16.去りしときは同じ

 今日は一人で登校。朝練があるとのことで、さやかちゃんとは別。


 なんとなく朝早めに出てしまったが、特にやることもないんだよなぁと電車に乗りながら思った。


 学校を散歩? 


 家を出た時には晴れていた空が今は曇っているため、きっとそれも叶わないだろう。


 最寄り駅について学校まで歩き始めると、ポツポツと雨が降ってきた。やはり降ってきたか。食堂でお菓子でも食べて時間つぶそうかなぁ。


 食堂には何人かいておしゃべりを楽しんでいた。その中に一人見知った人がいた。


「マグカップ、リストバンド、タオル、キーホルダー……」


 何やらブツブツ言っている。


「一条先輩?」


 私に気付いた先輩は驚いて、ガタッと椅子を鳴らした。

 今ここにいるということは、朝練が雨で終わったんだ。


「あ、あぁ。猫宮か」


 フゥと息を吐いて呼吸を整えてから、不思議そうな顔をした。


「なんで猫宮とは普通に会うことがないんだろう」

「前は図書室でぶつかって会いましたもんね。それで先輩、何か呪文を唱えてたような気がするんですがどうしました?」

「部活のことなんだが、新入部員に何か記念になるものでもプレゼントしようと思ったが、何がいいか分からなくて」


 なるほど、それで色々物が出てきていたわけか。


「誰かに聞いてみたりとかは?」

「あぁ、いやぁ……」


 何か問題でもあるのかな。


「俺がこんなことするの恥ずかしくて、人には聞けずにいて、それを悩んでいるところに猫宮が来たと」


 どうやら先輩にとってはタイミングが悪かったようだ。


「でもこんなタイミングで会ったのも縁だな。どうだ、猫宮なら何が嬉しい?」


 部活関連で貰って嬉しいものかぁ。


「やっぱり、部活で使えるものがいいんじゃないですか?」

「そうだよな。じゃあ、リストバンドかタオルかそんなところか」


 うんうんと頷いて、先輩は急に立ち上がった。


「ありがとう、助かった。調べてみるよ」


 そう言うと先輩は行ってしまった。


 一応役に立てたのかな。


 それにしても、光先輩もだけど一条先輩も風のように去っていくなぁ。


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