけじゃないのは分かってるだろ?」

「そりゃあそうですけど、なんか……チームのお荷物じゃないかなぁと」

「なら、これからしっかり勉強しないとな」


 俺は控室にあるモニターに近づく。控室では自チームのプレイヤーが着ける小型カメラからの映像と、フィールドに設置されたカメラの映像を観ることが出来る。俺と児島はモニターの近くにある椅子に腰かけた。

「うわ、何ですかこれ……」

 児島が驚きの声を漏らす。赤や緑色のライトが回転し、薄暗い室内を照らしていた。

 壁を走るいくつもの配管。建築現場にありそうな鉄むき出しの足場。2階構造で、2メートルの人が軽くジャンプをすれば手が届きそうな場所に足場がある。

 2階から敵チームの陣地にあるフラッグを取りにいくことができるが、逆に2階からの進入に気をつけなければならない。

 つまり、この試合場では左右だけではなく、上からの発砲にも気をつけなければならないということだ。より一層注意力が必要なフィールドだ。

 配管やガラクタの機械などが至るところに点々と置かれ、入り組んでいるようなフィールドになっている。簡単には前に進めない。突然敵と鉢合わせなんてことは容易に想像できた。

 大丈夫なのか……。

 俺はエヴァンスチームが立てた作戦が今回のフィールドには適さないと思い始めていた。


 エヴァンスチームの作戦は、まず先頭に梁間と一条さん。武器は2人ともサブマシンガン。

 その後ろに臼井。梁間と一条さんは互いに左右寄りに配置を取り、敵と交戦し始めたら臼井が間を縫って敵の腹中に入り込み、敵をかく乱。別方向からの弾丸に敵は翻弄され、逃げ場を失う。しかし、逃げ場を失った敵をキルする必要はない。

 フラッグ戦の勝利条件は2つ。

 敵プレイヤーを全滅させること。

 敵陣のフラッグを取ること。

 そのどちらかを満たせば、勝利が決定する。

 敵が下がって体勢を整えようとするなら、それだけフラッグに近づくことができる。

 敵がそのまま物陰に隠れてやり過ごし、フラッグを取りにいくのならフラッグを守衛する3人に任せればいい。

 この作戦のポイントは臼井の動きだ。臼井の素早い動きは走るスペースがあってこそ発揮される。しかし、今回は物が多く配置され、2階へ行けるスペースまである。そうなると、上からも狙われるばかりでなく、無闇に走り回ることもできない。

 今からこのフィールド用の戦術を考える時間もなかった。おそらく、臼井自身は考えてもないだろう。どうする気だ。北原。


 モニターを切り替えると、臼井たちの様子が入ってきた。弾を込める時間の間に臼井達も想定外の状況を話し合っているようだ。インカムに入った声が届いてくる。

「どうする? あの作戦は使えそうにねぇぜ」

 梁間は気の抜けた声で言う。

「いや、基本はあの戦術でいく」

 リーダーである北原が断言する。

「応用するんですか?」

 一条さんは怪訝けげんな声で聞く。

「応用できてこそ戦術だろ」

「私が上に行けばいい?」

 分かり切っているかのように臼井が北原に聞く。

「そうだ。そして滝本。お前も上に行け」

「私もですか?」

「ああ、敵が3人も来たら臼井1人じゃ厳しいからな。一応上にも人員を割きたい。危険そうなら梁間に来てもらう。体力なら臼井と同じくらいありそうだしな」

 北原は笑みを携えて梁間に視線を振る。

「おう! 任せろ」

「じゃ、全員配置についてくれ」


「凄いですねぇ」

 児島は感嘆の声を上げる。

「さすがは大きな大会に出てる経験者だな」

 俺はモニターを見ながら腕組みをする。

「上手くいきますかね?」

「さあな。敵がどう出てくるかで、形勢は大きく変わる」


「両チーム、準備完了の確認が取れました」

 スタッフの声が聞こえてくる。

「カウント開始。5、4、3、2、1……」

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