13.待つだけ当番

 初めての委員の仕事が始まります。


 放課後、図書室に向かう。春野先輩が今日は教えてくれるらしい。緊張しちゃうなぁ。


 図書室のドアを開け、貸し出しカウンターにいる春野先輩に声をかける。


「こんにちは、猫宮です。よろしくお願いします」


 先輩は何かをしていた手を止め、私を見て言う。


「春野です。よろしくお願いします」


 そして手に持っていたペン立てを落とした。


 ふわっとした先輩のようだ。


 少し恥ずかしそうに咳払いをして説明を始めた。


「今日は、本の貸し出しの説明をするよ。まず――」


 借りる人の学年・クラス・出席番号を聞き、本の裏のバーコードをスキャンすると誰がどの本を借りているかがパソコン上に出る。


 思ったより簡単だ。


「返す本のやり方も簡単だから説明しちゃうね」


 返却に設定された状態で、返却する本のバーコードをスキャンする。


 簡単! 


「それから、その本をこのラベルにあるアルファベットや数字を見て棚に返すだけ」


 その棚を覚えるのが大変なんだけどねと笑う先輩。


「なるほど、なんか出来そうです!」

「それは良かった、あとは実践あるのみだね」


 今か今かとカウンター内で貸し出しや返却を待つ私達。しかし、全然来ない。


「来ませんね」

「うん、ちらっと読みに来る人はいるんだけどね。借りたりする人はいないね」


 そういう日かも、と残念そうな先輩。


 そしてしばしの沈黙。


 暇すぎて、先輩は窓の外を、私は宙を見ている。


「そういえば、猫宮さんはお祭りとかって好き?」


 お祭り?


「そうですね、好きですよ。何かあるんですか?」

「来月、夏祭りがあるみたいなんだよね。行ったりするの?」

「夏祭り、いいですね。行ってみたいなぁ」

「僕も行ったことないんだけど、きっと楽しんだろうなぁ。食べ物とか美味しそうだし」

「分かります。きっと食べ物がメインです」


 そんなのほほんとした会話をした。


 そのまま時間は過ぎていき、図書室から人がいなくなった。


「今日はもう帰っちゃおうか」


 先生に言えば良いって言うはず。そう言って先輩は職員室に行ってしまった。待っている間、もし人が来たらどうしようとドキドキしていたが、そんなこともなく先輩は戻ってきた。


「帰っていいってさ」


 こうして帰り支度をすることになった。


 一緒に図書室を出ようとした時、先輩はこう言った。


「あ、貸し出しの練習、僕でやればよかったんだ」


 先輩、もう遅いです。


 こうして初委員の仕事は終わった。


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